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パチンコでほぼ全財産をスった俺が、なけなしの金で買った弁当に殺されかけた結果、弁聖と呼ばれるババアに拾われて強くなる話  作者: ふるみ あまた


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1/9

第1食 天丼死の若者、伝説のババアに拾われる

 

 ――ありがとうござましたぁ♪


 境界線を跨ぐと、静かなる現実が広がっていた。


「…………」


 真菜(まな)(みつる)の瞳に映る町並みに色はなかった。


 金属がぶつかり合う音と大音量の音楽が鼓膜に残る。他に残ったものといえば、不快感。それと、ポケットの中の五百円玉だけ。


 グゥゥゥゥ……。


 深刻な気持ちになりかけたミツルの腹が鳴った。


 日本一のコンビニエンスストア『シャドウエッジマート』の看板が、嫌でも視界に入る。


 腹が減っては、絶望すらできぬ。


 ふらふらと歩き出すミツルの背後で、境界線を跨いだ者がまた一人現れた。


 ――カツン。


 弁聖の響かせた音を拾う余裕は、今のミツルにはなかった。





 鮮やかなカラーに彩られた外装、他を寄せ付けぬ清潔感で溢れる店内。


「…………」


 ポケットの中で五百円玉をもてあそぶミツルには、すべてがどうでもよかった。


 腹が減った。


 その一心で弁当コーナーを物色する。


 そんな彼の、色のない世界でも、重量感だけはしっかりと伝える物体が存在した。


【リピーター続出!! モリモリの盛り☆ドデカ天丼498円!!】


 大負けによって脳を焼かれているミツルは、キャッチーなポップとその弁当が生み出す『高さ』を信じ込み、レジを通してしまった。


 雑誌コーナーで立ち読みをしていたギャルが、ガラス越しに歩いてゆくミツルの背中を見て、鼻で笑っていた。





 公園は魔法が解ける場所。


「…………」


 ベンチでひとり、買ったばかりの天丼を膝に乗せたミツルは、ようやく自分が間違った選択をしていたことに気がついた。


 軽い。


 軽すぎる。


 何これ?


 どうやってんの?


 この調子だと、カロリーまで軽そう。どうすんの、これ。


 よくよく考えると、帰りの電車賃、使っちゃってんじゃん。どうすんの、俺。


 いや、どうすんのって……温めてもらって、今さら店に返すわけにもいかないじゃん。


 喰うんだよ。このスーパーライト級の、天丼を謳う何かを。


 喰って、喰って、喰らいつくして。


 嫌なことを忘れて、帰り道を歩くエネルギーにするんだよ。


 そうすれば、救助が来るから。


 いや、来ないか。


 とにかく、もう――。


「いただきます」


 蓋を開け、見た目とは裏腹な軽さを保つ天丼に箸を入れる。


 ――バツッ。


 箸が突き破ったのは容器の底。


「……ちょっと、ワイルドすぎちゃったかなぁ? 納豆でよくやる、あの技が出ちゃった」


 ミツルは自分に言い聞かせたが、納豆の容器の底を突き破るのとはわけが違う。


 お弁当という商品であってはならぬ、異常事態。


 それでもミツルは、箸という名の聖剣を引き抜き、生存をかけた戦いを再開させた。


 未だ続くモノクロームの世界で、エビ天と思われる物体をつまみ上げ、口へと放り込む。


「こ、これは……!!」


 ――美味くも、不味くもない。


 サクサク、ベチャベチャ、どちらでもない。


 乾燥した衣を口の中で虚しく転がす。


 酸化した油の臭いが鼻を抜ける。


 その味を例えるなら、室町時代の天ぷら。


 生の実感が欲しかったミツルに、化石のような味がするその物体は、何も与えてくれなかった。


 ただ顎を動かすのみ。


 食事をしようと思っただけなのに……。


 いきなりの運動行為を強いられたミツルは、次に、パワーの象徴である米に箸を伸ばした。


 ――バツッ。


 箸が突き破ったのは容器の底。


 まさに天丼。


「レモン絞るやつの形みたいになってっからだよ、コレェ!!」


 キレながら聖剣を振るうミツルは、スカスカのライスフィールドをあっという間に蹂躙。


「こんなん、一体何が面白れぇってんだ!!」


 雑魚狩りついでに残った天ぷらを頬張ると、税込み四百九十八円の戦いは終焉を迎えた。


「……騙された」


 浪費したのは五百円。消費したのはカロリー。


 ベンチの横にたたずむは、カラスすら寄り付かぬ軟弱なプラスチック容器。


 あぶく銭がもたらす、ウハウハの未来。


 腹を満たす、十分な量の食事。


 家路を歩く、最低限のエナジー。


 何一つ、


 結局は、何一つ手に入れることができなかった。


「なんかもう……目まで霞んできた……」


 怒りという生体燃料すら使い切り、ミツルの全身から力が抜けていく。


 世にも奇妙な天丼死が、若者の未来を奪おうと牙をむいた。


 ――カツン。


 錫杖を持った小さな死神が、ぼやけた世界の彼方から近づいてくる。


 だが、ミツルを捕まえようとしていたのは、死神ではなかった。


「……たかが弁当、されど弁当。今時、そんな大げさに食事ができる若者がいるとはねぇ」


 死神と見間違えた老婆のしわくちゃの手が、一人の若者の手をとった。


 公園は魔法にかけられる場所。


 これより、ミツルの新たな人生が始まる――。

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