↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/128

第70食 リタの謎

 

 リタには謎が多い。


 家に帰っても、ミツルは彼女のことを考えていた。


 ノイチと同じ学校だったと言うわりに、交流をしている気配がないし、やたらと孤独をアピールしてくる。


 そんなことを思いながら、ミツルは斜向かいに座るノイチの横顔を眺めた。


 家にいるときは口を開けがちだけど、綺麗な顔をしていらっしゃる。


 ノイチについては間違いなくそうなのだが、リタはもっと、どこか日本人離れしたような顔立ちをしている……ような気もする。


 そのせいか、少々とっつきづらいところもあるが、いざ話してみれば、一人称は『自分』という……やっぱり、中身もとっつきづらかった。


 もう、わからない。


 考えれば考えるほど、ドツボにはまっていく。


 それが人間関係だった。



 ――聞くか。



 危険性は高く、機嫌を損ねる可能性は払しょくできていない。


 それでも、ミツルにしては珍しく、リスクを顧みない勇気ある行動をとった。


「ノンちゃん、リタちゃんって知ってる?」


 返ってきたのは殺気のこもった猛獣の眼差しだけだった。



 ――終わった。



 ちゃん付けがまずかったか。


「誰、その女」


 そう思う暇もなく、居間にはノイチが放った冷たいトーンの声が響いた。


 ここで下手を打てば、命はない。


 ミツルは目を細め、両手を開いて敵意がないことを彼女に伝えながら、慎重に言葉を紡いだ。


「中学か高校かは知らないけど、ノンちゃんとおんなじ『フェニ女』出身の人なんだけど……ほら、この前話した、サイドを刈り込んだ後輩の……」

「女の子の話?」


 声に出してはいけない『女』という単語。


 ルールをいち早く察知したミツルは生唾を飲み込んで、こくりと頷いた。


 ノイチはまばたきすらせず、こちらをじっと見据え続けていた。


「……知らない」

「えっ!? 嘘だ!? 『ノンノン』って呼ばれてたんでしょ!? よく思い出して!? 怖いから!!」


 ノイチも怖ければ、リタの存在も怖くなる。


 ミツルは慌てて問い詰めた。


 すると、彼女はピクリと眉を動かして、怒りで吊り上げていた目を少しだけ下げた。


「……どんな子?」



 ――助かった。



 安堵から、ミツルは洪水のように情報を吐き出した。


「実家が植木屋で、自分のことを『自分』って言う、少し変わった子。ハーフか、わかんないけど、そういう海外の血が少し入ってるかもしれない。そんな顔立ち。リタ……っていう名前なんだけど、覚えてない?」

「……わかんないよ、そんないっぺんに言われても」

「ゆっくりいこう。ごめんごめん」


 幸せとは、愛する人と息を合わせること。


 最近になってその真理にたどり着いたミツルは、はやる気持ちを抑え、ノイチが覚えていそうな情報だけを、少しずつかいつまむことにした。


「リタっていう名前は?」

「知らない」


 没。


「実家が植木屋さんっていう子はいた?」

「知らない。そういう話、クラスメイトとあんまりしなくない?」


 没。


「髪型は? なんかこう……夏木マリみたいな、刈り込みベリーショートなんだけど」

「そんな子いないよ。高校のときは、みんな真面目な格好してたもん」


 没。


「ハーフの子とかは? そういう子は、いた?」

「知らないけど、そういう子も、たくさんいたんじゃない?」


 没。


「一人称は? 『私』とか、『うち』とかじゃなくて、『自分』って言う子はいなかった?」

「五、六人くらいはいたと思うけど」



 ――そこだけ引っかかるんかい! なんだ、それ! いすぎだろ、フェニ女!



「その中で、よく話してた子とか、いる?」

「あぁ……三年間同じクラスだった、『えりりん』っていう子がいたけど」



 ――ダメだ、名前が全然違う。でも、念のためにチェックしたい。



「卒アル、見して?」

「ヤダよ、恥ずかしいもん」



 ――はい、終わった。迷宮入りです。



 ゴロンと仰向けになり、天井を仰ぐ。


 清涼な畳の香りだけが、熱い気持ちを包んでくれた。



『えりりん』って誰。


 リタは一体何者なんだ。



 ぐるぐると巡って落ち着かない思考は、やがて一つの強行策を浮かび上がらせた。


「土曜日、空いてる?」


 むくりと起き上がり、ノイチの顔を覗き込む。


 そこにはもう、危険な色はなかった。


「デート? なら、空いてる」

「ではないけど……それは日曜にするとして!」


 彼女の顔がムッとした表情に変わるや、ミツルは素早く言葉を変えて平穏を取り戻す。


 続けざまに、思いついた案を打ち明ける。


「その前に、実際にその子と会ってみてくんない? このままだと怖いんだよね、俺」


 嘘つきと交流しているかもしれない。


 だったら気持ちの悪い、この交友関係は終わりにしたい。


「まぁ、いいけど。土曜?」

「うん……」


 視線を落としたミツルは、リタの笑顔を思い出して、胸がチクリと痛んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。