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パチンコでほぼ全財産をスった俺が、なけなしの金で買った弁当に殺されかけた結果、弁聖と呼ばれるババアに拾われて強くなる話  作者: ふるみ あまた


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8/10

第8食 サンキュー、連休バーベキュー

 

 憲法記念日。


 日本国憲法の施行を記念し、国の成長を期する日。



「今日は、じゃんじゃん焼いて、たくさん食べようね!」


 はしゃぐギャル、秋風ノイチ。


「気合いはいいんだけどさぁ、結局焼くのは、こっちなのね?」


 ぼやく男子大学生、ミツル。


「ふぇっふぇっふぇ」


 笑う老婆、秋風ぼぎ。


 連休らしくバーベキューがしたい。


 そう言い出したノイチのために、三人は近くの河原へと足を延ばしていた。


「はい、ミツル。たこわさ」


 ノイチは椅子に座りながら、割り箸でつまんだ珍味を遠く離れたミツルへと差し出す。


「遠い遠い。今、火おこし中だから、いらないし……たこわさなんて、買ってたの?」

「なんか、おかしい?」

「いや、おかー……しいね。『じゃんじゃん焼いて』って、言ってたから」

「あっははは! おもしろ!」

「ふぇっふぇっふぇ」


 終始ご機嫌なノイチとぼぎを無視し、ミツルは解説動画を見ながら、見よう見まねで不慣れな火おこしを行う。


「ソロキャーンプ!! 孤独こそ真の自由!! ボッチ最高だねぇ!!」


 孤高を謳い、三人の視界と耳に全力で入り込んできたのはトッシュ岡田。


 臭いものには蓋。


 三人は無言のコミュニケーションを取り、特に気にせず、自分たちのペースでバーベキューを楽しむことにする。


「……あれ? 全然点かないなぁ。何か間違ったかな?」


 首を傾げ、動画をチェックし直すミツル。


「んコレぇ!! バーナーで一瞬!! 知恵!! 年長者の!! あと備えと資金!! 何も知らない若者と違って!!」


 ミツルたちの先で、コンロに火柱を上げるトッシュ岡田。


「……ミツル、火ばさみを貸してもらえるかえ?」


 動き出したのは、弁聖ぼぎ。


 錫杖の代わりに手に取った火ばさみで、井桁の高い山を瞬く間に積み上げる。


 流れるように燃焼剤に火を点け、炭の中心へと放り込む。


「こ、これは!!」


 おののくミツル。


「おばあちゃん、すごーい! さすが!」


 歓喜するノイチ。


 ミツルたちのコンロに現れたのは、火のドラゴン。


 爆ぜる火の粉が、ゆらゆらと、新緑の風に運ばれてゆく。


「ぐっふっふ……ぐっふっふっふっふ、ぐっふ、アチィ!!??」


 摂氏1000℃。


 その熱は、優越感に浸っていたトッシュ岡田の、脂肪がたっぷり乗った後頭部のお肉を焦がした。


「アチャチャチャッチャッチャチャー!!」


 憎まれっ子世に憚る。


 ぶっとい指で自らの後頭部をつまみながら、トッシュ岡田が手を伸ばしたのはクーラーボックス。


「ふぃ~……危なかったわい」


 空を仰いだトッシュ岡田が、手を使わず器用に首とお肉の間に挟み込んだのは、水の雫が滴る白と赤のコントラスト。


 Bootywiser(ブーティワイザー)


 100年以上の歴史を誇る、よく冷えた、異国の缶ビールが彼を窮地から救った。


 その様子を見ていたミツルが、ぽつりと一言。


「……昭和の怪人?」

「ブォッフゥー!!」


 お茶を噴き出すノイチ。


「ごほっ、ごほっ……ちょっとぉ!! 笑わせないでよ!!」

「笑わせるつもりなんてなかった! 今のは、ただのつぶやきだから! ポストしただけ!」

「ふぇっふぇっふぇ」


 かくして、楽しいバーベキューが始まった。





 弁聖が召喚したドラゴンも勢力を落ち着かせ、ミツルがコンロに網を乗せようとした、その時だった。


「ミツル、ちょっとそれを貸してくれるかえ?」


 動いたのは、やはり弁聖。


「どうぞどうぞ」


 その実力を知らずとも、おばあちゃんに優しいミツル。


 彼は持っていた網を、弁聖へと手渡す。


 キッチンペーパーに湿らせた何かを、網に塗り込んでゆく弁聖。


「ちなみに、それは何を?」

「お酢さねぇ。こうすると、お肉やお魚がくっ付きにくくなるんだよ?」

「はぇ~……」


 おばあちゃんの知恵袋。


 かくして準備は整った。


「アックスボンバァァ!!」


 遠くで、トマホークステーキを焼き始めるトッシュ岡田。


「……」


 昭和の怪人が焼く豪快な肉の塊を、ちょっと美味しそうだな、と思いつつ眺めるミツル。


「ミツル? 見てないで、こっちもやろうよ」

「だな。じゃあ、焼くのはやるから、そっちは食材を頼む」


 向こうがパワーで押してくるのなら、こちらはチームワーク。


 気を取り直し、コンロの前に立つミツル。


 給仕のノイチだって張り切る。


「はい、ししゃも!」

「ししゃもね。美味しいよね。はいはい」



「はい、スルメ!」

「スルメ? 変わってるけど……まあまあまあ」



「はい、厚揚げ!」

「おめぇさっきから、オジサンが食べるヤツばっかだな!?」


 飛び出す鉾田弁。


 これを聞くためだけにボケ続けたノイチは大喜び。


「あはははは!!」


 笑って出る涙でメイクが落ちるのは経験済み。


 今日のノイチは、薄めのお化粧でバッチリ対策していた。


「思い出したら、最初からたこわさ食べてたし。厚揚げとか、スルメとか、全部オジサンが食べるヤツだっぺよ。……でも、よく厚揚げを選んだね? そのセンスは凄い。それがなかったら、気づかないまま進めてたから。それはいいとして、せっかくのバーベキューなんだからさ、もっとふさわしい食材を頼むよ」

「あはははは! はぁ……面白い」

「いいから、お肉を出してくれ。ちゃんと買ってきたんでしょ?」

「うん! 食べ切れないくらい、買ってきた!」

「お願いね? 今日のバーベキュー、ちょっと楽しみだったんだから。実は」

「ほんと!?」


 始まりそうなラブ&コメディ。


「――!?」


 それを破ったのは、『聞こえし者』ミツルの耳が拾い上げる、不吉な羽音。



 《ブウゥゥン》



 クマバチ。


 ミツバチ科クマバチ属に属する昆虫。



 《ブウゥゥン》



 クマバチ。


 胸が黄色いから、キムネクマバチ。



「ちょ……ハチ!? やだ!!」


 ずんぐりとした体型がノイチに向かう。


 ミツルはとっさに、怯える彼女の手をとり抱き寄せる。


「あっ……」


 ノイチが頬を染めたのは、五月の陽気のせいではなかった。


「……動くな」


 かつて鉾田の大地を駆けまわっていたミツルは、クマバチの生態を知り尽くしていた。


 急に動かないこと。


 ミツルはノイチの身体をきつく押さえつけ、黙ってクマバチを見つめる。


「プッハァ~!! 昼呑み最高ォ!!」


 一人酒を楽しむ、トッシュ岡田。



 《ブウゥゥン》



 ビールの香りに誘われて、クマバチはミツルたちから離れてゆく。



 《ブウゥゥン》



 クマバチはトッシュ岡田に一直線。


「肉も、ちょうど焼け……ん? 何だ、コレ。肉が引っ付いて……まぁ、ええわい。網ごと食ってやるのさぁ!」


 などと言いつつ、網から肉を剥がそうと足掻くトッシュ岡田。


 そんな彼の耳元に、重たい羽音が響く。



 《ブウゥゥン》



「ハチィィィ!!??」


 トッシュ岡田は大慌て。


 骨の柄を握りしめ、ハチを振り払おうと、肉に引っ付いた網で激しく抵抗する。



 ――ドンガラガッシャァァン!!



 なんということでしょう。


 自らの勢いに負け、地面に転がったトッシュ岡田。


 コンロの炭も、トマホークステーキも、ビールも、椅子も机も、自慢の巨体ですべてをひっくり返して台無しに。


 音に驚いたクマバチは遠くへ飛び去り、地べたに残ったのは、憐れな昭和の怪人、ただ一人。


「…………」


 三人は無言でコミュニケーションを取る。


「…………」


 弁聖の了承を得たミツルは、答えを渋るノイチを見つめた。


「…………」


 ノイチは最後まで悩みぬいてから、ようやく首を縦に振った。


 笑顔を見せたミツルは、トッシュ岡田に駆け寄ってゆく。


「あのー……よかったら、こっちに来て、一緒にやります?」

「さ……サンキュー」


 世代も、考え方も違う二人が、手を取り合う――。





「あ、すげぇ。このマッチ、あれだけビール浴びたのに、全然点く」

「結構いいよ、それ……ちょっと高いけど」


「ミツル、お肉おかわり!」


「はいはい……申し訳ないんですけど、持ってってくれます?」

「うん、いいよ。体型のわりに、よく食べるお嬢さんだねぇ?」

「それが取り柄ですから。それに、そういう人がいないと、焼きがいもないですし」


「ふぇっふぇっふぇ」


 憲法記念日。


 日本国憲法の施行を記念し、国の成長を期する日。


 この日成長したのは、誰だったのか。


 反目しあう者たちが、一緒になってバーベキューを楽しむ。


 運命が翻弄する、一日でもあった。

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