第55食 home
闇の中で響くのは、爆音・濁音・ヌルヌル音。
そして、カオスなメンツの声だった。
『コングラチュレーション! おめでとう! 君こそ、次世代のスターだ!』
イルカ様かな?
またなんか騒いでら。
『痛いかもしれないけど、安心して。私の回復薬で治せるから。元気になったら、またよろしくね?』
ウカウカ先輩だ。
何が起こってるの。
もしかして俺、死にかけてます?
『こちらが責任をもって、彼を送り届けます』
誰だっけ?
あぁ、敵の側の、あの人の声だ。
セクシーなクノイチ衣装の、受付のお姉さん。
……………………
………………
…………
……いや、ダメじゃない?
朦朧としちゃって、意識が遠くなりかけてたけど、おちおち気絶もできやしない。
敵側に身を預けたくないよ、俺は。
ここまで一緒に戦い抜いた先輩なら、この気持ちをわかってくれるはず。
お願い、ガツンと言ってあげて。
『そう? それじゃあ、お願いするわ』
なんでそうなるの?
ここまで連れてきたんだから、先輩が送ってってよ。
なんかいっぱいボタンとかレバーがついてる、あの軽自動車で。
ああいうのって、違法改造にならないの?
そもそも捕まらないのか。
思えば、あそこに治外法権の人だっていうフラグがあったんだね。
わかるか、そんなもん。
『また会おう! ドクター鵜飼!』
『……あんたが会いたいのは、私じゃないでしょ?』
なんか、かっこいい別れのやり取りしてる。
この二人、なんなんだろうね。
壮大な何かをしてるってのは、わかるよ。
だけど、巻き込まれたくないよね。
『心配ご無用! 私の興味は今、このニューウェーブに一点集中!』
巻き込まれたよね。
たぶんだけど。
怖いから、もう寝ちゃおう。
……………………
………………
…………
闇の中で響くのは、爆音・濁音・モーター音。
うるせぇうるせぇ。
なに?
プロペラ音?
ヘリかな?
ヘリポートとかなかったじゃん、あのホテル。
だれが運転してるの?
そういうことでもないな。
とにかくヤバい。
どこ連れてかれちゃうの?
『い……アスカ……』
『私が……生命力さ……』
『……塩…………』
全然聞こえないし。
なんで普通に会話できてるの、この爆音の中で。
ほんで『塩』って、なに?
あと、『塩』って言ったの、たぶん先輩なんだよ。
さっき別れの挨拶みたいなのしてたくせに、なんで乗ってんの?
でも、よくよく考えると、先輩の車、ボッコボコにされてたもんね。
そりゃあ、乗るしかないか。
ちゃっかりしてるというか、この人たちの、そういうところがわからない。
もう寝よう、うん。
……………………
………………
…………
闇の中で響くのは、爆音・濁音・銃撃音。
うっせぇ、うっせぇ。
なに?
戦争?
ほんで暑いし、ちょっと埃っぽい。
どこに来たの?
砂漠?
頼むから、一発で家まで送ってってよ。
『あの国が騙る正義は、個人的に好きではないわ』
『そうは言え、親分の親分には従ったふりをする。それが一流のエージェントというものだろう?』
かっこよ。
何してんの?
ウカウカ先輩とイルカ様。
対立する二人が協力して、第三勢力と戦った後なのかな、たぶん。
『こちらデルフィヌス・レベリス。作戦は完了。直ちに帰還します』
その声は、受付のアキコさんだよね?
誰と通信したんだろう。
やっぱりここは、日本じゃないってことでいいのかな。
帰れるなら、もうなんでもいいんだけどね。
寝よう、寝よう。
……………………
………………
…………
闇の中で響くのは、爆音・濁音・ジュージュー音。
どういう状況なのかな、今度は。
いい匂いがする。
ステーキの鉄板にかかる、玉ねぎとニンニクの、あのタレの匂いがする。
宇都宮のステーキ屋かな?
一回だけ、行ったことあるんだよね。
俺も食べたいよ、ずるい。
どういう状況?
俺、気絶してんのに入店してんの?
『いらっしゃいませ。四名様ですね』
入店してんだわ。
イカれてるよ、店員さんも。
スープバーのビシソワーズ、俺も飲みてぇ。
初めて飲んだとき、美味すぎてたまげたあのスープ、飲めないの?
もっと、強くなりたい。
気絶してる場合じゃねぇ。
『カンパーイ!!』
打ち上げしてる。
腹立つぅ。
こうなったら、ふて寝だ。
寝よ。
……………………
………………
…………
闇の中で響くのは――。
「ミツル!?」
すべてが洗い流される。
お前の声を聴くだけで、俺はもう大満足。
帰ってこれた。
実感がわく。
いろいろ寄らされたけど、帰ってきたんだ。
ただいま。
生きててよかった。
もし許されるのならば、今すぐ、君が好きだと叫びたい。
「やあ、秋風ノイチ君! ミツル君は大丈夫だ! うなされながら、君が好きだと叫んでいたよ?」
お前が言うんかい、闇野イルカ。
まだ俺が言ってないんだから、言うなバカ。
「え……」
ほら、言葉に詰まっちゃって。
かわいそうに。
でもでもでもでも、え?
あれ?
気になる。
どう返してくるの?
「あなたのためだと言って、ずいぶん張り切っていたわ。疲労が重なって、眠ってしまったみたい。じゃあね。彼にありがとうって、伝えておいて」
「えっと……」
せんぱぁい!!
最後に潰していくなんて、そんなぁ!?
「ナーン……」
「もち丸、ミツルの布団、敷いてくれる?」
いや、無理だろ。
猫だよ?
「ナーン……」
ありがとよ。
気持ちは伝わってくるよ。
「おかえりなさい。おつかれさま、ミツル……」
はい、おやすみ。




