帰宅しても休まらない④
そこから説教が始まった。
ハレは靴を脱ぎ、鞄を置き、見慣れないソファーには座らず、いつもの床に座った。
サラとリオンは、なぜか姿勢よくソファーに座っている。
「まず一つ」
ハレは指を立てた。
「人の家に勝手に入るな」
「はい」
「二つ。鍵を開けてもらうな」
「はい」
「三つ。テレビを勝手につけるな」
「はい」
「四つ。テッテレーを覚えるな」
サラは少しだけ不満そうにした。
「それは、もう覚えてしまいました」
「忘れろ」
「難しいです」
「努力しろ」
リオンが真面目に口を開く。
「ハレ殿」
「何だよ」
「地球側の協力者は、正式な手続きを踏んでいると聞いています」
「俺に無断な時点で正式じゃねぇんだよ」
サラが小さく言った。
「父上が、地球側の協力者の代表と話をしてくださいました」
ハレの動きが止まる。
「代表?」
「はい。私がこちらへ来ること、ハレの保護が必要なこと、それらを正式に伝えたそうです」
「正式にって……俺、何も聞いてないけど?」
「地球側のことは、地球側で整える、と」
「いや、俺に話通せよー」
ハレは天井を仰いだ。
会社に謎の新人が来た。
部長が急に黙った。
部屋は開いていた。
サラとリオンがいた。
テレビが大きくなっていた。
ソファーが三つ増えていた。
テーブルまで機能的になっていた。
地球側の協力者。
王と、その代表。
ハレの中で、嫌な線がうっすら繋がり始めた。
だが、まだ形にはならない。
いや。
形にしたくないのかもしれない。
「で」
ハレは腕を組み、サラとリオンを睨んだ。
「説教はまだ終わってないけど、先に確認する」
「はい」
「泊まるところは?」
サラはきょとんとした。
ハレは指を立てる。
「まさか、ここだとは言わねぇよな」
サラは少しだけ視線を逸らした。
「さすがに、それは父上の許可が出ませんでした」
「だよな」
ハレは即座に頷いた。
「そこだけは王様の判断、めちゃくちゃ正しい」
リオンも真面目に頷く。
「当然です。サラ王女を男性の単身部屋に宿泊させることは、護衛上も体面上も認められません」
「じゃあ今ここにいるのは何なんだよ」
「一時滞在です」
「言い方で逃げるな」
サラは湯呑みを置き、少しだけ名残惜しそうにテレビを見る。
「では、一旦私たちは戻るとします」
「おう。送っていくよ」
ハレは立ち上がった。
「夜だし、神社まで行くんだろ」
サラは首を傾げた。
「神社?」
「戻るんだろ?」
「はい」
「だから星門まで送るって」
サラは少し不思議そうに言った。
「いえ、そこまでではありません」
「……ん?」
サラは玄関へ向かう。
ハレとリオンも続く。
部屋を出て、共用廊下に出る。
サラは一歩だけ歩いた。
そして、隣の部屋。
二〇一号室の前で立ち止まる。
ハレは固まった。
「……おい」
サラは鍵を取り出した。
「こちらです」
「こちらです、じゃねぇよ」
カチャリ。
鍵が開く。
サラは、なぜか少し誇らしげに振り返った。
「テッテレー」
「やかましいわ!」
ハレは即座に叫んだ。
「覚えたての言葉を決めゼリフみたいに使うな!」
サラはにこやかに一礼する。
「では、また明日」
「いや、待て」
ハレは隣の部屋番号を見た。
二〇一。
そして、自分の部屋。
二〇二。
「隣じゃねぇか!」
サラは首を傾げる。
「はい。緊急時にすぐ連絡が取れるように、地球側の協力者が手配してくださいました」
「俺への連絡、近すぎるだろ!」
ハレは二〇一号室の扉を見る。
「……待て」
「どうしました?」
ハレはゆっくり、隣の部屋を指差した。
「昨日まで、ここ住人いたよな?」
「そうなのですか?」
「そうなのですか、じゃねぇよ。いたんだよ。普通におっさん住んでたんだよ。夜中にくしゃみしてたんだよ」
リオンが真面目に言った。
「地球側の協力者が手配したと聞いています」
「おっさんどこ行ったんだよ」
「確認はしておりません」
「確認しろよ、そこは!」
サラは少し困ったように笑い、それから二〇一号室の中へ入った。
ハレは反対側を見る。
二〇三号室。
「まさか……」
リオンは静かに頷いた。
「私はこちらです」
「昨日まで逆隣にもいたよな!?」
「確認はしておりません」
「俺はしてるんだよ! 売れない役者で、夜中にセリフの練習で熱演してたんだよ!」
リオンは少しだけ考えた。
「訓練熱心な方だったのですね」
「だいぶ熱心だったよ、大迷惑だったけどな!」
ハレは二〇三号室を指差した。
「泣かせる場面っぽいのに、ずっとヘラヘラしてるし」
「はい?」
「優しく言う感じのセリフなのに、なぜか怒鳴るし」
「……独特な訓練ですね」
「だから訓練じゃねぇよ。たぶん演技もあんまり上手くなかった」
リオンは二〇三号室の前に立つ。
カチャリ。
鍵が開く。
「こちらです」
「挟まれてるじゃねぇか!!」
二〇一号室の扉からサラが顔を出す。
「何かあれば、すぐ伺えます」
二〇三号室の扉からリオンも顔を出す。
「こちらも即応可能です」
ハレは二〇二号室の前で頭を抱えた。
「俺、警護されてるんじゃなくて包囲されてないか?」
サラは真面目に言った。
「ハレを守るためです」
「守られてる感じがしねぇ……」
ハレは深くため息をついた。




