第40食 愛の孝行ランプ
【ビッグバン・サクション】
座れば、天井一直線。
宇宙レベルの吸い込みの激しさが売りのスロット専門店である。
店内へと一歩足を踏み入れれば、宇宙を思わせる漆黒の壁が高々と天井にまで伸びている。
天井では間接照明が怪しく地上を照らし、
地上を這いつくばる常連客達は、正面の筐体に目を血走らせる。
「素敵! ありがとう、ミツル! こんなお店を調べてくれて!」
煌びやかな内装だけを見たノイチが、はしゃいだ声を上げる。
「そう? なんか、薄暗くない?」
対照的に、パチンカスとして色々と体験済みのミツルは一歩引いていた。
「ねぇ~……私がすごくいいって、そう言ってるじゃん?」
ノイチは口を尖らせ、拗ねた態度を見せる。
ミツルは慌てて軌道修正を試みたが――。
「……いいから、行くぞ?」
――あれぇ? なんか、素直になれないかもぉ。なにこれぇ?
マナミツル、二十歳。
生まれて初めて覚える、不思議な感情であった。
――やっべぇな。本格的に怒らせちゃうかも。
ところがノイチは、包み込むようにふわりと笑っただけだった。
「ミツルってさぁ、血液型はなに?」
「AB、だけど?」
「だと思った!」
得意げに言い放ったノイチは、ミツルのもとへと歩み寄る。
――えらい近いな。オバサンの車間距離ぐらい近い。ぶつかっちゃうよ?
彼女はそれまで和らげていた表情を引き締め、ミツルの口元を見つめていた。
――どこ見てんだ?
バーガーソースかアイスがついているのではないかと、
ミツルは自分の口元に手を当てる。
特に、何もない。
ふと目が合うと、なぜか目を逸らされた。
ミツルは、ますますわけがわからなくなる。
しかし、そんなのはいつものことだ。
しばらく待てば、ノイチが勝手に動き出す。
「……それで? 私は何を打てばいいの?」
「初心者は、『ノーマルタイプ』ってやつを打つといいらしいよ?」
「へぇ。じゃあ、行こっか?」
「おう」
今にも衝突しそうな距離感で、二人は歩き出した。
伝説のスロットバカップルが動き出した瞬間であった。
【好々爺ジグラ】
お年寄りから若者まで、幅広い層から人気のノーマルタイプスロットである。
画面の右下の『孝行』の文字が記されたランプが煌々と光れば大当たり。
ちなみにランプは、
『ガコッ!!』
という音と共に光る仕組みになっている。
この音は、同じブロックに座っている他の客たちが敏感に反応して見てくるため、鳴らしただけでこそばゆい気持ちにさせられたりする。
『ガコッ!!』
「あれ? なんか、光ったけど?」
「えーと……おめでとうございます。大当たりです」
「うそ!? もう!? やった!! ほらね!? 私、才能あるでしょ!?」
コインを入れるなり、ボーナス成立。
さすがのノイチも興奮気味に、
隣に座ったミツルの体をバシバシ叩いて喜びをアピールする。
――やっぱコイツ、持ってやがる。なにかしらの、ビッグな力を。
ビギナーズラックを起こすだろうと思ってはいたものの、
まさかレバーに触れることなく、当たりを拾ってしまうとは。
少し考えたミツルは『呼出』ボタンを押し、店員から観戦専用の椅子を借りた。
そこに座り直し、今日はノイチのサポート役に専念することに決める。
「じゃあ、このでっかい好々爺図柄を揃えてみて? そしたら、ボーナスが始まるから」
「うん!」
――なんか、新鮮な光景。こんなに小さかったっけ? この子。
「あれ? 全然揃えられないかも」
「ははは、最初はそんなもんでしょ。ゆっくり、縦揺れでリズムとって、狙ってみ?」
「うん……」
言われた通り、ノイチは小鳥のダンスのように体を揺すってリズムを刻み始めた。
その様があまりにも可愛らしく、心を奪われかけたミツルはぶるっと頭を振ってから、口でリズムを取ってやる。
「はいっ……はいっ……はいっ」
「あ!」
左と中のボタンは、上手くタイミングを合わせられた。
しかし最後のボタンが少し難しく、図柄が大きくずれ込んでしまう。
ノイチは悔しそうに口元を歪めながら、ミツルへと振り返った。
「惜しい! もう一回やってみよう」
対するミツルは、彼女から教わった『ゴー&トライ』の精神で励ます。
「も~う……ミツルやって?」
上手くできなくて、なんだか恥ずかしい。
彼女は甘い声を出して、ミツルを頼った。
「まぁまぁ。せっかくの最初の大当たりなんだから、自分で揃えた方が、良い思い出になるんじゃない?」
奇人変人たちに揉まれてきたおかげで、羞恥心なんてものは、とっくに破壊されている。
衆目が集まっていようが、ミツルは堂々としていて、自分のペースを崩さなかった。
「……それもそうかも。わかった。頑張ってみる!」
「おう」
孝行成立。
ミツルの落ち着いた態度は、ノイチにギャルマインドを思い出させた。
「あっ!! 揃った揃った!! やった!!」
「おめでとう!! ボーナス中は、左のボタンから順番に押せばいいだけだから、そのまま遊んでみて?」
「……うん!」
気づけば、顔がくっつきそうなほど近づいている二人。
周囲の視線も何のその。
ちょうど目の前で回転するリールのように、
二人の間には、目まぐるしい胸の高鳴りとスピード感あふれる快楽が流れていた。




