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第92食 1stステージスタート!! 最初の対決は『バトルボウリング』!! だけど!! まずは、ファンサービスから!!

 

 イッツ、ベリーコズミック。


 ミラーボールの光が複雑に交差し、ピンの白さとレーンをレーザー光線が幻想的に引き立てるボウリング場。


 薄暗い空間が、品のないビッカビッカの光で照らされる中で、彼は目を覚ました。


「……えぇっと」

「始まるわよ、真菜君。準備はいい?」


 目覚めの挨拶もそこそこに、長い黒髪が美しい、ウカウカ先輩が目に映る。


 彼女の手には、もちろん最新鋭の小型軽量アクションカメラが握られていた。



 ――あぁ、そういう、アレね。



 思ったより、楽しかったグランピング。


 サークルメンバーたちとの四泊の合宿は終わった。


 終わってしまった。


「みんなは、どこに行ったのかな?」


 キョロキョロと周囲を見回してみても、自分たち以外に誰もいない。


 昨夜、最後の夜も、コテージで迎えたはずだったが、今は怪しいボウリング場。


 隣でノイチが眠っていたはずなのに、一体どうやってここまで連れてきたのか。


 そもそも、ここはどこなのか。


 そういったこともよぎったが、やはり彼も小市民。


 孤独が一番辛いところであった。


「視聴者たちに、挨拶をお願い」


 ところが、すでに配信モードに入っている先輩は聞く耳を持たず。


 これにはミツルも、半ギレで応対する。


「みんなは、どこに行ったのかなぁ!?」


 と、その時――。



 《はははははははははーっは!》



 落ち着きと色気を兼ね備える、お馴染みの声が響いた。


 各レーンの上部に設置されているモニターが、すべてオンになる。


 そこに映し出されていたのは、言わずもがな、闇野イルカだった。


 超ロングのオールバックに輝く、黄金色のメッシュ。


 甘いマスクの下にあるご立派な体躯は、今日はあずき色のジャージに包み込まれている。



 《神聖なる我が学び舎へようこそ、真菜ミツル君!》



 サークルメンバーともどもお世話になったグランピング施設『うみぶた』。


 廃校をリノベーションした施設ということもあって、経営者のイルカは、ノリノリで校長気分をエンジョイしていた。



 ――これで最後だ。



 腹の底に力を込め、モニターに向かって全力で叫ぶ。


「みんなはぁ!! どこに行ったのかなぁ!?」



 《さあ!! それでは早速、対決の方に移らせてもらおう!! 見事、最終ステージまで突破すれば、この芳賀エリアは、君たちのものだ!!》



 だーれも話を聞いてくれない、エンターテインメント業界。


 ろくでもないこの世界に、おめおめと帰ってきちまったことを、軽く後悔し始めたミツルだったが、時すでに遅し。


 戦いは、すでに始まっている。



 《1stステージは『バトルボウリング』!! ルールは簡単!! ボールリターンから発射されたボールを対戦相手と奪い合い、ボールを手にした者がレーンに投げ込める!! 最終的に、ボウリングの総合スコアが高かった方が勝者となる!!》



 ちょっと、意味がわからなかった。


 いっぱい投げれば勝ちなのか。


 理不尽をなんとかして理解しようと、寝起きの頭をこねくり回したミツルであったが、敵は待ってくれなかった。



 《では、対戦相手の入場だ!! ウェルカム!! ニューチャレンジャー!!》



 モニターの映像が途切れる。


 会場は暗転。


 スピーカーからは、デジタルなシーケンスのループ音が鳴り響く。


 疾走感のある律動に、ダンサブルで骨太なギターリフとリズム隊が重なったところで、その男は天井からドシン、と舞い降りた。


「あ、あんたは!?」


 見覚えのあるシルエットに、ミツルは戦慄する。


 復活したレーザー光線に照射され、暗がりからぬっと姿を現したのは、ボーイと呼ぶにはあまりにも屈強な体つきをした男。


 銀髪の、丸坊主のヒゲおじさん。


 厚すぎる胸板が、スポーツ仕様のポロシャツを限界まで引き延ばす。


 ピンと張られたシャツからダブルでポチっと突き出た小粒が、インナーを着用していないことを想像させる。


 人呼んで、フランス帰りのセニョリータ。


 彼の名は、『プロボウラー・キャプテンシルバ』。


 身長190cm、体重112kg。


 鍛え抜かれた巨大な肉塊が、今、ミツルたちの前にそびえ立つ。


「Merci d'avance(よろしくお願いします)」


 キャプテンは太く、力強いバリトンの低音ボイスを発しながら、ぺこりと頭を下げた。


「この人、覚えてる!! 二日目の夜に、デザート運んできたおじさんだ!! なに!? セニョリータ!? おじさんだけど!? っていうか、日本語喋れる人、お願いしますぅ!!」


 ミツルの抗議がむなしく響くと、照明が戻された会場はパッと明るくなった。


「さぁ、真菜君。皆、あなたの声を待っているわ。視聴者たちに、挨拶をして?」

「うるせぇなぁ!?」


 空気を読まない、否、逆に読んでいるウカウカ先輩の提案に、ミツルは激おこ。


 しかし、根が優しい彼は、すぐに思い直す。


「……何語でいえばいいの、今回は?」


 先輩は黙って、カサッと紙切れを手渡してきた。


 折りたたまれた紙を開いてみると、何やらカタカナで文字が書いてある。


 どうやら、これを読めということらしい。


 ミツルは眉をひそめながら、その文字列を音読する。


「……ヤー、イハワティー、ワ、アハワーティー、ラム、ナルタキ、ムンズ、ファトラ、タウィーラ」


 これで、いいのだろうか。


 不安を打ち消すように、カメラに向かって曖昧に微笑む。



 «لم نركَ منذ زمن يا مانا ميتسورو!!»

 “お久しぶりです、真菜ミツル!!”


 «هل زلتَ على قيد الحياة!! الحمد لله!!»

 ”生きてたのか!! よかった!!”


 «كم جملًا تعتقد أنني بعته فقط لأراكَ!!»

 ”お前を見るために、俺は何頭のラクダを売り払ったと思ってるんだ!!”


 «أهلاً بعودتكَ!! يا ميتسورو حبيبي!!»

 ”おかえり!! 私のかわいいミツル!!”



 瞬間、海の向こうはお祭り騒ぎ。


 スーパーチャットは真っ赤っか。


 これには、ウカウカ先輩もにんまり。



 《余興はそれまでにしよう!! お互いに見合って!?》



 ピンと空気が張り詰める。


 なんだかよくわからない、寝起きボウリング対決。


 その火蓋が切られようとしている。


 ミツルは背筋を伸ばし、デカすぎるおじさんと対峙した。



 《レッツ・ビッグ……ボウリィィング!!》



 ――キュルンキュルンキュルン♪


 ボールリターンのベルトが回り、安っぽい電子音が鳴り響く。


 対戦相手は、胡散臭いことこの上ない屈強な男・キャプテンシルバ。


 いざ、バトルボウリング。


 果たしてミツルは、この体格差を何とかできるのだろうか。


 ――ポンッ。


 今、最初のボールが宙へと打ち出された。

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