表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/53

第26食 来た、来た、来た! なんか、いっぱい来ちゃった!

 

 キッチン歌姫。


 デカ盛りで有名な弁当店である。


 目玉商品は一升弁当。


 これでもかと、ギチギチに詰め込まれた三・三キロの米。


 この弁当はどんなおかずのものでも、一律千円で提供されている。


「う~ん、美味しそうだねぇ?」


 ミツルに話しかけてきたのは、ピンクの前髪で目を隠したイルカのぬいぐるみだった。


「う~ん、美味しそう……かなぁ?」


 ――これは人間が食べられる量なのか?


 いくら何でもやりすぎなデカ盛り弁当。


 避けては通れぬ、カロリーの地雷原。


 テーブルの上で平積みにされたそれらは、ミツルの目には危険なものとして映っていた。


「…………」


 ぬいぐるみと入れ替わるように顔をあらわしたのは、秋風ノイチ。


 いつもと比べて、お決まりのピンク色のショートボブが少し逆立って見えた。


 それに加え、彼女は口を尖らせてミツルに不満の眼差しを向けていた。


「美味そう!! どれにしようか!? やっぱり唐揚げ!?」


 露骨に態度を改めるミツル。


「えへへへへ。ちょっと待っててね?」


 ノイチは柔らかく表情を崩すと、お弁当とのにらめっこを再開させた。


 その背中には、巨大なイルカのぬいぐるみが背負われていた。


「はははははははははーっは!」


 保護者のように、彼らの後ろに張り付いていた闇野入鹿が高らかに笑う。


 驚いて振り返ったミツルには、彼の姿が道場にいた時よりもやや小さく見えた。


 筋肉が大きいからといって、男の尊厳も大きいわけではない。


 ひょんなことから彼と狭いシャワールームを共有することになったミツルだけが、その事実を知っていた。


「その……買わないんですか? お弁当」

「もちろん、買わないよ!」


 ――ほんとうにいみがわからなぁい。


 ならばなぜ、ついてきたのだろう。


 異常者に即答されたミツルの脳は、それだけでドロドロに溶かされていった。


 それだけではない。


 さらなる悲劇の音が、ミツルの鼓膜に反響した。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 近付いてくる、荒れた息遣い。


 その正体こそ、変態女王・鵜飼卯花であった。


「あれ? ウカウカ先輩?」

「マナ君……はぁ……はぁ……こんなところで、奇遇ね」


 奇行である。


 ミツルたちの飼い猫の首輪。


 そこにつけた盗聴器によってキーワードを拾ったウカウカ先輩は、デカ盛り有名店をダッシュでハシゴ。


 ようやくのことで推しであるノマカプ、ミツル&ノイチのもとへと、たどり着いたところであった。


「ド、ドクター鵜飼!?」


 穏やかな昼下がりの弁当屋を、闇野入鹿の叫び声が切り裂いた。


「はぁ……はぁ……ん? あぁ、なんだ。イルカか。なに? アンタも推し活?」


 年上に対して、タメ口。


 ちょっとだけ素を覗かせたのは、ウカウカ先輩。


「はははははははははーっは! ここで会ったが百年目! 勝負といこうじゃないか! さあ、抜くがよい!」

「えぇ? めんどくさ。いいけど、早くしてよね?」


 またしても告知なしで拡張されてゆく、ワンダーランド。


「たまには、のり弁もいいよね?」

「いいねぇ」


 これ幸いとばかりに、変態同士を潰し合わせることにしたミツル。


「ちょっとぉ~♪ なにごとなのぉ~♪」


 騒ぎを聞きつけ、美しい旋律を奏でながら店内から飛び出してきたのは、キッチン歌姫の店主・プラーヴァ姫咲(ひめさき)


 四十八歳、バツイチ。

 細身の体格に、派手な金髪縦ロールがよく似合う。

 歌とデカ盛り弁当、そしてよく食べる男をこよなく愛する女である。

 まったく関係ないが、トッシュ岡田とはかつて夫婦関係があった。


「麻婆茄子は? ばあちゃん、意外と中華好きだからさ」

「さっすがミツル! わかってるぅ!」


 呼んでもないのにナチュラルに合流してきた第三勢力にも、全力で無視を決め込むミツル。


「中華といえば、おばあちゃんラーメン好きだからさ、今度連れてってよ」


 はなからミツル以外には大して興味がないノイチ。


「行くかぁ」


 ノイズを排除したミツルは、いつものように呑気に答えた。



 彼らの背後で勝手に展開されてゆく、変態超決戦。


 果たして、どうなってしまうのだろうか――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ