第96食 ガチ魔女! ジェマイマおばさん降臨!
純白のテーブルクロスがかけられた円卓に集ったのは――。
真菜ミツル。
ビアンカ・ヘルゲアローン。
キャプテンシルバ。
鵜飼卯花。
以上の4名となっております。
対立の時は終わり、今は仲良く補給食タイム。
卓上には、あの有名な駄菓子……なのかしら。
とにかく、有名な、あのミニカップ麺が、それぞれの前に並べられている。
「ブタメンって、ホントうまいよね?」
「……」
流れで隣に座っちゃったものだから、顔面真っ赤っか。
ひょんなことから憧れにも似た、恋心ともいえた、下心を持ってしまったビアンカは、せっかく話しかけてくれたミツルに何も返せず、顔を下に向けるばかり。
そんな彼女の真正面にいるのは、岩のようにデカいおじさん。
キャプテンシルバである。
彼はジャパン特有のちっせぇプラスチックフォークに麵を絡ませながら、なにやらぶつぶつとフランス語で呟いた。
「C'est bon, mais c'est difficile à manger.(美味いが、食べ辛いな)」
「セボン? おいしいなら、よかった」
少しだけ意味を勘違いして受け取ったミツルは、上機嫌に最後のスープを飲み干す。
そんな彼の向こう正面では、鵜飼卯花こと、ウカウカ先輩が、この風景を映し出す配信画面のコメント欄を入念にチェックしていた。
≪كنت أود أن أرى والدة ميتسورو...≫
”ミツルのお母さんを見てみたかったな……”
≪مبروك تخطي المرحلة الثانية!≫
”第2ステージクリア、おめでとう!”
≪يا إلهي، هل كان بيت ميتسورو مزرعة؟!≫
”ミツルの実家は農場だったのか!”
≪أكرههاااا! أنا اللي بدي أقعد هناك!≫
”その女嫌い! そこに座りたいのは私!”
多少、違う意味で荒れてはいたが、心配していた事態にはなっていない。
これが、ミツルという人間に惹かれるリスナーの性質なのかと、彼女は妙に納得した。
それはそうと、今は貴重なオフショット。
他でもない、彼を支えるファンの、そしてあまりにも太すぎる客たちのために、携帯端末を卓上に固定していた高性能小型カメラへと持ち替え、彼女はミツルへのインタビューを決行する。
「お疲れ様、真菜君。今、これを見ているファンたちに、なにか一言もらえるかしら?」
んなもん、ない。
いつもだったらそう答えるミツルだったが、なにせ実家バレ。
今回ばかりは、思うところがたくさんあった彼は、レンズを指差し、少し語気を荒げてカメラに顔を近づけた。
「いいか? 絶対に、拡散だけはするなよ! あと、うちの父ちゃんがしたみたいな、タバコのポイ捨てを許すな! 火事になっちゃうから!」
ハチャメチャな企画に巻き込まれ、身内の恥部まで晒されて、なお放たれる正論。
これには、海の向こう側のファンたちも、スーパーチャットを送るしかなかった。
またまた儲かってしまった。
レンズ越しでウカウカ先輩がほくそ笑んだ、その時――。
地面から、手、ズボズボ、ズボボ。
「なんでえええぇぇぇ!!?」
その手に引き込まれたのはミツルだけ。
彼は椅子ごと、地面の中に吸い込まれていった。
「……さあ。私たちも、追いかけましょうか」
映像をしっかりとカメラに収めたウカウカ先輩は、同志となった二人に声をかける。
「oui.」
「sì.」
国際色豊かな肯定の声が、速やかに反応したという。
――移動中につき、しばらくお待ちください――
再び集いし4人。
今度のステージは黄昏の浜辺。
海の向こうにそびえるのは、まごうことなき鬼ヶ島だった。
「違う、違う、違う。え!? なんで俺だけ地面にズボッて、させられたの!? っていうか、みんなは、どうやってここまで来たの!?」
「私たちには、ロケバスがあるから」
「俺もそれ、乗せてよ!! 怖かった!! 薄暗い中で、丸顔の、変なおじさんにトロッコ乗せられて……」
一体、誰と会って、なにが起こったのか。
地中トロッコ運搬事件。
興奮冷めやらぬミツルに対し、ウカウカ先輩は落ち着いた表情で、さらなる真実を明かす。
「ごめんなさい。キャプテンシルバがあまりにも大きいものだから、どうしても席が足りなくて」
「じゃあいらないよ、仲間なんて! それか、もっと大きいバスを用意してください! ……いや、そもそも、この人たち、なんでずっとついてきてるの!? 敵だったよね!?」
地面に引き込まれた瞬間、本気で死んだと思ったミツルは、柄にもなく怒り心頭。
勢いのままに、キャプテンシルバをキッとにらみつけた。
「……?」
槍玉に挙げられたキャプテンは、日本語が理解できず、両手を上げながら首をかしげる。
あまりにもステレオタイプなそのしぐさに、ミツルがプチギレを起こそうとした、その瞬間――。
《はははははははーっは!!》
どこからともなく響いたのは、ラスボス・闇野イルカの高らかな笑い声だった。
《2ndステージ突破おめでとう、ミツルくん! そして、3rdステージは巻きで行こう! 次の対戦者、カモン!!》
茜色に染められた空に、ワッサワッサと翼がはためく。
黒いカラスが一羽、二羽。
三羽、四羽、もっといる。
どれだけ、いるの。
五羽、六羽と数え始め、ミツルがその数を確認しきる前に、無数のカラスを従えたその女は、浜辺に降り立った。
「あ、あんたは!?」
外国煮込み料理でお馴染みの、クレアおばさん。
の、ガリ痩せバージョン。
とんがり帽子に、黒のローブ。
そしてステッキ。
すごく、マジカルな格好をしている。
人呼んで、イングランドのガチ魔女。
彼女の名は、『ウィッチ・ザ・ジェマイマ』。
イルカが送った、最後の刺客である。
《それでは、3rdステージの内容を発表しよう!》
「イッヒッヒ……」
ジェマイマが不気味に笑う。
しかし、頼れる仲間たちを背をしたミツルは、もはやなにも怖くはなかった。
ただ、胡散臭い魔女を目の前にし、純粋に『ねるねるねるね』を思い出していた。
《3rdステージは『全力疾走!! ときどきドキドキ!? ビーチフラッグ対決!!』だッ!!》
「勝つよ、俺が!! 相手、おばさんだぞ!?」




