↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/130

第71食 リタの正体

 

【帝都寛大大学】


 躍動感あふれる力強い筆文字が刻まれた正門前。


 暑さも和らぐ曇天の木陰の下、一組の男女と一人の女が顔を合わせた。


「えりりん!?」

「ノンノン!?」


 ミツルが抱えていた不穏なものは、顔を合わせた二人が奏でる「ごきげんよう」のハーモニーのもと、秒で解消された。


「待て待て待て! あなたのどこに『えりりん』要素があるの?」


 正直言って、ホッとした。


 しかし根が真面目なミツルは、どうしても生じる矛盾が気になった。


 そんな彼の問いに、リタはあっけらかんとした表情で答える。


「言ってませんでしたっけ? 自分、名前がふたつあって、外向きには『リタ』で、仲良くなった人には『エリカ』って呼んでもらってるんですけど」

「知らない!! なんだそれ!? 名前がふたつ!? 海外の人なの!?」


 また始まった。


 ノイチはニコニコと、愛するミツルの躍動を見守る。


 一方で、リタは飄々と爆撃を続けた。


「そう……っすね。まあ一応、そういうことになりますね。本名は『エリカ=リタ・オヴェリス』なんで」

「オヴェリス!? どこの国の王女様!?」

「いくらノンノンの彼氏でも、さすがにそこまでは教えられないっす」

「王女様なのは合ってるんだ!? 怖い!! その辺に、お付きの人とか隠れてないよね!? これまでの数々の無礼をお許しください、殿下!!」


 初対面で王女様の服の紐を緩めた男、真菜ミツル。


 言葉の勢いそのままに頭を下げた彼だったが、その出生もおかしくないかと思い直し、すっと顔を上げた。


「いや、でも待って!? 確か、実家が『植木屋』って言ってたよね!? それは何だったの!?」

「そんなの、嘘に決まってるじゃないですか」


 リタは小馬鹿にしたような笑みをミツルへと向けた。


「逆、逆! 逆なの! 普通は、王女様の方が嘘だから! なんでそんな嘘ついたんだ、このバカ!!」


 打ち首確定、不敬罪。


 本国だったら、おそらくそうなっていたであろう暴言で、ミツルはこの無駄な会話を締めきった。


 ふふんと鼻で笑って、リタは旧友へと体を向け直した。


「ノンノンの彼氏って、面白い人だよね? いっつも笑いこらえるの、大変でさぁ」

「でしょ? 彼氏って言うか、旦那だけどね」


 ドヤ顔で返すノイチ。


 謎のマウント感を出す彼女に、ミツルは何も言えなかった。


「それにしても久しぶりだね、ノンノン」

「そうだね。3月に卒業して以来だから、半年ぶりくらい?」



 ――なわけねぇだろ、バーカ!! と思ったけど、大体合ってんな。もうすぐ8月かぁ……。



 テスト明けの彼に、隙はなかった。


 久しぶりに会った女子二人。


 なにが始まるかは、言わずもがな。



 ――手持無沙汰、開始。



「どこまで進んでるの?」

「チューと、ちょっと仲良しするくらいかな」



 恥ずかしいから、全部言うなバカ。


 もっと言え。



「あのお堅いノンノンがチュー!? ほんとに!?」

「まあね。ミツルが可愛すぎて、どうしても我慢できなくて」



 面と向かって、言われたことないけど……普段、そんなこと思ってたの?



「あぁ、わかるかも。でもなんか、二面性あるよね?」

「そう!! そこがいいの!!」



 恥っず。


 もしかして俺、いないことになってる?


 二人で買い物行ったりすると、こういう状況によくなるんだけど、これって何なの?


 知らないおばさんと、ずーっと喋ったりして。


 で、俺は後ろの方で、股間に手を当てて待ってるだけ。


 サッカーのPKみたいに。


 サッカーといえば残念だったなぁ、ワールドカップ。


 相手は、ブラジルだったっけ?


 ブラジルといえば、巨大キリスト像があるね。


 キリストといえば、大工の息子。


 馬小屋で生まれて。


 馬小屋といえば、厩戸皇子っていうのが、日本にもいまして。


 さてさて、こんな連想ゲームしてるうちに、そろそろ会話も終わったかな?



「え!? 猫ちゃんも飼ってるの!? いいなぁ……」

「今度、遊びにおいでよ! こうしてまた会えたのも、何かの思し召しだろうし」

「えぇ? でも、二人の邪魔しちゃ悪いよ」

「大丈夫だって。おばあちゃんもいるんだし」

「おばあちゃんの前でも、イチャイチャしてるの!?」

「うん。もう、習慣みたいな感じになってきてるから」



 ダメみたいですね。


 それより、ノンちゃん?


 俺たちは断じて、そんな乱れたことはしてませんよ?


 どれのこと言ってるんだろう、この子は。


 ばあちゃんが見てるときに、俺がそんなことするわけないし、させるわけもないじゃん。


 どうしてそうやって、すぐ話を盛っちゃうの?


 久しぶりに同級生と会って、テンション上がっちゃった?


 いいよ、もっと盛りなさい。


 それで家に帰って『話と全然違うじゃん』って、理不尽にキレてこなければ、いくら盛っても構わない。


 ……キレるだろうね。これ、たぶん。今日、家帰ったら。


 ノンちゃんが勝手に作ったフィクションなのに、現実だと思い込んじゃって。


 おかげさまで毎日がファンタジーですよ、秋風家は。



 分厚い雲の向こう側で、人知れず夏の太陽が昇っていく。


 三人がようやく正門をくぐり抜けた頃、その日差しは天辺に達していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。