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パチンコでほぼ全財産をスった俺が、なけなしの金で買った弁当に殺されかけた結果、弁聖と呼ばれるババアに拾われて強くなる話  作者: ふるみ あまた


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第5食 激アツの真紅

 

解析(アナライズ)か。ぐっふっふ……バッカめーい。お前みたいな能力者に見抜かれぬよう、その弁当箱は視覚情報はおろか、おかずの匂いまで遮断する特殊素材で出来ているッ!! 客という名の、養分どもの射幸心を煽るため、特盛ローストビーフ弁当を入れてはいるが、その確率は千二十四分の一。あとは期限の切れた商品を再調理したものを少し入れただけの、スカスカのカス弁当。お前なんぞに、大当たりが引けるものかーい」


 誰に聞かせるわけでもないのに、やたらと大きな声で独り言を放つトッシュ岡田。


 彼は総菜コーナーから去っただけで、乾物・ふりかけが置かれている通路に身を隠し――。


「ママ、なにあれ?」

「しっ、見ちゃいけません!」


 体が大きすぎて、隠しきれてはいなかったが、ミツルの様子をうかがっていた。




 ――ヤバい。


 わかんないならわかんないで、適当に選べば外れを引けるはず。


 だけど、なんだ。


 この、あまりにも何も感じない、無の境地。


 マズいぞ、俺。


 こういう日に限って、引くんだよね。


 ――プレミアを。




「どうしたんだろう……全然、動かないけど」


 不安がるノイチ。


「さぁねぇ……追い込まれているんじゃないかえ?」


 ニヤリと笑う弁聖。



 今こそ、ミツルの真の力が目覚める時――。



 はい、ヤバい。はい、ヤバい。はい、ヤバい。


 どうすんの、俺。


 《オイシイヨ》


 ちょっと動けば、確変引きそう。


 《ハヤク、エランデ》


 今、俺はそれぐらいのレベルにいる。


 《ムシ、シナイデ》


 なんかもう、赤ちゃんみたいな声が聞こえてきた気もするもんね。


 《モウ、ハヤクシテ》


 疲れてるのよ。だって、今日はパチンコ、天丼、チキンカツ丼だもん。


 《ココダヨ!》


 あのうるさいやつを選んじゃいけないのは、もうわかった。


 つまり、あれ以外の弁当が正解ってこと。


 楽勝だね。


 ……だが、なぜ動けない?


 あのヤバい、赤さんボイス以外の音がなぜ聞こえない?


 ばあちゃんの声も、


 ピンキーギャルの声も、


 頭おかしめなお客さん方の声も、


 まるで……。


 まるで、俺以外の時間が止まって――。



 キュイン♪



 キュイン♪ キュキュキュキュキュイン♪ キュイン♪ キュイン♪



 止まった時の中で、運命の弁当が動き出す。


 四角い白の箱は、瞬く間にミツルの手へと収まっていく。


 《ボクは、ローストビーフ弁当。待っていたよ『聞こえし者』》


 ……うるっせぇ、離れろ。


 《さあ、弁聖たちが待っている。一緒に行こう》


 話聞けや、ベビーちゃん。


 《ボクは礎。だから、購入したその日のうちにお召し上がりください》


 礎関係ないだろ、それ。


 《卵も使ってるから、アレルギーのある方は注意してください》


 まだボケるのか。長いよ。わかった。わかったから、もう自由にしてくれ。


 《あと、わさびも使っているけど、わさびといっても、西洋わさびなので……》





「わかったっつーの!!」


 ミツルの絶叫が店内にこだました。


「おい……あの子、手を使わずにお弁当取らなかったか?」

「気のせいだろ……」

「気の毒に……虚無弁の被害者が、また増えたのか」


 ミツルの耳に、野次馬たちのざわめきが入る。


「…………」


 ミツルは手の中に収まる、どっしりと重い、四角い箱を見つめるばかり。


 そんな彼に、錫杖を持った弁聖が問う。


「それで……いいんだね?」


 弁当と弁聖、視線は二つの間で行ったり来たり。


 うんともすんとも言わぬ、ミツル。


 そんな彼が視線を移して、答えを求めた先にいたのは――。


「???」


 秋風乃一。


 困惑の表情を浮かべる彼女に、ミツルは問いかける。


「……卵アレルギーは?」


 首を横に振るノイチ。


「わさびは平気? わさびといっても、西洋わさびらしいけど」


 首を縦に振るノイチ。


「じゃあ、食べな。チキンカツ丼くれたから、そのお返し。ローストビーフ弁当だ」


 ポン、と。


 気前よく、重量のある弁当箱をノイチへと手渡すミツル。


 オーディエンスたちの眼差しも集まる中、ノイチは弁当箱の蓋をゆっくりと開いた。


「――!?」


 赤、赤、そして赤。


 ノイチの目の前に広がったのは、激アツの真紅色に染められた、肉の花のブーケだった。


 その中心には卵黄の花芯が、二人の将来を祝福するかのように笑っていた。


「うわぁぁ!! こ、こいつ、一発で、大当たりを!!」

「プロポーズだぁ!! 肉の花束で、弁聖の孫娘にプロポーズしおったでぇ!!」


 曲がりくねった既成事実に興奮し、ノイチの顔もみるみる紅潮してゆく――。


「店の中で開けるバカがいるかぁ!!」


 周囲を素早く見渡し、スマホで撮られていないか心配するミツル。


「だ、だって……」


 涙ぐむノイチ。


 笑顔だったのは、弁聖ぼぎだけであった――。




 ふりかけの棚の陰。


 脂汗でベタついたトッシュ岡田の指が、スマホの画面を叩く。


「……は、はい。私です。トッシュです……。い、いえ、岡田の。いやいやいや、その岡田じゃなくて。トッシュの。あの、広報宣伝部長の。いや、あの、横分けじゃなくて、テクノカットに近いマッシュの……」


 日本一のコンビニエンスストア『(シャドウ)(エッジ)マート』は、報・連・相にコストを割かず。


 弁当だけでなく、人間関係も希薄でスカスカな企業は、『聞こえし者』の再来を告げようとするトッシュ岡田の存在を認知していなかった。

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