第78食 情報が錯綜しております! グランピング? 闇の帝王? なんのこと?
――真菜ミツルの、夕食万歳!
中トロ、マグロ、イカのお寿司。
ハンバーガーにフライドチキン、そしてステーキとガーリックライス。
デザートにスイカまでついて。
半ばやけ食い気味の晩ごはんは、案の定、食べ切れる量じゃありませんでした。
でも、ノンちゃんは食べた。
ペロッと食べちゃった。
人よりもいっぱい食べられるキミは、食後のポッコリ出たお腹が気になるのか、鏡の前でポージング。
かわいいので、それは全然かまわない。
『妊娠しちゃった!』とか、そういうジョークを言ってくるのだけはやめてほしいけど、『お腹、擦って?』って言われて、実際そうしてみると、すべすべもちもち。
なんだか、とっても幸せな気分になってくるものです。
この幸せをもっと長く、そして大きくしたい。
そう思って、今、ウカウカ先輩に連絡入れて、お仕事の斡旋をお願いしました。
返信はすぐに来ました。
その内容を見て、ちょっと驚く。
あなたたちは今日、俺抜きで集まっていたのですね――。
「ノンちゃんさぁ……俺に言ってないこと、あるよね?」
夕食もひと段落した居間で、ミツルは手元に集中させていた視線を、愛しの彼女の背中へと向けた。
「なぁに?」
全身鏡の前で腰を捻ってみたり、あちこちに腕を回してみたり。
お腹が出た状態でも、かわいく見える角度を探している真っ最中のノイチが鏡越しに見てきた。
ミツルは複雑な思いで、届いたばかりのメッセージが表示されているスマホに再び目を落とした。
「サークルの合宿、なのかな? 皆でグランピングに行くことになったって、ウカウカ先輩が」
「あ! そうだった! ごめん、言うの忘れてた!」
彼女は小さく舌を出して、愛嬌たっぷりに笑った。
「……楽しみだね?」
続けざまに放たれた純粋な言葉が、ミツルの小さな拗ねを内省へと変えた。
――来年は、ゼミに入ろうかな。
そもそも、サークルメンバーは変な人たちばかり。
いちから、正しい交友関係を学び直そう。
そう思ったミツルは、膝元で喉を鳴らしている愛猫の背中をそっと撫でた。
「……で、これ、場所なんだけど、栃木の廃校って書いてあるけど、大丈夫なの?」
「え!? 怖い!! なにそれ!?」
「知らなかったの!? なんのために、話し合いに行ってきたの!?」
ツッコミを無視して小走りで駆け寄ってきたノイチが、隣にちょこんと収まる。
その勢いのまま、彼女は腕にしがみついてきた。
「どうしよう。みちゅ、守って?」
「守るも、なにも……部屋割りとか、どうなってんの? でも、こういうのって普通は男女別にするだろうから、そうなってくると、出来ることもそんなにないよ?」
傍らに猫、片腕にはギャル。
どんなに暑苦しい状況でも、ミツルは冷静だった。
「やだぁ。4泊も、みちゅと違う部屋なんて……どうしよう」
「4泊もすんの!? 長くない!?」
「知らなかったの?」
「知らない! ただ今、絶賛アップデート中でございます! え!? 日程は、どうなってるの!? 出発の日とか、わかる!?」
「火曜日からだよ?」
「火曜日って……今日は、土曜日だから……あと二日しか猶予ないけど!? どうすんの!? なに持ってけばいいの!? そんな長期間の外泊したことないから、わかんない!! ほんで、よく予約取れたな!? こんな近い日程で!!」
パニック&パニック。
タイトなスケジュールに頭を悩ませるミツルに、密に集まった女と獣は彼から離れようともせず。
そんな状況下にある居間のふすまが、不意に開かれた。
「ふぅ。あついあつい」
姿を現したのは、お風呂からの帰還を果たした、ぼぎだった。
秋風家の世帯主でもある老婆は、のんびりと歩いてくると、二人と一匹が密集するエリアの向かい側にちんまりと座り込んだ。
「ねぇ、おばあちゃん。私たち火曜から旅行なんだけど、もち丸と二人だけで大丈夫そう?」
「はいよ。どこに行くんだい?」
「栃木だって」
「栃木っていうと、お山かい?」
「いや、小山じゃなくて……」
お山を小山市と勘違いしたミツルは、祖母と孫の会話に割って入り、スマホを操作して先輩が添付してくれた施設のホームページを読み始めた。
「もうちょっと北の、宇都宮のさらに北だな……芳賀町? ってところ。聞いたことねぇな……」
首を傾げながら画面をスクロールしていると、ぼぎがぽつりと呟いた。
「気をつけるんだよ? お山は”出る”からねぇ」
「怖ぁい!!」
――ギリギリ、ミシミシ!
「痛ぁい!!」
ステーキ&ガーリックライスによって、いつもより数割パワーが増しているノイチに腕を締め付けられた。
「ミツル、良かったらばあちゃんの杖、持っていくかい?」
「あの杖、妖魔退治に効果あるの!? でも、いらない!! 妖魔なんて出ないし、俺が持っていくと、ばあちゃんが困っちゃうから!!」
「ふぇっふぇっふぇ。ミツルはいい子だねぇ。なぁに、ほんの冗談さねぇ」
むにむに、ふわり。
ミツルを飛び越えて、愛猫の横腹の肉をつまみながら、ノイチは尋ねた。
「ねぇ、どうして出ないって、わかるのぉ?」
「だって、見たことねぇもん」
鼻で笑って答えるミツル。
彼女にとってその姿は、かっこよくて頼りになる、最高のスーパーなダーリンに他ならなかった。
「……やっぱ、みちゅと同じ部屋がいい」
「それは、しょうがないでしょ。でも、楽しそうだよ、ほら。学校のプールにコテージがあるんだって」
ミツルが見せた写真は、ノイチの態度と表情をみるみる明るくさせた。
「うわっ、ほんとだ! めっちゃ綺麗! プールもいい感じ!」
「でしょ? 俺も、楽しみになってきちゃった」
かくして、摩訶不思議な廃校グランピング合宿が幕を開けることになる。
――見たことがないからといって、出ないとは限らない。
闇の世界に潜む帝王が、校長としてスタンバイしていることを、ミツルはまだ知らない。




