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第32食 空腹の苛立ち、そして帰宅へ

 

 ――久々の分析開始。



 結局バカばっか、っていうね。


 岡田さんとの再会にはビビったけど。


 埼玉までくれば、おかしな連中には会わないだろう。


 そう思ってたのに……。


 なに、宇宙風呂って。


 イルカ様の、あのボイスが耳から離れないよ。


 大丈夫なのか、この施設。


 ちゃんと洗ってるんだろうな、あの剥いてきたやつは。



「おや、ミツル。さっぱりしたかい?」



 男湯から出れば、そこには老婆が……って、何で一人なの?



「おかげさまで。ノイチは?」



 名前で呼んじゃった、ついに。


 でも、しょうがなくない?


 この状況で『女はどこだ?』なんて言えないよ。


 山賊じゃないんだから。



「まだ紅を引いておる」



 ベニ。


 クチベニ、かな?


 まぁまぁまぁ。


 ギャルだしね。


 とか言って、ノーメイク状態も普通に毎日見てるけど。


 公共の場だしね。


 女の子だし、色々忙しいんでしょう。



「ミツルは、何を飲むんだい?」



 出ました。


 ばあちゃんのおごり前提のやつ。


 ここは断らないとダメでしょう。



「いいよ。逆に俺が、ばあちゃんに何か買ってあげる」

「ダメだよ! ミツルは書生さんなんだからねぇ」



 ショセイ?


 ショセイは……知らない。


 ショセイ、お前みたいなやつには奢られないよ。


 みたいなこと?


 それは『所詮』か。


 違うね。


 ばあちゃんはそんなこと言わないから。


 なんだろう、ショセイって。


 今さっき、宇宙エレベーターの中でショセイしかけたけどね。


 それは『射精』か。


 って、バカか。


 俺まで頭おかしくなっちゃって、どうすんの。



「リポビタンDで、いいかえ?」



 そんなこと考えてたら、押しちゃってるし、もう。


 自販機のボタンを。


 悩んでる場合じゃなかった。


 早いんだから、このばあちゃんの動きは。



「ほら、よく冷えてて、美味しそうだねぇ?」

「ありがとう、ばあちゃん」



 って、これオロナミンCだな!!


 どういうこと?


 CとDで間違えた?


 それともDとCがややこしかった?


 CとかDとか、小学校の歯科検診かよ!!



「飲みな?」

「いただきます」



 美味い。


 キンキンに冷えた液体が喉をつたって、胃袋まで一直線。


 こいつはすごすぎる。


 気持ちよくって、気絶しちゃいそう。


 もう飲み終わっちゃった。


 量が全然足りない。


 こっちは成人男性ですから。


 老人じゃないですから。


 ばあちゃん、どういう基準でこれを選んだの?


 いや、ありがたいんだけどね。



「お待たせ! あ、ミツルだけズルい! おばあちゃん、私にも買って!」



 おい、バカ女。


 これは、そういうんじゃねぇから。


 もう買われちゃってたの、俺のやつは。


 一回断ったけど、そうなっちゃったの。



「好きなの、買ってきな」

「えへへへへ」



 まったく、孫には甘いんだから。


 でも、俺にも甘いのはなんでなんだろう。


 他人なのに。



「こういうところに来たら、やっぱりフルーツ牛乳でしょ。ミツル、一口飲む?」

「うん……」



 それにしても、メイクばっちりで出てきたな。


 完璧じゃん。


 実はヤなんだよね、その状態。


 道行く男たちに、エロい目で見られるから。


 この気持ちは何だろう?


 この気持ちは何だろう……。


 なんかそういう歌、なかったっけ?


 合唱コンクールで聞いた気がする。



「どうしたの、ミツル? なんか、元気ないじゃん」

「いやぁ……合唱コンクールで、何歌った?」

「どうしたの、急に? Hail Holy Queenだけど?」

「あ、そういう学校だったの!?」



 カッコよ。


 はぁ?


 なに、それ。


 シスターだったってこと?



「ミツルは?」

「いや、俺はもう、つまらない邦楽だから……」



 言い辛いよ、先にHail Holy Queen出されたら。



「ミツル? 歌っていうのは、魂で歌うんだよ?」



 カッコよ。


 はぁ?


 なに、突然。


 プロの方ですか?



「恥ずかしがらないで、お姉さんに教えてよ」



 お前年下だろうが。


 調子にのるなよ、ギャル風情が。



「それより、お腹減っちゃったよ。そろそろ、お昼食べに行こう」

「いいねぇ! 賛成!」

「ふぇっふぇっふぇ」



 ふはははは、簡単に騙されおって。



「日高って何が有名なんだろうね?」

「今ちょっと調べるから、待ってろよぉ?」



 日高、有名な食べ物、と。


 どれどれ?




【昆布とジンギスカンが有名です】




 AIまでバカになっちまったな!!


 それは北海道の日高だろうが!!


 そんなの、俺でも知ってるわ!!


 なんのためのAIなんだよ!!


 百歩譲って、ここが北海道の日高だったとして、それが知りたい情報だと本気で思うのか!?


 なぁにが【昆布とジンギスカンが有名です】だよ!!


 バカなんじゃねぇか!?


 AIも、AIを作ったやつも!!


 気が利かねぇ!!


 恥ずかしくねぇのか!!


 その程度の知識しか出せなくて!!


 誰だよ、このバカ機能入れたの!!


 使わねぇわ、こんなもん!!



「どうしたの、ミツル?」

「……なんでもない。とりあえず、食堂に行こうか。ばあちゃん、大丈夫?」

「はいよ」



 もういいや。


 ギャルとばあちゃん。


 この人たちが笑って楽しく過ごせれば、何でもいい。


 いっぱい食べると眠くなっちゃうし、帰りの運転もある。


 せいぜい俺は、美味しいものをちょっとだけ食べて、さっさと帰って猫を撫でよう――。

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