表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/45

第41食 止められない! 恋のジェットカウンター!

 

 大音量のBGMが流れる店内。


 それでも響くのは、ジェットカウンターに吸い込まれていくメダルの音である。


「レシートをお持ちになって、景品カウンターの方へどうぞ」


 計測が終わり、機械から出てきた小さな紙きれをミツルへと手渡すと、店員は颯爽とホールに去っていった。


「すっげぇ……」


 ミツルは魔法の紙を見て、感嘆の声を漏らすばかりだった。



 総回転数、約二千回。


 総ボーナス回数、二十三回。


 ボーナス合算確率、八十六分の一。



 終わってみれば、獲得枚数二千枚超。


 秋風ノイチのパチスロデビューは、ハイパービギナーズラックの大勝利で幕を閉じた。


「これで、いくらになるの?」

「だいたい、四万円くらいだね」


 投資を考えれば、上々の上。


 秋風家の女たちの引きの強さは確かなものだった。


「え~? あと三万円くらい、足りないかも?」


 ノイチは首を傾けて、ふにゃふにゃな声で訴えた。


「強欲だねぇ? でも、もう今日はやめた方がいいと思うよ? 目ぇ、ヤバいでしょ?」

「うん……」


 彼女は熱くなった目頭を、ミツルの胸の中に預けた。


 突然いちゃつき始めたカップルに、一人、また一人と衆目が集まり始める。


「おいおい……」


 抱きしめるわけにもいかず、ミツルはそのまま放置するしかなかった。


「優しいねぇ?」

「なにが?」

「ミツルが、だよぉ?」

「……あっそ」


 ギャルと言えばカラコンである。


 ご多分に漏れず、ノイチも外出時はカラコンのお世話になっている。


 おしゃれに関しては見逃しているミツルであったが、彼女の眼精疲労の兆候だけはしっかりと掴んでいた。


「ミツル、なにか打つぅ?」

「いや。もうこんな時間になっちゃったし。カフェオレだって、お腹空かしてるだろうから」


 スマホを確認すれば、午後七時。


 今頃は、お腹をすかせた猫ちゃんとばあちゃんが、首を長くして待っていることだろう。


 ノイチの華奢な両肩を引き剝がしたミツル。


 彼が目指す先は景品カウンター。


 しかしノイチが、再び胸の中へと飛び込んできた。


「……なんだよ?」


 ガッチリホールド。


 体は細いが、食の太いノイチのインナーマッスルは、


 そんじょそこらの女の比ではなかった。


 冗談抜きに、ふりほどけない。


 まさかの事態がミツルを襲った。


「……ハグして?」

「しない」

「どうして?」



 ――公衆の面前で、いきなり甘えやがって。疲れすぎだろ。力はすげぇけど、体力はないのか?



「……東京都迷惑防止条例違反だから」

「なにそれ?」

「捕まるよ? マジで」

「……いや!」

「うっ!?」


 アバラが軋んだ。


 彼女は、ただミツルに甘えていたわけではない。


 そこにあったのは、世にも恐ろしい策略だった。


「じゃあ、ミツルがゲームの機械代、残り三万円、払ってくれる?」

「どうして俺が……うっ!?」


 締める力が強くなる。



 ――コイツ、俺のこと千切る気か!?



「だって、ミツルも一緒に遊ぶんだよ? 払ってくれないの?」

「払うか……んなもん……」


 下から顔を覗き込んできたノイチはふわりと笑うと、手の力を少しだけ緩めてくれた。


「はぁ、はぁ……」

「……ハグしてくれたら、許してあげるかも?」

「え?」

「どっちか、選んで!!」

「うっ!?」


 力を込め直すノイチ、空気を取り込む力すら奪われるミツル。


 このままでは死ぬ。



 東京都迷惑防止条例違反で逮捕か? 三万でスッカラカンか?



 残り少なくなった酸素で脳を動かし、悩みぬいたミツルが導き出した答えは――。


「払う……三万……」


 実に意気地のないものだった。





 景品カウンターでなにやら呪文のようなやり取りをしているミツルの背中が、光と音で疲れ切ったノイチの脳を癒やす。


 一か八かの、ハグorマネー。


 彼女にとっては、かなり背伸びをしたギャンブルになった。



 ちょっとがっかりしたけど、目が痛いのには気づいてくれた。


 抱きついても嫌がらなかったし、


 もしかして……ああいうことされるの、慣れてる?


 だとしたら許せない。


 私以外に、ミツルにそういうことする女が。


 え? ムカつくんですけど。


 ……ホントにいるの? そういう女。


 ゼッタイやだ。


 あ、なんか、怒ってたら喉乾いてきたかも。


「はい。喉乾いたでしょ? 余りメダルで交換したから、飲みな?」

「ありがと」


 好き。大好き。


 こうやって飲み物ひとつでも、きちんと私の好みを押さえてくれるし。


 なんか、勝手にどんどん歩いていっちゃうし。


 ねぇ、どこ行くの? 教えてよ。


「……なんだよ?」

「えへへへへ」


 聞く代わりに抱きついても、なんかワイルドに返してくるし。


 いい匂い。


 私の選んだ柔軟剤だから、トーゼンだけどね。


「はぐれるなよ?」

「うん」


 優しくて、ワイルドで、なんか謎。


 ミツルは私のこと、どう思ってるんだろう?


 三万円以下の女?


 それとも可愛いのんちゃん?


「だからなんだよ? 捕まるぞ? マジで」

「あはははは!」


 スロット屋さんって、いいところかも。


 夢の国って感じで、ドキドキして。


 外では恥ずかしくてできないことが、ヘーキでできちゃう……。



【ビッグバン・サクション】


 大人気機種『ミニオンドット』のシマで、ピンクなギャルが恋する男の腕に絡みつくスロット専門店である。


 傍から見ればバカップル。


 二人の伝説の稼働はもう少しだけ続く。


 ミツルたちは順調に、どこかで見たことのある赤い眼鏡のセクシーな女性客に近づいていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ