第31食 超江戸温泉・日高にようこそ!! これが名物・宇宙風呂だ!!
《超江戸温泉名物、宇宙風呂へようこそ!! お兄さん、お名前は!?》
確実に聞き覚えのある、色気とカリスマ性をたっぷりと孕んだ男の音声が流れる。
「イルカ様だよね!? こんな仕事もしてるの、あの人!?」
最初にミツルを襲ったのは、悪の帝王の幅広いビジネススキルだった。
《よろしく、ミツル君!!》
「言ってない!! 言ってないって!! 名前!!」
次に襲いかかったのは最先端のテクノロジー。
それは法律を無視した精度の高い生体認証だった。
《顔のわりに可愛いものをぶら下げて、どうしたんだい!?》
「あんたの方が可愛かったでしょうが!! 知ってるんだぞ!?」
記憶に蘇る、裸の付き合い。
《はははははははははーっは!》
「どうしよう!! もう降りたいんだけど、どうせ降りれないんだろうね!!」
《オーライ!! ミツル君!! イッツ・ア・ショウターイム!!》
「ひとっつもオーライなことはないけど、さっさとやってください!! もう!!」
不毛なやり取りをしている最中でも、ミツルを乗せる宇宙エレベーターは、ゆっくりとせり上がり続けていた。
安全圏は遥か下、しかし自分で乗り込んだワンダーランド。
これにはミツルも腹をくくるしかなかった。
「……最悪だぁ」
《それではミュージック、スタート!!》
流れ始めたのはユーロビートなアップテンポのトランスミュージック。
《レディース・アンド・ジェントルメン!! イッツ、スペースタイム、ベイベー!! プリーズ、ドントプットタオルズ、インザバスタブ!! レディゴー、レディセイ、イエーイ!?》
『イエーイ!!』
「闇野道場の人たちだ!! 忘れてないよ!? あの異常者たちの声!!」
《セイ、イエーイ!?》
『イエーイ!!』
「なに!? なにが始まるの!?」
《ワン・トゥ、ワン・トゥ・スリー、ゴォーーーーーーーーー!!!!》
「うおおぉぉ!!??」
エレベーターが一気にそのスピードを上げる。
ミツルにのしかかる重力も倍々に。
ユーロビートはノリノリに。
外の景色は雲を突き抜け、エレベーターは成層圏へと突入した。
圧倒的なGに耐えきれなくなったミツルは四つん這いになる。
《イッツスペース、アフターオール! ファーストシングスファースト、ディスインフェクト、ウィズ、クロリーン!!(宇宙だからね!! まずは消毒から始めさせてもらおう!!)》
闇野入鹿による流暢な英語のアナウンスが流れる。
同時にエレベーター内が水蒸気で満たされた。
「ごふぅ!! ゴェ、ゴェェ!!」
《ナァーウ、レッツ・クリーン・ザ・インサイド!!(さあ、内側を綺麗にしよう!!) ユー・ノウ、アズ・ア・マター・オブ・エチケット、アイ・ウィル・プル・イット・バック・フォー・ユウ!!(エチケットとして、剥かせてもらうよ!!)》
「え、なに!? あっ……あぁっ……」
文系なのに、アメリカ語が苦手なミツルはされるがまま。
漫画で見たことがないような手の形をしたメカが、どこからともなく伸びてくる。
その手はしなやかに、しかし確実に彼の乱れた包皮を整える。
「やだやだ!! 出ちゃう!! 出ちゃうって!!」
何が出るのか。
成層圏において、ミツルは必死に訴えた。
――が、絶頂は突然にやってくる。
外には漆黒の宇宙が広がっている。
燦然たる星々を背景に、堂々たる月が、ミツルの目の前に現れた。
「……わーぉ」
無重力状態になったエレベーター。
ミツルの目に、一筋の光が入ってくる。
それは月に重なった、目が眩むほどの太陽の光だった。
《……イッツ、アメイジング。これぞ名物・宇宙風呂》
魂が震えるほどの体験。
その姿は、ミツルに力強い生命の波動を感じさせたという。
宇宙空間に放り出されたエレベーターは、くるりと一回転。
そのまま下り専用のレーンへと入っていく――。
――ウィーン。
「…………」
超江戸温泉・日高の大浴場。
宇宙から帰還したミツルは、初めての経験に感無量。
「風呂要素、どこにあったんだよ!!!!」
と思いきや、彼が震わせたのは鉾田の魂だった。




