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第19食 雑念だらけのスクランブル!! 猫ちゃんの行方や、いかに!?

 

 ――分析開始。


 はい。


 お米をたくさん食べたせいか、ちょっとだけ眠くなってきた。


 午後いちで講義があるっつうのに。


 サボりたい。


 というわけで、昨日から続く不審者フィーバー。


 はぁ……。


 まぁ、俺みたいなものが、タダでギャルから好かれるわけもなく。


 代償として、こういう……何?


 なんだろう、今回の怪人は。


 グルグル巻きで、顔面隠したりして。


 テロリストですか?


 怖い。


 大学怖い。


 東京怖い。


 もはや俺の癒しは、風変わりなギャルと、そのばあちゃんだけ。


 そういえば、ばあちゃんはいいんだけど、ギャルの方の呼び方が、未だにわからない。


 貴様とか、女とか、色々試してみてるけど。


 居候の身だし、このままではあまりにもベジータすぎる。


 でも、今さら名前呼びもできない。


 ノイチ。


 呼べないよ。


 恥ずかしいもん。


 じゃあ、ばあちゃんが呼んでいるように『のん』は、どうだろうか?



「猫ちゃん、ですか? どうしたんですか?」



 おいおい、のん。そんな怪しい人間に、何の警戒心もなく話しかけちゃ、ダメだぞ?


 ……ほらね? おかしいでしょう?


 自分で言っておいてなんだけど、気持ち悪いもん。



「昨日保護したのじゃが、すっかり怯えていましてのう」



 胡散くせぇ口調だぁ、このテロリスト。


 おばあさんなのか、おじいさんなのかもわからない、作ったような声色で。


 顔に巻いてるのは、男物のシャツかな?


 気持ち悪さで、軽々と俺を上回ってこないでほしい。



「かわいそう……顔を見せてもらっても、いいですか?」



 おいおいおい、のん!


 俺でも言えないようなことを、平然と!


 さすがギャル!


 距離の詰め方が、バグってらっしゃる!


 だが、これで目の前のテロリストの顔もわかるってもんだ。


 ……いや、わかったところでどうにもならんわ、この状況。



「おお、なんとお優しいお嬢さんじゃ……」



 って、猫の方かーい!


 顔見せるの、猫の方かーい!



「あれ!? この子……」

「ナーン……」



 お前かーい!


 昨日の猫ちゃんかーい!


 もう何が何やら、わからんやないかーい!



「おやおや、顔見知りでしたか。これも、何かのご縁なのでは?」



 ……ヤバいって。


 あんまり言いたくないんだけど、こういうのって、爆弾とか仕掛けられてるんじゃないの?


 だって、テロリストだもん。


 知ってるんだよ、俺。


 子供とか動物とかを使う、残虐非道な手口を。


 まぁ全部、パチンコ屋の休憩コーナーの漫画で得た知識だけど。



「ナーン……」

「ほら、ミツル! この子、昨日の猫ちゃんだよ!」

「うん……」



 でぇじょぶか?


 腹ん中に、爆弾入ってないか?



「……何やってんの?」

「いやぁ……お腹空かせてないかな、と思って」



 チクタク音、なし。


 どうやら、爆弾の類は仕掛けられてないらしい。



 いやいやいやいや、デジタルだったら?



 ちょっと猫ちゃん、悪いんだけど、もっとよく確認させてくれる?



「ナーン……」

「どうしたの? さっきから、お腹ばっかり触って」

「いやぁ……可愛いなぁ、と思って」

「じゃあ……私たちで飼う?」



 かわいい。


 ふわっふわ。


 綿菓子みたい。


 だけど爆弾が入ってるかは、わっかんねぇ。


 もうお手上げだ。



「ナーン……」



 ……救わねば。


 暴力とは正反対の位置にいる、牧歌的な一匹の猫ちゃんを。


 幸いにも、ここは帝寛大。


 獣医学部があったはず。


 診てもらおう。


 講義?


 知らん。


 助けられる目の前の命を、放っておいて講義とか。


 そんな馬鹿なことをしている場合じゃないですから。


 眠いですから。


 サボりたいですから。



「行こう」

「う、うん……」



 またやっちゃった。


 自慢ではないんだけど、最近、このギャルとはよく手を繋ぎます。


 でも、これは向こうのせいでもありますから。


 この子、すごくボディタッチが多いですから。


 おかげで、こっちの感覚までバグっちゃいましたから。



「ほーい!?」



 今、このテロリスト、若い女の声、出さなかった?


 まぁ、いいや。


 それより、急がないと。


 いつ爆発するか、わからないんだから。



「待て!」

「ど、どうしたの?」

「運ぶときは、そっとだ。頼む」

「……わかった」



 こうして体ごと押さえつけないと、このギャルは何するか、わかったもんじゃない。


 失敗したら俺たちまで爆発で死ぬんだから、もっと慎重に行動してほしい。



「ハァァァン!」



 やっぱり声、若いよね!?


 えーい、もののついでだ!


 こうなったら、その覆面、外しっちめぇ!!



「そぉぉい!!」

「あぁっ!?」



 ジリジリジリ!



 ――あっぶねぇ!!


 なに!?


 スタンガン!?


 何て物を使うんだ、このテロリストは!!


 ……いや、テロリストだから使うのか。



「――避けた!?」



 そりゃ避けるよ。


 電流の音が聞こえてから動き出すまで、遅かったもん。


 それから、まるで徹夜明けの女学生のような非力さだった。


 バイオレットサタン様の鞭とは、えらい違い。


 あの人の場合、本気で殺しに来てましたから。



「本性を現したな? テロリストめ……」



 調子に乗って、それっぽいこと口走っちゃった。


 近くに女子がいると、どうしても調子に乗ってしまう。


 俺だって、男の子だもん。



「え!? テロ!? ヤダ、怖い!!」

「ナーン……」



 今さら気づいたのかい、のんちゃんは。


 ……ちょっとだけ。


 ほんのちょっとだけ、カッコいいところ、見せたいかも。


 こうなったら、予定変更だ。


 動きの差で圧倒できそうだし、やっつけてしまおう。


 サタン様、今こそ、オラに力を!





 ――その時、ウカウカ先輩に天啓が降りる。


「さらばだ!!」


 彼女は迷うことなくミツルたちに背を向けると、キャンパスの人混みに紛れていった。


「待て!」


 珍しくやる気になっていたミツルが叫ぶが、時すでに遅し。


「……行っちゃったね?」

「ナーン……」


 ノイチの腕の中には、淡いクリーム色が柔らかな印象を与える、一匹のぶち猫だけが残されていた。





 ――ピンチはあったが、その場の思い付きで、作戦は成功。


 猫だけをその場に残してしまえば、あの二人だったら飼ってくれるはず。


「くっくっく……」


 雑踏の中、噛み殺した笑いを漏らすウカウカ先輩。


 彼女は顔に巻いていたシャツを颯爽と解き、天高く投げ飛ばした。


 そのまま遠くから、木陰に取り残されたミツルたちの様子を見る――。


「…………」


(ナーン……)


 ――しかし、ふと脳内でリフレインした猫ちゃんの鳴き声が、彼女に一抹の寂しさを与えたという。

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