第121食 目指すは世界最強のカブ農家! ……だったと思う!
お腹すっきり。お尻しっとり。戻ってみれば、あらびっくり。
テーブルの上には、チョコミントアイスの残骸と、二杯目のミルクティーが飲み干されたコップが置いてあった。
それを横目に、ミツルは、コントローラーを握り締めるノイチの傍らに座り込む。
「魚も釣れるのかぁ」
テレビ画面に映し出されていたのは、可愛いミニキャラが渓流に向かって釣竿を垂らしている場面だった。
「うん。もう二日目だよ」
「早いねぇ。カブはどうなったの?」
「まだ。芽は生えてたけど」
その言葉を受けたミツルは、湧き上がるパワーファーミングへの渇望を押さえながら、再び観戦モードへと意識を集中させる。
――スローライフ、最高。
魚なんて釣ったって、しょうがねぇって。
チラッとトイレで調べてきたけど、さっきのオオムラサキやらオニヤンマなんかは、レアドロップみたいな扱いらしいし、結局農場をやらないと安定しないわけ。
バブルに踊らされちゃいけないの。
魚も同じ。
どうせノンちゃんのことだから、最初から高価なレア魚とか、簡単に釣れるんでしょ?
でも、騙されないよ、俺は。
「あっ!?」
ほい、また大声出しちゃって。
なんか、いきなりウキが沈んで……え?
なんも釣れてないけど、どうしたんだろう?
「……ごめん。失敗しちゃったかも」
なんだ、そういうことか。
音ゲーみたいな、通過するバーに合わせてボタンを押す、ミニゲームになってるわけね。
なるほど、わかりました。
「もう一回やってごらん? 今度は落ち着いて、タイミングを合わせて」
「うん……」
あれ?
なんか言いたそう。
でも、甘やかさないもんね。
言いたいことがあったら、そっちから言ってもらわないと。
なんでもかんでも察して、相手のご機嫌をうかがうなんて、そんな都合の良い男にはなりたくないものです。
「ミルクティーのおかわりは?」
「……まだいい」
じゃあ、テーブルはチャチャッと片付けちゃって。
ついでに、寝てるカフェオレも撫でて。
「ナーン……」
そしたらいよいよ、放ってはおけない。
拗ねてるノンちゃんを、本格的に構いにいきます。
「どうしたの?」
「私、釣り苦手かも。みちゅ、代わりにやって?」
「任せなさい」
最初から素直にそう言えってんだよ。
いつだってやってやるってばよ。
ウキが沈んで、ビックリマークが出たら、ミニゲーム開始ね。
準備、よし。
早速、やっていきましょう。
『!!』
ほい、来た。
ポン……ポン、ポン…………ポン。
はい、楽勝。
【ウグイ 売値:65円】
わかってたけど、やっすいわぁ。
これって、ノンちゃんは見てて面白いんかなぁ?
「すごいじゃん、みちゅ天才! もっと釣って!?」
気持ちいいほど、褒めてくれる。
まあ、チリも積もれば、か。
カブが出来るまでの時間つぶしにもなるし、しかたないねぇ。
彼女が満足するまで、やってみせましょう。
『!!!!』
ほい、来た。
んん?
なんか、ビックリマーク多くなかった?
ポン、ポン……ポン……ポン、ポン…………ポン、ポン、ポン。
いや、ノーツが多いって。
ビックリした。
釣れる魚によって、難易度が変わるってことかな?
なにが釣れたんだろう。
【ニジマス 売値:1000円】
はい、楽しい。
釣りって、なんて素晴らしいんでしょう。
「みちゅ、すごすぎ!! この調子なら『ヌシ』も釣れるんじゃない!?」
「『ヌシ』?」
いったい、いくらで売れるんだ、そいつは?
「なんかねぇ、一番大きくて高価なお魚が、たまに釣れるんだって」
「ふーん……」
おもしれぇ。
見ていなさい。
みちゅが、その『ヌシ』とやらを、釣り上げてやろうじゃないか。
さぁいけ、ミニキャラ。
生餌を使っているのか、それともルアーなのか。
どっちかはわからないけど、無限に釣れるその不思議な竿で『ヌシ』を誘い出せ。
『Xiphias fabulosus ―APPEND レベル40―』
は?
――その瞬間、画面を埋め尽くしたのは色彩の豪雨と、光の弾幕だった。BPM240を優に超える激流の中、彼の動体視力をあざ笑うかのように、一画面を埋め尽くす超高密度のトリルと、認識を拒む変則的なハネリズムが押し寄せる。
「……チッ」
予備動作なしで襲いかかる、左右非対称の変態的なスライドと微縦連。指先の神経に次に叩くべき音符を伝達し、先読みをしてボタンを押さなければ追いつかない。腕の筋肉が悲鳴を上げかけていたが、脳が『動け』と勝手に指令を出す。シナプスが異常な速度で火花を散らし、音楽と、譜面と、自分という存在が完全に溶け合っていく。
ミツルは今、この世界の頂点を読み切ることに、確かな悦びを感じていた――。
「――腕が痛ぇ!! なんだ、今の!? プロセカ!?」
【combo 1083 perfect 1169 great 22 good 0 bad 4 miss 3】
「いや、完全に音ゲーになってんな!! 釣りは!? ヌシはどこ行ったんだよ!?」
【伝説のカジキ 売値:55000円】
「ごめん、ノンちゃん!! なんか俺、このゲーム、ぼっこしちった!!」
「あはははは!! 動きがキモくて、最高!! もう一回やって?」
「ムリムリムリ!! 腕がパンパンになっちゃったから!! ……今、『キモい』って言った!?」
「あ、そうだ。記念にスクショ撮ろうよ。撮った写真は、SNSに上げられるんだって」
「勝手になさいな」
喜んでくれたから、まあ、いいか。
腕、痛ぇ。
ダメだ。
今日はもう、なにも持てなくなっちゃった。
――ドクターストップ。
そして、四日後(ゲーム内時間)。
「すごいね! カブがいっぱいできたよ! これでお金持ちだね?」
「いや、まだまだ。カジキ売ったお金で、カブの種が1100個買えるから。またそれを植えて」
「うわぁ、すごいことになりそう! 畑が完成したら、写真に撮って、またアップしていい?」
「いいとも、いいとも」
伝説のカジキと、常軌を逸した広大なカブ畑。
これら二つの写真が決め手となって、翌日、二人は界隈をざわつかせる。
ミツルとノイチが打ち立てた、常人にはおよそ真似できないこの攻略法は、それから数十年の時が経っても、ミームとして残るほどの金字塔となった。




