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第20食 お買い物デビュー! カフェオレ大福もち丸!

 

「ナーン……」


 淡いクリーム色のぶち猫、秋風カフェオレ大福もち丸。


 マイクロチップ情報、登録済み。


「大福や、おせんべいでも食べるかえ?」


 弁聖、秋風ぼぎ。


 秋風家の世帯主、老婆。


「ばあちゃん、おせんべいはダメだよ。カフェオレには、しょっぱすぎるから」


 聞こえし者、真菜(まな)(みつる)


 秋風家の居候、大学生。


「もち丸のご飯とか、トイレとか、いろいろ買ってこなきゃね?」


 床に落ちたタオルを足の裏で拾える、秋風ノイチ。


 秋風家の孫娘、ギャル。


「ナーン……」


 秋風カフェオレ大福もち丸。


 秋風家の者どもに好き勝手な名前で呼ばれても、彼は愛想よく返事をする。





 マイファーストペット・アモーレ。


 関東を中心に展開するペットショップである。


 カートを押す、ミツル。


 傍らには、ノイチ。


 カートの上に乗るのは、ぶち猫。


「ナーン……」


 カフェオレ大福もち丸の、お買い物デビューが始まる。



「ペットショップって、初めて来たかも」

「私も」


 環境が変わっても、二人は普段通り、毒にも薬にもならない会話を楽しむ。


「なんか、独特な匂いがするな」

「うん。臭くはないけど、なんか変な感じ。外国に来たみたいな気分」


 結構、詩人。


 本質を突いたノイチの一言に、ミツルは静かに感銘を受ける。


 微かに香る、消毒液と獣臭。


 特有ではあるが、まったく嫌な気分にはならない。


 むしろ店内には、どこかワクワクするような空気さえ漂っている。


 思わず立ち止まったミツルに、ノイチが振り返る。


「どうしたの?」


 この気持ちは何だろう。


 何も言えない、ミツル。


「……ナーン」


 代わりに答えたのは、カフェオレ大福もち丸。


「変だね、もち丸?」


 笑みを浮かべながら、ノイチは、カートの先をつまんでミツルたちを引っ張っていった。





 壁の黒に水の青。


 そして水草の鮮やかな緑が、清涼感を与えてくる。


 ミツルたちが最初にたどり着いたのは、熱帯魚コーナー。


 そこにいたのは――。


「……ペットか」


 マッシュルームカットに肥満体型がトレードマークの中年男。


 お久しぶりです、トッシュ岡田。


「ねぇ、ミツル……あれって」

「うん、例のオジサンだね」


 対立から和解まで。


 過去に交流こそあれど、未だにその名を知らぬ、二人。


「ナーン……」


 プラス一匹。


 短い腕を組み、短い脚を広げて水槽の前に立つトッシュ岡田。


 ミツルとノイチには、その姿が以前の彼よりも、ずっと毒気の抜けたものに見えた。


「挨拶くらい、していこうか?」

「そうだね」


 遠慮がちに、しかし確実にトッシュ岡田へと近づく二人と一匹。


 ふと目が合う、トッシュとミツル。


「あ……」

「ど、どうも……」


 どこか気まずそうな二人の男。


「こんちわ」


 ミツルがいれば、へっちゃらなギャル。


「ナーン……」


 マシュマロか何かと勘違いしているのか。


 トッシュ岡田に向かって、ゆっくりと前足を伸ばす猫。


「久しぶり、だね。二人は……そういう……そう、だよね。そりゃあ……」


 関係性を察して、憂鬱な気分に入り込むトッシュ岡田。


 四十八歳、バツイチ。


 そんな、誰からも相手にされない彼だったが、自らに伸ばされた手の存在に気がつく。


「可愛い猫ちゃんだね……触っても?」


 もちろん、と。


 気まずさを打開するためにも、そう言いたいミツルであったが、彼のことである。


 自分では決定を下さず、ノイチの顔色をうかがうばかり。


「いいですよ」


 ノイチの言葉を起点に、短く頷き合う三人。


 トッシュ岡田は中腰になって、カフェオレ大福もち丸の顔を覗き込んだ。


「ナーン……」


 ゆっくりと。


 伸びる、伸びる、猫の前足。


 その前足は、トッシュ岡田の口元目がけて、一直線に向かっていった。



 ――ゲシッ!



 超低速猫パンチ。


 理不尽な顔面アタックを食らった、トッシュ岡田であった。


「あはははは!」

「す、すみません。大丈夫ですか?」

「ハハハ、大丈夫大丈夫」


「ナーン……」


 怪我の功名とはこのこと。


 その一撃は、硬かった雰囲気を和やかにしてくれた。


「こういうところ、来るんですね?」


 プライベートにガンガン突っ込むギャル、ノイチ。


「うん、アクアリウムでも始めようかなと思って。住んでいるマンションは、犬も猫も禁止だし……」


 すっかり牙の抜かれたトッシュ岡田は、普通に受け答える。


「へぇ……」


 自分たちが恵まれた環境にいることを噛みしめるミツル。


「ナーン……」


 トッシュ岡田がマシュマロではなかったと再確認できた、カフェオレ大福もち丸。


「家族とか、いるんですか?」

「うん? まあ、二人とも……特にミツル君は、彼女を大切にしてあげなさい?」


 トッシュ岡田はオジサンらしく、ノイチの質問には答えず、勝手に過去を回想して若者に説教を始める。


「……そうっすね」


 若者らしく、聞き入れた風を醸し出すミツル。


「えへへへへ」


 またしても彼女認定され、顔を赤らめながら身をくねらせるノイチ。


「ナーン……」


 あそこに泳いでるお魚は食べていいのか、真剣に考えるカフェオレ大福もち丸。


「……それじゃあ、失礼します」

「はい。元気でね」


 足並みをそろえる二人と一匹。


 彼らが次に向かう先は、ウサちゃんコーナー。


 そこで、待っていたものは――。

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