第94食 新キャラ登場!! そして2ndステージ開幕!!
「C'est bon?」
隣の席から、キャプテンシルバが尋ねてくる。
「うん、セボン! おいしい、おいしい!」
オレンジジュースがうまいの、なんの。
テーブルについたミツルは、彼に向かって親指を立てた。
『バトルボウリング』とかいう、とんでもなくカロリーを使う、押し合いへし合い。
その勝負には負けたが、試合には勝った。
どう思い返しても、主催者は頭がおかしい。
そんな現実から逃れるように、二人は仲良く朝食を囲んでいた。
「お疲れ様、真菜君。最初の対決は、どうだったかしら?」
リラックスした雰囲気の中、なおも撮影を務めるウカウカ先輩がインタビューを挟む。
ファンにとっては貴重なオフショット。
配信者ミツルを魅せるプロモーターとしても、この瞬間を逃す手はなかった。
ちょうどパンオショコラにかぶりついたところだったミツルは、カメラに向かって、ただ一言。
「もう、二度とやりたくないですね」
体中が痛ぇの、なんの。
寝起きでやるもんじゃない、地獄のような競技に正論をぶちかました。
瞬間、海の向こうから、彼を労うスーパーチャットが乱れ飛ぶ。
«ذكي أنت يا ميتسورو!»
“賢いな、ミツルは!”
«البَرَكَةُ لِلْبَطَلِ الَّذِي قَاتَلَ حَتَّى النِّهَايَةِ!»
“最後まで戦った勇者に祝福を!”
«دَعْنِي أَمْسَحُ جَانِبَ فَمِكَ!»
“口の端の汚れ、拭かせて!”
≪يَعْطِيكَ العَافِيَة يَا سِيلْفَا أَيْضاً!≫
”シルバもお疲れ様!”
また儲かってしまった。
ウカウカ先輩がレンズ越しにほくそ笑んだ、その時――。
床、パッカーン。
突如出現した奈落に、テーブル席ごと吸い込まれる。
「おわぁぁぁぁ!?」
ミツルの声ばかりが、暗闇に響く。
が、すぐに着地。
足を動かしてみると、ちゃんと地面がある。
ふと見上げれば、落ちてきた穴が、四角く、明るく輝いていた。
「先輩、大丈夫ですか?」
「私は大丈夫。それより、まだ動かない方がいいわよ」
「え?」
直後、異変はやってきた。
何者かにグイ、と椅子が押し出されたあと、スススーっと、滑り落ちるような感覚に襲われる。
「のわぁぁぁぁ!?」
上空にあった光が去っていった。
あとは暗くて、何も見えない。
「気持ちわりぃ! なに、これぇ!?」
右に左に、そして上下に激しく動き、平衡感覚を失わせてくる暗黒スライダー。
その先に広がっている風景、それは――。
《1stステージ突破、おめでとう! そして、2ndステージへようこそ!》
闇野イルカのボイスが響き渡る、薄暗い墓地だった。
ミツルは、テーブルから立ち上がって周囲を確認した。
近くで鳴く鈴虫の声が、リンリンとうるさかった。
「……C'est poétique. (風流だな)」
《実にいい感想だ、ミツル君。さすがは私が認める、次世代のエンターテイナー》
「俺じゃないよ、今の!! フランス語なんだから、わかるでしょ!? っていうか、このおじさんも一緒に来ちゃったけど、そのあたりの管理、どうなっちゃってるんですか!?」
《はははははははーっは!!》
高らかに響く、爽快な笑い声。
答えが聞けるかも、と一応待ってみる。
「………………」
だが案の定、釈明はなかった。
代わりに案内を始めたのは、カメラを片手にしたウカウカ先輩だった。
「さあ、次のステージに急ぎましょう」
「あんたもあんたで、ちょっとくらい動揺しなさいよ! 俺だけ叫んで、なんか恥ずかしかった!」
心情を吐露したツッコミを入れても、先輩は不敵に笑うだけ。
そのまま彼女は長い髪を耳にかけながら、道の先を指差した。
行け、ということらしい。
「どうかしてるよ、こんなの……全員」
首を傾げながらも、言うことを聞く。
そのしぐさが、中東のお姉さま方にキャーキャー言われていることを、ミツルは知らない。
たどり着いたのは、スピーカーと巨大なモニターが設置された、開けた空間だった。
解答者席も、全部で3つ用意されている。
立ち込める、カビの生えたバラエティ臭。
帰りたい。
そう思った矢先、カロンコロン、と下駄を転がす音が耳に入った。
何事かと、振り向いたミツルは驚愕した。
「あ、あんたは!?」
月下に立つのは、人造人間18号。
に、そっくりな人が、鬼太郎みたいな格好をしている。
人呼んで、マルタ島が生んだ白の孤独。
彼女の名は、『ビアンカ・ヘルゲアローン』。
真っ白な肌と、サラサラな金髪。
そしてブルーの瞳が麗しい、第2の刺客である。
「……初めまして。よろしくお願いします」
キャラクターの渋滞が重なって、外見的には激しく見覚えがある。
けれども、初対面。
ミツルは不思議な気持ちで、彼女に挨拶をした。
ところが、ビアンカときたら――。
プイッ。
「え!?」
漫画のように顔を背けられたミツルは、戸惑うことしかできなかった。
※ビアンカ・ヘルゲアローンの、お気持ち表明のコーナー※
(これが、本物の、日本人の男の人。挨拶されちゃった。嬉しい。礼儀正しい。けど、無理。恥ずかしい。なぜなら私は『白の孤独』。生まれてこの方、家族以外と喋ったことがないのだから――)
bgm ドビュッシー『ベルガマスク組曲』第3曲「月の光」。
筋金入りの人見知り。
めんどくせぇキャラが増えたことも知らず、一人の男が勝手に動き出す。
「Ma belle, il fait froid ce soir, n'est-ce pas?(美しいお嬢さん、冷える夜だね?)」
アムールの国帰りのキャプテンが、年甲斐もなくビアンカを口説いた。
※ビアンカ・ヘルゲアローンの、本心駄々洩れのコーナー※
(? でかい。気色悪いおじさん)
bgm なし。
その想いは、言葉の壁を越えられず。
母国語と日本語だけしか履修していない彼女は、キャプテンからも顔を背けた。
「イルカ様、進行をお願いします!」
おじさんが若い女に拒絶される。
いたたまれない風景を目の当たりにしてしまったミツルは、初めて心からイルカの力を頼りにした。
《それでは僭越ながら、説明をさせてもらおう!!》
スピーカーから流れる頼もしい声を聞いて、ミツルはにっこりとした笑顔を見せる。
そんな彼の横顔を見て、ビアンカは胸をトゥインクルトゥインクル。
彼女を見下ろしたキャプテンは、もっとアモーレアモーレ。
全員を画角に収めたウカウカ先輩は、粛々とカメラを回し続ける。
《2ndステージは『納涼! 早押し! 超ウルトラ心霊間違い探し! どこが怖くなってるでしょうか!?』だ!!》
咲かせていた笑顔は、一瞬で散った。
帰りたい。
ルールを聞かずとも、問題しか感じない対決名を聞いて、ミツルは心底そう思った。




