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パチンコでほぼ全財産をスった俺が、なけなしの金で買った弁当に殺されかけた結果、弁聖と呼ばれるババアに拾われて強くなる話  作者: ふるみ あまた


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6/10

第6食 秋風家の夜

 

 熱狂冷めやらぬスーパーマーケット『令和市場いそっぷ』を後にした三人。


 その行き先はもちろん、弁聖の家である。


 弁聖ぼぎと孫娘ノイチ、そして『聞こえし者』ミツル。


 運命共同体となった三人は、いそっぷで購入した弁当を囲み、穏やかな夕食の時間を迎える。


 そこでミツルは、一人静かに考え込む。



 ――なにこれ?


 普通に、知らない人たちと晩ごはん食べてる。


 怖すぎ。


 表札見たら「秋風」だって。


 お洒落な苗字。


 今さらだけど。


 それにしても、おっそろしい世界で、おっそろしい能力を手に入れてしまった。


 だけど、どうして?


 どうして、この力、今日のパチンコで火を噴かなかったの?



 骨の髄までパチンカス。


 だからこそ、ミツルはパチンコで勝てない。永劫に。


 その証拠に、弁当を選ぶ際、当たりを求めなかったミツルは『聞こえし者』として簡単に覚醒。


 彼はもう、この世界の住人となってしまった。永久に。


 姉夫婦とその子供、そして飼っている犬よりも冷遇してくる実家に、ミツルは帰れない。永遠に。



「はい、おばあちゃんの分」

「ありがとうねぇ」


 ミツルの目の前には、勝ち取ったローストビーフ弁当を祖母に分け与えるノイチの姿があった。


 死別するまで祖父母を大切にしていたミツルは、彼女のその部分にだけは好感を持っていた。


「はい、ミツルの分」

「え? あぁ……ありがとう」


 ゴリゴリのネイルアート付きのノイチの指先を見て、ミツルは思う。


 ――偏見は良くないな。


 縁のなかった人種と交流することによって、ミツルの世界が広がった。


「ピザもあるよ?」

「そんなには、食べられないよ?」

「海鮮チラシもあるからねぇ。男の子だから、たくさん食べるだろう?」

「そのー……ばあちゃん、食べられないって言ったばかりなんだけど……」

「あ、ミツルに食べて欲しいものがあるんだ!」

「ギャルギャルギャル。家系なの? 人の話、なんで聞いてくれないの?」

「ギャルって呼ばないで。私、ノイチだから」

「聞こえてんじゃん……」

「うるさいなぁ、ミツルは。そういうのいいから、もう食べよう? いただきます!」

「いただきます」


 賑やかになった秋風家の居間。


 弁聖という仮面を脱ぎ捨て、ぼぎは、一人の祖母としての笑顔を見せていた。




 ――分析開始!


 というわけで、いろいろとございましたが晩メシです。


 ラインナップはお弁当、海鮮チラシ、ピザ、という炭水化物地獄。


 医者に怒られるやつ。


 ピザなんか、餅乗っちゃってますから。


 お弁当はローストビーフ。


 お坊さんが食べたら怒られるやつ。


 ソースにニンニク入っちゃってますから。


 で、ばあちゃんがいつの間にか選んでいた海鮮チラシ。


 食べても誰にも怒られないやつ。


 これはすごいね。イクラが乗って、五百五十円だって。


 さすがは、弁聖の選んだ逸品。


 というか、これは『いそっぷ』がすごいのか。


 それにしても、スーパーというのは盲点だったなぁ。


 男の一人暮らしだと、実はあまり行かないんだよねぇ、スーパーって。


 カップ麺とか、飲み物とか、ドラッグストアで大体揃っちゃうところあるし。


 弁聖だの、聞こえし者だの、ウサイン・ボルトみたいなポージングを遺影で決めてるじいちゃんだの、ツッコミたいところはいっぱいあるけど、せっかくのご馳走だ。


 冷める前に、いただくとしましょう。




 ミツルが最初に手を伸ばしたのは、照り焼きマヨチキン餅チーズピザ。


 冷えた餅というのは、この世で一番最悪とされるからである。


 電子レンジ係であるノイチの手によって、照り焼きソースとマヨネーズがジュクジュクになるまで温められたピザ。


 ミツルはそれを手に取り、かぶりつくッ――!


「……あっ!」


 温めすぎだ、女ァ!!


 ミツルの上あごは、お座り一発で大ヤケド。


「あのー……さぁ。どうして、こんなに温めるの?」

「知らない」

「知らないっちゃ、あんめぇ!!」


 怒りと共に飛び出した田舎の乱暴な魂は、規制というぬるま湯に浸かりきった都会の女の魂を震わせるッ――!


「……あはっ、あはははは! なにそれ!? どこの方言!?」


 ノイチはアイラインが涙で落ちるほどの大笑い。


 その笑いは、それまで紳士を気取っていたミツルの心の鎧をはぎ取っていった。


「鉾田だ、このバーカ! ……女の子に向かって、バカっちゃ、あんめぇ!!」

「あはははは!! あんめぇ!!」

「うるっせぇ。ヤケドしちゃったもん、もう……。海鮮チラシ、美味しく食べられないじゃん」

「あはははは……あ、そうだ、アイスで冷やす?」

「そうか! ありがとう、それ、お願い」


 ほどなくして、ノイチが持ってきたのはバケツアイス。


 それと、スプーン代わりのしゃもじだった。


「デカすぎだっぺよ!! それは、ご飯よそーやつ!!」

「あはははは!! 何言ってるか、わかんない!! とりあえず、口開けて!?」



 ギャルの笑い声が、古い木造住宅の天井に吸い込まれていく。


 ノイチにしゃもじ一杯のアイスを口の中へ強引に押し込まれながら、ミツルは自問した。



 まともじゃねぇ。


 何もかも。


 けれど、なぜこんなにも、居心地がいい?





 ――食後。


 炭水化物の暴力で重くなった瞼を擦りながら、ネットフリックス限定ドラマを見る、三人と一つの遺影。


「フィッシュバーガーあるんだけど、食べる?」

「いや、もういらない」

「じゃあ、明日にしよう。ミツル、忘れないでね?」

「そうね」


 秋風家に、あまりにも自然な形で馴染むミツルであった。

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