第124食 チェンジ! ピンチ! 真夜中のゲーム選び!
放置。
気づけば夏休みも残り半分となり、暦は九月に突入した。
あれから、クソ女ことアルアル所長はおろか、ウカウカ先輩からの連絡も一切ない。
そうなってくるとミツルとしては、彼女たちの動向が、というより、自分の処遇が気にかかってくる。
――どうしよう。このまま待つのも、苦しすぎる。
最初は、楽しかった。
ノンちゃんとゲームやって、お祭りに行って、またゲームやって。
水族館にも行ったし、千葉にあるでっかいゲームセンターにも遊びに行って。
亀戸や上野なんかにも少し足を伸ばして、デカ盛りのお店なんかも、一緒に楽しんだ。
しまいにはやることがなくなって、ドラゴンクエストやファイナルファンタジーなどの、王道すぎて今までやってこなかったゲームを買い漁り、今もこうして、やっている始末。
しかし。
黒と呼ぶにはあまりにも黒すぎる『鵜飼姉妹』というシミの存在が、この平穏な夏休みを完璧なものにしてくれない。
――どうする。
自分から連絡するか?
いや、それは飢えたライオンの口に手を突っ込むようなもの。
そんなチャレンジ精神はいらないし、持っていない。
自ら研究所に赴くか?
絶対にダメ。
研究所は横手基地の中。
何の権限もない自分がゲートをくぐろうとすれば、下手したら門兵に撃ち殺される可能性だってある。
「どうすりゃいいんだ……」
キリのいいところでセーブをして、コントローラーを置く。
それからゲーム機の電源を切り、伸びをしながら大の字に寝転がる。
すると、愛猫のカフェオレ大福もち丸がぼてぼてと、足音も隠さず近づいて来るや、ぴったりと顔にくっついてきた。
「ナーン……」
心安らぐ居間という空間が、ふさふさもちもちの毛玉によって、ますます居心地がよくなる。
愛猫をワシワシと揉みしだきながら、ミツルは思考をさらに巡らせた。
結局、『超能力界隈』とかいう、変な世界に放り込まれた自分に残ったのは、『プラチナファイター』に変身する能力だけ。
ただ『チェンジ』と声に出せば、すぐさま変身も解除もできる。
それが、日常生活において、なかなか発する機会のない言葉であったことだけが救いだろうか。
「あれ? もうゲームやらないの?」
ミツルにとっては見ずともわかる、いつもの声が響く。
キッチンから姿を現すや、ノイチはミツルの上にのしかかった。
「ぐぇっ!?」
「なに?」
「……なんでも、ない」
彼女の重い想いを受け止めながら、重い思いをしたミツルは『重い』という言葉だけは口にはしない。
もしここで配慮を怠れば、どうなってしまうことか。
内心で冷や汗をかくミツルとは対照的に、ノイチはその声とお尻を弾ませて、彼に問いかけた。
「ゲームやらないなら、私がやってもいい?」
「やっていいから、降りて。ディスクを変えるから」
「オッケー」
ノイチがぴょこんと軽やかに跳ね、ようやくどいてくれる。
立ち上がったミツルは、彼女に聞こえないよう、ささやかなため息をつきながらゲーム機に近づく。
「チェンジ、プリーズ!」
その瞬間、エジェクトボタンに伸ばしかけていた手が止まった。
――今日は、そういう感じの日か? ……いや、考えすぎか?
両替してください。あるいは、お釣りをください。
英語が得意ではない彼女が、ディスクを変えるこの作業のことを、テンションが上がってそう言ってきただけ。
まかり間違っても、つられてこちらの口から『チェンジ』という言葉が出てしまう、そんなコントみたいなことをするわけがない。
そう自分に言い聞かせ、ふふふと笑いながら、ミツルはそっとディスクをチェンジする。
「いつもの、農場ゲームでいい?」
「ちょっと今日は気分変えたいかも。チェンジ、チェンジ」
――おう、やってんなぁ。
決して、彼女のせいではない。
悪いのは、自分をハメてこようとする、目に見えない第五の力。
しかし、家でまでコントじみたことをしたくないミツルは、その力に抗うべく、ノイチへと優しく声をかける。
「その~……どうしたの? 今日はすごく……」
「なに?」
「いや、いつもは言わないじゃない。そういう、英語とか、横文字みたいな……」
「いいじゃん、別に。こういう時間にゲームやれるのって、特別感あるし」
ふと、視線を上げる。
昼間であれば、チントンチントンうるさく時報を告げてくる時計は、黙って午前一時を指していた。
理由になっているような、いないような。
いまいち納得はいかないが、ひとまず視線を戻したミツルは、ゲーム機が吐き出したディスクを手早く回収し、今度は収納ボックスへと手を伸ばした。
「で、どれがいいの?」
ゲームソフト、より取り見取り。
潤沢なアルバイト代によって大人買いした、大量のソフトが入った箱の中身をノイチへと見せる。
体を近づけてきた彼女が、首を伸ばして、まじまじと中を覗き込む。
「うーん……わかんない。みちゅが選んで」
そう言って、ノイチはミツルの肩にぽすんと顎を乗せてきた。
「……また?」
今すぐにでも、違う遊びに、チェンジしたい。
ノイチとの触れ合いによって芽生えかけた不埒な感情を抑え込み、ミツルは紳士ぶって、ゲームの選別を始めた。
――プレステで、よかった。
switchなんて持っていた日には、それこそ『星のカービィ』や『ポケットモンスター』なんていうチェンジ要素しかないゲームが襲ってきたことだろう。
「switchも欲しいね」
ノイチの言葉に、全身がピクリと反応する。
それは彼女の吐息が、耳に吹きかかったせいではなかった。
「……まぁ、追々ね」
なんとかして、能力の返還はできないものか。
これからの生活に不安を感じながらも、ミツルはガサゴソと手を動かし、一ミリもチェンジ要素のない、安全なゲームを選ぶ。
それは――。




