第35食 ノンサー魂よ、一つになれ!
今回、ミツルがあまり拒絶しなかったのには、理由があった。
「ドライバーとか、貸してもらえます?」
「どうしたの、急に? なんか、プロの泥棒みたい」
「…………」
ノイチの追及に、ミツルはゆっくりと呼吸を整える。
それから彼は、答えないという答えを導き出した。
――高校時代、空き巣の闇バイトをしていた先輩がいる。
プールの裏でタバコをふかしながら、その先輩は自慢げに語っていた。
『古い民家とかプレハブならぁ、窓枠ごと外しっちまえばぁ……あとは楽勝』
――うるっせぇ。犯罪者が何カッコつけてんだ。おめぇなんか、捕まっちめぇ。
怖い先輩の手前、当時は本音が言えなかったミツルだが、茨城県警も無能ではない。
後日、その先輩は御用となった。
「ドライバーで窓ごと外して、もう一回はめ直せば、傷つけずに済むかなと思っただけだよ」
「あったまいい!! さすがミツル!」
なんとか詳細を誤魔化したミツル。
あとは有言実行あるのみ。
しかし、小五郎から返ってきた言葉は絶望的なものだった。
「生憎、今はサツマイモしか持っていない」
「イモ!? どうしてまた、そんなものを持ち歩いているの!?」
二人のやり取りを尻目に、ウカウカ先輩は静かにほくそ笑む。
――ドライバーなんて、研究室に戻れば捨てるほどある。なんならガラスをぶち破るバールも、あのインテグラル錠をこじ開けられそうなプライヤーだってある。けど、簡単に解決されたら、一緒にいられなくなるからね。黙っておかないと。
恐るべし、ノマカプ厨の欲望。
そして女子大生とは思えない、過剰な空き巣の知識。
「貸して!」
混沌とした空間の中、紫紺の棍棒を握り締めたのはノイチだった。
「いくよ?」
周囲への安全周知を行った彼女は芋を振りかぶり、ドアノブへと叩きつける。
「えいっ!」
――パキ。
小枝が折れたかのような、貧弱な、だが瑞々しさだけはしっかりと伝わる音が、静寂に響いた。
折れたのは芋だった。
「……でしょうね」
ミツルの呟きだけが、失敗の恥ずかしさからノイチを救ったという。
「ほーいっ!」
ノイチの心臓の早鐘を察知した、変態の鳴き声がしたとの報告も上がっている。
「鍵屋さん、呼びません?」
もっともな意見を述べるミツルに対し、小五郎は頑なに首を振る。
「これは、大事なサークル活動の第一歩だよ? ボクたちのノンサー魂を、今こそ一つにするべきだと思わないか?」
サークル部長である小五郎からの熱い言葉に、普段はドライなミツルも、さすがに心を動かさ――
「思わないっす」
れなかった。
目の前にいる存在こそ、真のサイコパス。
そう確信したミツルは鍵屋へと連絡するため、スマホを取り出す。
「ほーいっ!」
――ジリジリジリ!
刹那の出来事だった。
突然の高電圧がミツルの右手をかすめる。
その衝撃で落としたスマホを回収したのは、もちろんウカウカ先輩である。
「いってぇ!! あっぶねぇ!! あれぇ!? っていうか、その武器、どっかで……あれぇ!?」
ちょこっと手の甲を焦がしたものの、なんとか致命傷は避けたミツル。
必死に記憶をたどるが、それよりも今の彼には優先すべきことがあった。
「返してください、俺のスマホ」
「えっ?」
「聞こえてるでしょう? スマホですよ、スマホ!」
「スマホ? 知らないけど?」
「なんすか、ソレ!? 入れたでしょう、今!? 俺のスマホ!! その、いっぱいポケットのある、変な服の中に!!」
ミツルイライラ、ウカウカシラジラ、それでも二人は男と女。
目の前の光景を見て、嫉妬を覚えたノイチがミツルへともたれかかる。
「ねぇ、ミツルぅ? 私、お腹減っちゃった」
「だから、もう行こうって!! こんなプレハブ、放っておいて!! でも、ダメだ!! スマホがないと!! 不安すぎる!! とても町に出られたもんじゃない!! どうしよう!?」
「そんなに怒らないでぇ? でも、困ったねぇ?」
自分で整理した情報で、パニックに陥るミツル。
ノイチはその胸の中で、自分も甘えながら彼をあやすという、高度なテクニックを編み出した。
「ほーいっ!!」
「燃え上がってきたな……」
どこを見てもサイコパス。
唯一の常識人だったミツルは――
「……ぶっ壊してやる」
その狂気に静かに飲み込まれていった。




