第95食 タイトル詐欺です!! ごめんなさい!! 『納涼! 早押し! 超ウルトラ心霊間違い探し! どこが怖くなってるでしょうか!?』
薄暗い墓地が、ビッカビカにライトアップされた第2ステージ。
横一列に並んだ解答者席には、左からビアンカ、ミツル、そしてキャプテン・シルバ。
彼らをカメラに収めるため、ウカウカ先輩は、なるべく端っこの方に陣取る。
さて、解答者たちの正面には、超巨大・4k対応100インチの液晶モニターが。
お値段、なんと977,980円。
今なら、スピーカーもセットで、このお値段。
夏を楽しく、迫力満点のホラー映画なんかは、いかがでしょうか。
《それでは、ルールを説明しよう!》
それはさておき。
高級スピーカーから流れたのは、闇野イルカの美声。
これより、地獄の早押しクイズが始まる。
《これからそこのモニターに、とある映像が流れます! 『何か変だな!?』 そう思った者は、手元のボタンを押し、解答! 見事、正解すれば10ポインツ! 最終的に、総合ポイントが高い者が勝者となるッ!!》
一癖も二癖もある対戦相手を両脇に挟み、ミツルはごくりとツバを飲み込む。
珍現象。
嫌な予感が、止まらない。
《さあ、いよいよ恐怖の映像が、大画面に映し出されるぞぉ!? 覚悟はいいかな!? それでは、VTR……スタートォッ!!》
モニターに映し出されたのは、どこか懐かしい田園風景。
イルカの秘書と思われる、女性の音声が流れ始める。
『日本で一番野菜を作る町、茨城県鉾田市』
アナウンスに合わせ、映像がスライドされる。
周囲には様々な農作物を実らせる、豊かな畑が広がっていた。
『市町村別の農業産出額で上位を誇る、メロン、いちご、さつまいもなどの栽培が盛んな、まさに農業王国です』
パッと映像が切り替わり、映ったのは、実家のような安心感を覚える、緑豊かなハウス農園の中。
そこでは、背が高く、骨太な外国人男性が、一人で農作業に勤しんでいた。
『特にここ、大洋地区では高品質なパセリが栽培されており、今回は、とあるアメリカ人農家に』
――ピンポーン!
《解答権は、真菜ミツル!》
唖然呆然、押してびっくり。
ミツルは前髪をガッと片手で持ち上げながら、表情を困らせている。
少しだけ間を空けて、彼はその震える口元を、ゆっくりと動かし始めた。
「……これ、実家です。俺の。この人、義理のお兄ちゃん」
《正解! 10ポインツ!》
今さら明かされる、主人公の実家模様。
衝撃の映像の続きを、とくとご覧あれ。
『今回は、とあるアメリカ人農家に密着取材させてもらうことになりました』
『真菜ブラッドリーさん、30歳』
『代々パセリ農家を営む真菜家にやってきた、青い目のファーマーです』
「ちょっと……マジで一回止めてほしいかも!! どうしてわかったの!? 俺の実家の場所!!」
またしても映像が切り替わる。
そこにあったのは、実家も実家。
舗装されていない砂利が敷かれた土地の中に、両親が暮らす家と姉夫婦が住まう二軒の家が建てられている。
「止まらないね! そうでしょうよ! どうぞ、続けてください! 信じられない! こんなの、なにが面白いんだろう! 無双しちゃうよ、俺! 実家なんだから!」
両家で共有している車庫の前に立つのは、一人の女性。
軽トラックから降りたブラッドリー義兄さんは、すぐさま彼女を抱きしめた。
『妻である真菜カオリさんとはナンパで出会い、三年前に長女を授かりました』
「出会いまでは知らない! そうだったんだ! ……姪だけは晒すなよ!? もし髪の毛の先でも映ってたら、この場で暴れて回って止めるからな!?」
再び映像は切り替わり、映し出されたのは小綺麗に髪をまとめた初老の男性のアップ。
画面下部のテロップには、こう書かれている。
真菜ファーム・代表、真菜篤郎(49)。
――ピンポーン!
《解答権は、真菜ミツル!》
「違います。これ、俺の父ちゃんじゃない。この人は、アイスメーカーの営業やってて、宇都宮に住んでる、父ちゃんの双子の弟の信郎おじさんです」
《正解! 10ポインツ!》
「俺以外、誰がわかんだよ、この問題!! いい加減にしろよ!?」
正解しても嬉しくない。
ミツルは、机をバンバン叩いて猛抗議。
全世界に向けて、勝手に実家が紹介されていく彼のボルテージは、最高潮に達した。
《立て続けに2問正解とは、なかなかやるじゃないか……他の解答者たちも頑張ってくれたまえ!》
置いてけぼりにされている他の解答者その1、ビアンカ・ヘルゲアローンは、こう考えていた。
(すごい。さっきまで、あんなに大人しかった人が、本番になったとたん、こんなにも喋って、場を盛り上げるなんて……。これが、本物のエンターテイナー……。真菜ミツル……ちょっとかっこいいかも……)
bgm ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第8番 ハ短調 作品13《悲愴》。
一方で、他の解答者その2、キャプテンシルバの考えは――。
"Je veux répondre avec classe et, d'une manière ou d'une autre, finir au lit avec Bianca."
(かっこよく解答して、なんやかんやで、最終的にはビアンカとベッドインしたい)
煩悩まみれだったという。
《ほう……強めのパシオンに、少々のパッシオーネといったところか。それでは張り切って! VTRの続きをチェックしよう!》
画面に映し出されたのは、ミツルの実家のすぐ外。
タレ付き帽子を被り、真っ黒に日焼けした初老の男性のアップの映像が流れる。
今度はちゃんと、ミツルの父親だった。
スタッフ:息子さんも、おられるということですが?
篤郎さん:(タバコを吸いながら)帰ってこねぇもん。えっへっへ、当然だわな。うちは昔っから女が強ぇから……まぁ、うまく味方してやれなかったなぁって、そういう後悔はあるけど。
「父ちゃん……」
スタッフ:ブラッドリーさんとの関係は?
篤郎さん:(火のついたタバコを庭先にポーイ)いいよ、良好。孫も生まれたし。だから、せがれが帰ってこなくても、母ちゃんが騒がなくて済んでるんだよ。えっへっへっへっへ。
「……父ちゃん?」
篤郎さん:働き者だよ、ブラッドは。俺なんか、おかげでこんな車に乗れちゃって。えっへっへ。よかったよかった。
カメラがスッと横に移動して、ホワイトパールに輝く高級車が映し出される。
「よくねぇぞ、クソジジイ。タバコのポイ捨てとかも、全世界に発信されてるからな?」
「Haut !(オラァ!)」
突如として響き渡る、キャプテンシルバの気合の一声。
猛烈な勢いで彼が押したのは、手元の解答者ボタン。
ボゴォォン!!
しかしその力が強すぎて、ボタンは粉砕。
《キャプテンシルバ、失格!!》
イルカの宣言は素早かったが、ミツルの行動はもっと速かった。
バラバラに散ったプラスチックの破片が自分を飛び越え、隣のビアンカにまで伸びていく。
そのことを見逃さなかった彼は、昨晩恋人にカリッと引っかかれた傷跡が残っている背中を挺して、ビアンカの身を守った。
「だ、だ、だ……」
大丈夫ですか。
シャイガールなビアンカは、その一言が言えず。
ミツルはなんとなく、相手の言いたいことを察する。
「気にしなくて、大丈夫」
どうせ痛むんだから、小さなプラスチック片のチクチクなんて、プラマイゼロ。
背中にへばりついたシャツをピンと張り直しながら、ミツルはビアンカに問う。
「そっちこそ、怪我とかない?」
ズキューーン。
その優しさは、孤独な人生を送ってきた彼女の心を貫いた。
(もしかして、この人……私のことが、好きなのでは? きっと、ううん……絶対そうに決まっている! じゃなきゃ、こんなことは許されない! 私の運命の相手は、やっぱり紳士的で素敵な、日本の男の子だった! だったら、こんなことしてる場合じゃない。彼の戦いを見届けなくちゃ!)
bgm エドワード・エルガー 『愛の挨拶』。
「……ギブアップ」
「なにが!?」
《ビアンカ、失格!! というわけで、戦いを制したのは、またしてもミツルくんだ!! おめでとう!!》
「なんで勝ったの、俺!? これ以上実家が晒されないなら、よかったけど」
「チッ……」
「先輩は、なんで舌打ちしたのかなぁ!? 勝ったんですけど!?」
すべてはファンのため。
余談ではあるが、ミツルの実家の場所を割り出し、イルカ側に情報を提供していた黒幕は彼女であった。




