第17食 ウカウカ☆逮捕フィーバー!
爽やかな五月の日差しが照らす、住宅街。
電信柱の頂に立つのは――。
「くっくっく……」
鵜飼卯花。
愛称、ウカウカ先輩。
二十一歳、女子大生、彼氏なし。
「ほーいっ!」
特殊部隊も真っ青な、ロープなし降下による静かな着地を、当然のように決めるウカウカ先輩。
彼女が目指す先は、ただひとつ。
「ウカウカしていられないわ!」
ミツルとノイチ、さらには野良猫までがしけ込んだ、秋風邸――。
――その頃、秋風邸内。
「ナーン……」
陽だまりの縁側で、大人しい猫の毛並みを楽しむミツルとノイチ。
「こいつ……全然、逃げない」
「ミツルは、猫と犬、どっち派?」
狂気が渦巻く外の世界とは異なり、二人は、とろけそうな愛と平和に満ちた時間を享受する。
「どっちも好き」
「じゃあ、私は?」
「……よーしよしよし」
聞こえし者は聞こえないふりをして、雪のような感触の毛を、その手いっぱいに楽しむ。
「ふんっ」
ノイチは口を尖らせて、拗ねた態度を取る。
しかし、彼女は考える。
もしここで、ミツルが素直に『好きだよ』と言ってきたら……。
それはそれで、面白くない。
今見せた、ミツルの態度もまた、自分にとっては幸せである、と。
秋風ノイチ。
十九歳にして、初めて抱く恋心であった。
『ハァ、ハァ、ハァ……』
二人だけの甘い世界を隔てる垣根が、ガサリと揺れ動いた。
何?
野良犬?
心配そうにミツルを見る、ノイチ。
「…………」
バッカ野郎。
野良犬が、この大都会東京にいるわけないだろ。
ノイチの視線に無言で応え、立ち上がったのは聞こえし者ミツル。
「ナーン……」
形容しがたい瘴気に怯えたのか、猫は逃げ出す。
「…………」
さっさとノイチを中に入れ、ミツルは手際よくスマホを取り出す。
一、一、〇。
「あ、もしもし? 事件……というか、その、もしかしたらなんですけど、そのぉ、自宅に変質者が……あ、はい。わかりましたぁ……」
――アイツ、マジで通報しやがった!
ウカウカしてる場合じゃない!
垣根から中を覗き込んでいたウカウカ先輩は、乗り捨てた愛車のもとへと急ぐ――。
忍者の如き素早さで、難なく車にたどり着いたウカウカ先輩。
「ハァ、ハァ……家の場所はバッチリ押さえられたし、今日はこんなもんで、良しとしましょう。さっさと帰って、次なる活動の準備を――」
放置駐車違反。
反則点数、二点。
罰金、一万五千円。
「ナーン……」
なんとか逮捕だけは免れたウカウカ先輩。
彼女の帰還を迎え入れたのは、フロントガラスに貼られた黄色いステッカーと、ボンネットの上に乗った穏やかな野良猫だけだったという。




