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パチンコでほぼ全財産をスった俺が、なけなしの金で買った弁当に殺されかけた結果、弁聖と呼ばれるババアに拾われて強くなる話  作者: ふるみ あまた


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第2食 聞こえし者

 

 意識を失ったミツルは、古い民家へと連れて来られていた。


 爽やかな、い草の香りに包まれた居間。


 老婆は、眠りこけるミツルの、魂までをも覗き込む勢いで見つめていたが、ふと目を細めた。



「ふむ……」


 老婆の名は秋風ぼぎ。


 ひらがなで、ぼぎ。


 おばあちゃんなので、ぼぎ。


 誰がなんと言おうと、ぼぎ。


 世界最強の弁聖である。



「ただいま……あれ? おばあちゃん、そんなの拾ってきたの?」


 帰宅したのは、ぼぎの孫娘。


 名前は秋風乃一(のいち)


 さきほどミツルを鼻で笑っていた、ギャル。


 サブカル女子を彷彿とさせるショートボブだが、ギャル。


 カタカナで、ギャル。


 誰がなんと言おうと、ギャル。



「のん。この男、『聞こえし者』かもしれないよ?」

「まさか……」


 笑いながらもノイチは、一瞬だけ、仏壇に視線を走らせた。



「だって、そいつ……さっき『(シャドウ)(エッジ)』で、上げ底弁当買ってたような男だよ?」

「目利きは関係ないさね」


 弁聖の弁は弁護の弁。



「じいさんもよく、弁当と喋っていたからねぇ。ひとりで」


 ヤバい連中に、ヤバいやつ認定されたミツル。


 そのとき、ようやくミツルが目を覚ました。



「こ……こ……あ?」

「はいよ。のん、ココアだって」

「無いよ。最近高くなりすぎて、買えないもん」


 転生したわけでもないのに、ミツルが異世界に来たような感覚に陥るまで、あと少し――。





 寝起き一発目で、ココアを勧めてくる難聴老婆。


 エル・ファニングみてぇな顔した、不機嫌そうな孫娘。


 おまけに老婆は『聞こえし者』の資質がうんたらすんたら……。



 人生最大のピンチを、早くも更新したミツルの行動に迷いはなかった。



「さぁ、というわけで、僕はそろそろ……」


 パチンコ屋で培った、ヤバい人間を嗅ぎ分ける能力が発動。


 ミツルは、早々にフェードアウトを試みる。



「お待ち」


 ピチッと、音を立たせて手首を掴んだのは、弁聖ぼぎ。



「お腹、空いているだろう?」

「空いていませぇん」


 グゥゥゥゥ……。


 口元だけを笑わせたまま、ミツルは固まる。



「のん、アレを温めておやり」

「えぇ?」


 溜め息をつくノイチ。



「のんは、困っている人を見過ごす、そんな人間かえ?」


 弁聖の弁は雄弁の弁。



「……わかったよ、もう」



 しばらくして、ノイチが持ってきたのは、


 四角い、黒い容器に詰め込まれた、茶色の塊。



「これは?」

「『令和市場いそっぷ』の弁当だよ。固くならないうちに、お食べ」


 仏壇の引き出しを開けて、弁聖が取り出したのは割り箸。


 それを、ミツルへと手渡す。



「それ……」


 言葉尻を濁すノイチ。


 ミツルは構わず、分析に入る。



 斜めにスライスされた、薄いチキンカツが四枚。


 すでにソースが絡められている。


 ソースチキンカツ丼だ。


 お値段、税込み三百九十八円。


 さっき食べた天丼より、百円も安い。


 カツが斜めに切られているのは、面積を稼ぐためだ。


 すなわち、量に期待はできない。


 ババアやハリウッド女優なら、この量で大満足だろう。


 ナメるな。


 一瞬で喰らい尽くして、家に帰ってやる。



 ミツルは箸を伸ばし、湯気立つチキンカツを一枚つまみ上げた。



「な……なんだと!?」


 ミツルが驚愕したのは、チキンカツが敷かれた、その下の光景――。



「チキンカツの下に、チキンカツがある!?」


 何だコレは!?


 だが、このままでは、お行儀が悪いので弁当を左手に持つ。


 すると――。



「うおっ!?」


 自らの重さでたわむ、プラスチックケース。



「あっつ!!」


 温めすぎだ、女ァ!!


 指先から伝わってくる熱にたまらずミツルは弁当を机の上に置く。



「ちょっと……すいません。お見苦しいかもしれませんが、このまま行かせてもらいます。いただきます」


 ミツルが使ったのは弁当の蓋。


 そこへギチギチに詰め込まれていたチキンカツを、次々と乗せてゆく。



「ぜ、全部で、じゅ、十枚以上は、あ、ある……」



 どうして?


 チキンカツ一枚丸々入れるなら、


 どうして斜めにスライスしたの?


 カツを全部どかしても、まだご飯じゃないし。



「キャベッチだね!? キミ!?」



 お喋りはもう、ここまでだ。


 さっきからお出汁の香りが、カツと一緒にムンムンと、辛抱たまらん。



 ミツルはチキンカツをわんぱくに、口の中へと放り込んだ。


 ズバンと鼻を突き抜ける、かつお出汁の効いた甘めのソースが、満腹中枢を破壊する――。



「おりゃあぁぁぁ!!」


 ふた切れもあれば、浄化作戦には十分だった。


 みっちりと張り巡らされていたキャベツの沼地は、あっという間にミツルの胃袋へ。


 そして、今日。


 満足に食べることのできなかった、力の象徴。


 白米が、ついにその姿を現した。



「おっほぉ~……」


 ガチだった。


  『令和市場いそっぷ』が手掛ける、白の結晶。


 燦然(さんぜん)たる米々が、ミツルを祝福していた。


 喰わずともわかる、圧倒的重厚――。


 バキィッッ!!



「じいちゃんの割り箸が!?」

「先割れスプーンだよ、のん!!」


 仏壇へダイブするノイチ。


 手にしたのは、遺影の前に供えられていた、薄いカレー色の先割れスプーン――。


 放り投げられ、くるくると回転する、プラスチックのカトラリー。


 受け取ったのは、もちろんミツル。


 人差し指と中指。


 二つの指で十分だった。


 不敵に笑うミツルを見て、ノイチの頬が桜色に染まった。



「喰われてぇよなぁ? それじゃあ、お言葉に甘えて――」




 いただきます。




 『聞こえし者』ミツル。


 その誕生は、産声すら上がらず。


 ただ、目の前にある弁当との『会話』によって、それはもたらされた。

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