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第93食 意味不明ワールドへ、ようこそ!! バトルボウリングの結末や、いかに!?

 

「おっしゃ!!」

「Je vais l'avoir !(仕留めてやる!)」


 両者、開幕ダッシュで始まった『バトルボウリング』。


 169cmのミツルと、190cmのキャプテンシルバ。


 この身長差からもわかるように、ミツルに勝ち目はございません。


「À moi de jouer !(俺のターン!)」


 宙を舞う15ポンドのボールを両手でキャッチしたのは、やはりキャプテン。


「ぐわあぁぁっ!!?」


 空中で112キロの巨体とぶつかり合ったミツルは、当然吹き飛ばされる。


 投球モーションに入ったキャプテンは、レーンに向かって1歩、2歩、3歩。


 美しい軌道で上げられたバックスイングは、頂点に達した。


「Voyez mon lancer !(刮目せよ!)」


 ――パラコォォン!!


 ピンが倒される快音が、会場に響き渡る。


「ふぅ」と息を吐いたキャプテンの後ろ姿は『絶対強者』のオーラを滲ませていた。


 これまでとはレベルの違う強敵を見て、ミツルは震えながら、それでも立ち上がる。


 視界の端で、何かが動いた気がした。


 ふと視線を移すと、上部のモニターに表示されるスコアには、先ほどまでなかった『9』の文字が深々と刻み込まれていた。


「……いや、ストライクじゃねぇのかよ」


 痛む肩を押さえながらも、彼はホッと胸をなでおろした。


 しかし直後、スピーカーから絶望のアナウンスが流れ始める。



 《先攻・真菜ミツル、9ポインツ!!》



「え? どういうこと?」


 ミツルは思わず、スピーカーに向かって聞き返した。



 《スコア表を、よく見たまえ!!》



 イルカの指示に従って、モニターをもう一度確認してみる。


 するとそこには、お馴染みのボウリングのスコア表が映し出されていた。



 先攻・真菜ミツル【 9 | 未投 】


 後攻・キャプテンシルバ【空欄】



「これっていうのは、要するに……ボールの取り合いでバトルをして、ボウリングのルールは、そのままでやってるってこと!?」



 《はははははははははーっは!! ご名答!! つまりは、そういうことだ!!》



「いくらなんでもバカすぎるって!! 中止、中止!! 欠陥スポーツです、これ!!」



 痛いし、もうやだ。


 こんな牡牛みたいなおじさんと、ボールを取り合ったって、勝てるわけないもん。



 とかなんとか考えつつ、ミツルは律義に、改造されたボールリターンの前に戻る。


 そこにはすでに、対戦相手であるキャプテンが腕を組んで待っていた。


「En garde, Mitsuru. Je vais encore gagner. (構えろ、ミツル。次も俺が勝つ)」

「なんか、もう……かわいそう。あなたが。何言ってるか、大体わかってきた俺も俺だけど」

「Fuhahaha ! Faisons un bon match !(フハハハハ! いい試合にしよう!)」

「たぶん勘違いしてるから教えるけど、俺のスコアに加算されるときにわざとガーター出せば、それだけで勝てますよ?」


 キャプテンは口角をぐっと上げ、右手を差し出してきた。


「なに? 握手? 今?」


 少しは伝わったのかな、とミツルも手を出して応じる。


 無駄に力強く、手を握られた。


「痛いって。はい、どうも。よろしく。今度は、優しくタックルしてね?」

「Chef ! Sors-moi la prochaine boule !(ボス! 次の球を出してくれ!)」


 ――ガコン。


 ボールリターンのベルトが回る。


 ――キュルンキュルンキュルン♪


 続けざまに、安っぽい電子音が流れた。


 ――ポンッ!


 暗穴から発射されたボールが垂直に打ち上げられ、『バトルボウリング』が再開される。



 やばい。



 生来の人の良さから、キャプテンに正攻法を教えてしまったミツルは是が非でもボールを奪取したい。


「よっしゃ!」


 もちろん彼は駆け出した。


 一方で、キャプテンは――。


「Pas question !(させるか!)」


 わかっているのか、いないのか。


 全力で争奪戦を勝ちにくる。


 169cmのミツルと、190cmのキャプテンシルバ。


 この身長差からもわかるように、ミツルに勝ち目はございません。


「C’est toujours mon tour !(ずっと俺のターン!)」


 宙を舞う15ポンドのボールを奪い取ったのは、またしてもキャプテン。


「やべぇ!! ぐはっ!!」


 空中で、いかつい肩幅のおじさんに弾き飛ばされたミツルは、当然フロアに叩きつけられる。


 投球モーションに入ったキャプテンは、レーンに向かって1歩、2歩、3歩。


 美しい半月の軌道をしなやかに描いたバックスイングが、勝利への道を切り開く。


 ――パコーン。


【 9 | / 】


 ミツルのスコアに、スペアの表記が刻まれる。


「ふぅ」と息を吐いたキャプテンは、額の汗をクイッと手で拭った。


「わかってねぇじゃん、このおっさん!!」

「Envoie la suite !(じゃんじゃん続けてくれ!)」


 ミツルのツッコミもむなしく、すっかり仕上がったキャプテンは、上機嫌に指示を飛ばす。


 ――キュルンキュルンキュルン♪


 ――ポンッ!


 次のボールが打ち出される。


「あ、くそっ!」


 立ち上がるのが遅れたミツルは争奪戦に参加することもできず、むざむざと相手にボールを渡してしまう。


「C’est une question de classe.(これが『格』の違いというものだ)」


 キャプテンは、にやりと笑い、落ち着いて投球を決める。


 ――パラコォォン!!


【 ⑦ | 未投 】


 4-6-7番ピン残しのスプリット。


 この結果には、さすがのキャプテンも背中から哀愁を漂わせる。


「なんか……さっきから、ずっと下手だよね? あなた、プロボウラーって、言ってなかった?」


 プロボウラーだからと言って、常にストライクが取れるわけではない。


 プロ野球選手だからと言って、常にホームランが打てるわけではないのだから。


 ミツルには、その道理がよくわかっていなかった。


 しかしやはり、そこは彼である。


 すぐさま、ちょっと言い過ぎたな、と思い直し、うなだれて戻ってきたキャプテンを慰める。


「あの……ドンマイっす。次、スペア取れば大丈夫ですから」

「Mitsuru……」


 その瞬間、言葉の壁を越えた友情が、生まれたとか、生まれていないとか。


 ――キュルンキュルンキュルン♪


 時間は待っちゃくれない。


 ――ポンッ!


 という音とともに、4球目が打ち上げられる。


 ――パシッ。


「え?」


 どちらも反応が遅れて、なんか取っちゃったのは、ミツルの方だった。


「Montre-moi ce que tu as dans le ventre(お前の本当の力を見せてみろ)」


 敵であるキャプテンが、ポンと背中を押して、レーンへと送り出してくれた。


「いいの? 俺、投げても」


 いざ自分の番がやってくると、急に不安になって振り返る。


 そこでは頼もしい体格をしたキャプテンが、真面目な顔をして立っていた。


 彼はまっすぐこちらを見据えて、こくりと頷いた。


「やるだけ、やってみるよ……」


 ボウリングなんて、高校以来かも。


 同級生の彩ちゃんとか、元気かな。


 などと、当時ちょっとだけ気になっていたクラスメイトのことなどを思い出しながら、アプローチの上に立ったミツルはボールを構えた。



 ピンに浮かんで重なるのは、あの日の光景、彩ちゃんの笑顔、それと――。



 雑念を振り払い、右足を1歩、前に出す。


 体の力を抜いたままリズムに任せて、2歩、3歩、と突き進む。


 振り子のように真後ろへと跳ね上がった球体が、一瞬だけ空中で静止する。


 背筋に緊張が走る。


 4歩目。


 猛烈な勢いで最下点を通過していった球体が、手を離れ、レーンの上を滑っていく。


 ――コロコロコロ、カコン。


【 ⑦ | 1 】


 倒したのは、6番ピンのみ。


 結果を見届けたミツルは、くるりと振り返る。


「……ごめん。俺、ボウリング苦手だった」


 それで彩ちゃんにも相手にされなくなった。


 でも、そんなことはもう、どうでもいい。


 このスコアは相手のスコア。


 結局これが決め手となって、『バトルボウリング』に勝つことができたのだから。

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