第37食 青春群像! ラーメン泥棒!
その名も『ラーメン泥棒』。
濃厚なニンニク醤油ベースのスープに、一・五玉の極太麺がスタンダードサイズ。
トッピングには焼き豚が丸々一本乗せられた、元気な人たちを中心に人気の店である。
油で少しべたついた床を進んだ先。
小上がりになった座敷席。
そこに集まるは、ノンサーサークルの四人衆。
もちろん、ミツルの姿もある。
終わってみれば、いつもの骨折り損。
しかし、目の前には湯気立つ泥棒系ラーメンが。
これは一体どういうことか。
ミツルの正面に座る小五郎が、その謎を明らかにする。
「諸君。素晴らしい仕事ぶりだった。今日は鵜飼卯花の奢りだ。皆、好きなだけ食べてくれ」
期限切れの無料券はゴミ箱へ。
やたら金回りの良いウカウカ先輩の好意により、この打ち上げは成立していた。
「いただきます!」
チャーシュー麺大盛り、チャーシュー増し。
男子大学生でもなかなか頼まない異常に盛られた肉&肉のラーメン。
これに笑顔で挑むのは、秋風ノイチだった。
「よくそんな食えるなぁ?」
いつものことだが、ミツルは隣に向かって感心と呆れの混じった言葉を飛ばす。
「ん? でも、ミツルが半分食べるでしょ?」
「食べられるかなぁ……」
二人はいつでも半分こ。
不安を口にしたミツルだったが、彼が頼んでいたのはシーフードラーメン。
味に飽きないようにと、ちゃっかり対策済みであった。
「ほーいっ」
激推し対象である二人を前に、小さめの鳴き声を上げたのはウカウカ先輩。
この変態は、二人がカップルズホテルへと行くことになった暁には、その料金を支払ってやることを心に決めている。
「ありがとうございます、ウカウカ先輩」
「ほ?」
ミツルからの突然の謝辞。
ウカウカ先輩はアフリカオオコノハズクのように首を傾げ、これを迎える。
「俺のスマホ、返してくれて」
「ほーい……」
急にそんなこと言うて、びっくりするやんの。なんや、そんなことけ。かわいいところ、あるやん。
鵜飼卯花。
その魂は、和歌山の御坊によって育まれていた。
「ウカウカ先輩は、なに頼んだんですか?」
「中華そば……豚骨醤油だけど?」
そんな彼女のラーメンは、ナルトとたっぷりの青ネギが鮮やかな和歌山系。
サイドに早なれ寿司でもあれば完璧に整うが、生憎ここは東京。
十月に控えた帰省まで、そこはぐっとこらえる。
「そのナルト、色が逆なんですね? かわいい! 全部そうなればいいのに!」
具材の違いに気づいたのは、ピンク大好きギャルのノイチだった。
「そうね」
ウカウカ先輩は顔を綻ばせながら、懐かしの中華そばをすすった。
……和歌山の女だったのか。
人知れず、分析・観察をしていたのはミツルの上位種、頂小五郎であった。
学科は違うが、同じ工学部の小五郎が、彼女に興味を持たないわけがない。
天才工学士・鵜飼卯花。
世間は彼女の頭脳を恐れているが、小五郎の興味はもっと別の部分にあった。
スピードである。
収穫加速の法則も、この女の前では霞む。
発明のサイクルが速ければ、攻撃の手も速い。
今日、あのプレハブ小屋の前でしてみせたように、
不意打ちならば『聞こえし者』のミツルに、攻撃を当てることもできる。
「……ごちそうさまでした」
「もう食べ終わったんですか!?」
どんぶりを空けるのだって、ほら、速い。
思い付きで始めたサークル活動だったが、
とんでもない大物が釣れたことに、小五郎は心を弾ませていた。
なんか、あの人、アイス食べてない?
異変に気づいたのは、秋風ノイチだった。
目には見えない変人ピラミッド。
その頂点に立つ小五郎が注文していたのは、ラーメンアイス。
彼のどんぶりから立ち上る湯気は、三人とはまったく温度の違うものだった。
「それ、アイスですよね?」
「甘党でね。そう言うキミは、どうなんだ? 甘いものは好きかな?」
ギャルと大学院生。
本来なら出会うことのない、二つの人生が交錯する。
それがノンサーサークルの醍醐味である。
「はい! 家ではバケツアイス食べてます! ね、ミツル?」
「そう、そうね」
ラーメンちゃんぽんに苦しみながらも、ミツルはしっかりと返事をした。
――ラーメン屋でいきなりアイス食う人となんか、仲良くできねぇよ。
なんかエモい感じで終わって、流れでここまで来たけど。
ダメだよ、あの窓、放置してたら。
内側からサッシ固定しないと、誰でも入れちゃうもん。
「ちょっと電ドリかなんかで、窓枠を直した方がいいかもしれないですね」
「あとでやりましょう。工具なら、私が持っているから」
ミツルの提案に、ウカウカ先輩が誰よりも早く回答する。
「じゃあなんで今日、ドライバーとか取ってこなかったんだよ!?」
「あはははは!」
ミツルの鉾田弁を喜んだのは、言うまでもなくノイチだった。
「つい、うっかりしてて」
「だからウカウカ先輩って言われてんだよ、アンタ。いっつもいっつも……今日は、ごちそうさまです」
「いいえ」
分裂しそうになる精神。
性に合わないサークル活動は、ミツルの人生に何をもたらすのだろうか。
ノンサーサークルは、まだまだ始まったばかりである。




