第36食 達成! 結成! ノンサーサークル!
石というものは、大体が見た目よりも重い。
その石もまた、そこまでの質量に至る年月を、手にしたミツルにだけわかるよう、ひっそりと告げていた。
「どうしたの? 顔が怖いよ、ミツル?」
狂気に染められたミツルの顔つきは、マイルドからワイルドに。
――どけ、女。
その心の中では、ノイチの愛だけでは止められないバーサーカーが踊り狂っていたという。
「窓ガラスを割る気ね!?」
盛り上げ上手のウカウカ先輩が余計な合いの手を入れる。
これに困ったのはサークル部長の小五郎だった。
「よせ。いや……やってしまえ」
「どっちなんだよ、おめぇ!!」
バーサーカーから鉾田の鉄砲玉へ。
魂を揺さぶられたミツルは、ツッコミを入れることにより、寸でのところで我に返る。
――分析開始。
あっぶねぇ。
あんまり無茶して、ノイチにケガでもさせっちゃったら、ばあちゃんに会わす顔がねぇから。
俺、心の中でも訛ってんな!!
いや、戻る。
僕はマナミツル。
東京の大学生さ。
オッケー。
本当にもう、こっちまで頭おかしくなっちゃう。
付き合ってられないの、もう。
じゃあどうすんの、っていうお話。
ウカウカ先輩にお金もらって、その代わりスマホ取られて。
何が起こってんの、これ?
何が面白いの、これ?
どうせアレでしょ?
たとえ中に入ったとしても、無料券の期限が切れてたりするんでしょ?
全部わかってんだよ、こっちは。
ふざけやがって。
帰りたい。
スマホ返して。
そうすれば、帰れるのに。
この小五郎とかいう院生もそうだけど、ウカウカ先輩もヤバいよ。
どうなってんの?
この大学の治安。
治安だけは、まだ茨城の方がよかったな。
……
…………
………………
いや、俺の高校の先輩、闇バイトで捕まってんな!!
なんだ!?
どこもかしこも、治安の悪い!!
どうなっちゃってるの、ニッポン!!
俺らの世代、おしまいだよ!? はっきり言って!!
奥から、何考えてるかわからないサイコパス。
んで、何考えてるかわからないサイコパス。
それと、自分のことしか考えてないサイコパス。
しまいには闇バイト。
もう終わりだよ!!
すべてを諦めたミツル。
彼は両手に握ったままの大ぶりの石を地面へと放り捨てる。
石は音ともつかない重低音を響かせ、周囲に衝撃を伝えた。
「……今、窓が揺れてなかった?」
悲しきかな、主人公。
誰も気づかない、小さな突破口をミツルだけが見出す。
「そりゃ、揺れるでしょう? あんなに重たそうな石だもん」
「そうじゃなくて……」
ノイチの反論を切るように、ミツルは窓枠へと近づく。
外からでもはっきりと見える壁の継ぎ目に、隅の方では錆が目立つ。
歴史を感じさせる、古めかしい四角い箱。
ほんの少しだけ隙間を開けている窓もまた、その箱と同じ時を刻み込んでいるように見えた。
「サッシが歪みまくってる。もしかしたら、普通に素手で外せるかも」
「外れ防止機能が付いてると思うけど?」
今度の反論は、空き巣の知識逞しいウカウカ先輩から飛ぶ。
「それって、何年から採用されてるやつなんですか?」
「さあ? でも、広く普及したのは、平成からだと思うけど」
ウカウカ先輩は自分のスマホを取り出し、自分の言ったことの正しさをチェックする。
「小五郎先輩、このプレハブはいつから?」
「知らんな。ただ、この大学のOBでもある伯父が在籍していた当時から、すでにボロボロだったとは聞いている」
微妙な情報だった。
その伯父が何歳かは知らないが、やってみるしかない。
「やっぱり、平成だって。北海道とかだったら、もっと早くから普及していたみたいだけど」
ウカウカ先輩からの追加情報。
これもまた、いらないものだった。
「手伝うよ?」
「頼む」
今のミツルに必要なものは信頼できるバディ、秋風ノイチのみ。
二人は息を合わせて、遥かなる昭和の窓枠に手をかけた。
――ガタンッ。
《あぶねぇ!! だいじか!?》
《えへへへへ! へーきへーき!》
帝都寛大大学、略称は帝寛大。
いくつもの世代を超えてきた、歴史のある大学である。
広大な敷地の端の端に、そのプレハブ小屋は佇んでいる。
中は整頓とは程遠い、毎日を忙しく生きる学徒どもの痕跡だらけ。
目も当てられないほど散々になっているデスクの上には、選り取り見取りの無料券の姿がある。
【2025年5月31日まで有効】
案の定の期限切れ。
これを見た瞬間、ミツルはどんな叫び声をあげたのだろうか。




