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第33食 行こう! ノンサーサークル!

 

 思い思いに過ごすマルチスペース。


 それが居間である。


 しかし秋風家の居間は、他の家庭とは一味違う。


「ばあちゃん、悪いんだけど、ちょっとボリューム下げてくれる?」

「はいよ」


 お耳の遠い秋風ぼぎが爆音で流していた、テレビ音量のことではない。


「ナーン……」


 カフェオレ大福もち丸が、居候であるミツルへと感謝のひと鳴きをする。


 今日のワンダーランドは、そこから動き始めた。


 スマホを片手に、勢いよく開けられた襖。


 姿を現したのは、ピンクのショートボブが可愛らしい秋風ノイチだった。


「ミツルはサークルとか入ってないの? 大学生のくせに」


 登場するなりの言葉に、ミツルは心を抉られる。


「くせに? そっちこそ、ギャルのくせに、サークル活動的なことはしてないの?」


 売り言葉に買い言葉。


 互いにムッときて、睨み合う二人。



 ――これは良くない。



 平和を愛し、何よりも居候という自分の立場を思い出したミツル。


 彼は表情を緩めると、改めて質問に答え直した。


「入ってないよ。最近の大学生は入らないから、そういうの」


 その口から出たのは、八割の嘘。


 ミツルの通う大学で、サークルに所属していない学生は四割強ほど。


 全員が全員、ミツルのように過ごしているわけではない。


「何で入ってないの?」

「飲み会とか、OBとか、そういう付き合いが面倒だから」


 実に現代的な理由が赤裸々に語られた。


「私は入った方がいいと思うんだよね」



 ――何考えてんだ、また。



 ミツルは疑いの眼差しでノイチを見つめた。


 臆さず彼女は、スマホの画面をミツルへと見せつける。


「これさ、入ろう?」


【ノンサーサークル】

 どこのサークルにも所属していない方、限定!

 一緒にノンサーライフを楽しみませんか?

 ☆参加者には漏れなく、各種無料チケットをプレゼント☆

 ~詳細は以下まで~

 代表:(いただき) 小五郎



 ――怪しすぎる。


 無料チケット?


 それが欲しいわけね。


 一体、どんな無料チケットが、この子を動かしたってわけ?



「何がもらえるの?」

「プロレスの無料観戦券」

「いらないよね!? プロレスなんか、興味ないでしょ!?」

「うん」

「俺もだよ。それじゃあ、行かなくていいよ、それ」

「でも、ミツルが出たら、それは見たいじゃん?」

「なんで出る方で考えてんだ、おめぇ!! 俺をどうしたいんだよ!?」

「あはははは! 冗談だって。本当はこっちのラーメンの無料券が欲しいと思ったの」


 ノイチは画面をスライドさせ、詳細を見せつける。



 【ラーメン泥棒・無料券! お好きなラーメンが一杯無料】



「ラーメン泥棒? すんごい名前。なにこれ? 店の名前?」

「そうだよ。ミツル、知らないの?」

「知らないよぉ、そんな店」


 その名もラーメン泥棒。


 濃厚なニンニク醤油ベースのスープに、一・五玉の大盛り麺がスタンダードサイズ。


 トッピングには焼き豚が丸々一本乗せられた、元気な人たちを中心に人気の店である。


「ラーメンねぇ……」


 そこまでラーメンで育ってきていないミツルは、さほど興味が無さそうに画面を見る。


「あれ? これ、うちの大学じゃん」


 ところがどっこい、自覚なく、彼が片足を突っ込んだのは運命のトロッコ。


「でしょ? 行くだけで無料券がもらえるみたいだから、一緒に行こうよ!」

「そうねぇ……」


 発車オーライ。


 心地の良い、自分のテリトリーのすぐそばにワンダーランドは広がっている。


「行っといで」

「ナーン……」


 置物のように動かなかった老婆と猫にも後押しされ、ミツルが乗り込んだトロッコは帝寛大(ていかんだい)へと進んでゆく――。

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