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第12食 分析放棄! ギャルが注文しただけなのに

 

 老舗ステーキハウス『モーギュー』。


 集いし五人が、それはもう、ぎゅうぎゅうに詰め込まれた窓際のボックス席。


 メニュー表を見て、品定めをしていたのは弁聖の孫娘、秋風ノイチ。


「私、ビッグハンバーグランチのビッグ頼んでいい?」


 ビッグハンバーグランチのビッグ。


 いつもであれば、ビッグの重複にビックリしてツッコミを入れるミツルだが、すでにぐったり。


「好きなものを、お食べ?」


 隣に座るノイチの肘がやたらとぶつかるのも顧みず、ミツルは力を封印されたかのように全肯定。


「…………」


 一方で、向かい側。みぃくん呼びを封印されし者、クリムゾン仲邑。


「ゾンちゃんは、どうする?」

「……え?」


 たとえどんな苦境にあろうと、いつでもみぃくんが助けてくれる。


「おろしポン酢ハンバーグ? 好きだもんね?」

「うん……好き……」


 肩を密着させ、濡れた瞳でみぃくんを見つめる仲邑。


「私も、同じのにしようかねぇ」


 ――ババアと一緒。


 クリムゾン仲邑、三十六歳。


 最近になって、肉の脂がなかなか抜けなくなってきた、お年頃。


 キョロキョロと、脱出口を探すかのように周囲に視線を走らせる仲邑。


 そんな彼女の目に留まったのは、壁に貼られた期間限定メニュー。


「今日は、この、丸ごとトマトのチーズカレーハンバーグにしようかなっ?」

「おお! いいねぇ! ずいぶんとまた、可愛いのを選んだね?」

「そ、そうかな?」


 怪我の功名は、新たなる災厄の火種。


 可愛いという言葉は引き出せたが、予定になかった脂肪と糖が上乗せされる。



 ――分析開始。


 ……なに?


 無いよ?


 分析なんて、そんなもん。


 ただ、ガチヒーロー飛鳥の所作を見て、大人の男としてのマナーみたいな、そういうものがあれば、勉強させてもらいたいとは思ってる。


 時折、ゾンちゃんみたいな、大人の女性から受ける、バカにしたような視線が気になるし。


 スキルアップだよね。


 いい意味で。


 ゾンちゃんと言えば――


 昨日、鞭で打たれてるんだよね。


 まぁ、いいけどさ。


 お風呂にも入れない程度の、超痛い怪我で済んだし。


 お金はいっぱいもらえたし。


 そのおかげで、ばあちゃんとギャルをここに連れてこられたわけだから。


 今日だって、アスカゾンの二人に出会わなければ、仏壇に飾られているじいちゃんの思い出話とか、そろそろ聞かせてくれるかなぁと思って期待してたの。


 この二人、基本的にはいい人たちなの。


 ただ一点、『聞こえし者』的な話題になると、一切のコミュニケーションが取れなくなるっていうだけで。


 いい人たちなの。


 本当。信じて?



「ミツル? 何ひとりでぶつぶつ言ってるの? メニュー選んでないの、ミツルだけだよ?」


 正気を保つため、心のお友達に話しかけていたミツルを、ノイチが呼び覚ます。


「そうなの? 飛鳥さんは、何を?」

「ビッグハンバーグランチの、ヒーローだって」

「ヒーロー!? そんなのあった!?」


 ノイチの言葉を受け、ミツルは思わずメニューの裏まで確認する。


「はっはっは! 違う違う!」


 軽快に笑い飛ばす飛鳥。


「ビッグハンバーグランチの、ジャスティスだよ!」

「なるほどぉ~」


 悪化の一途をたどる情報に、ミツルはわかったふりをしてやり過ごす。


「もう! いいから、早く選んでよ?」

「えぇ?」


 ノイチに急かされるが、ミツルはメニューを見ようともせず、聞き返す。


「何食べたいの?」


 ノイチはすでに、ビッグハンバーグランチのビッグと決めている。


 しかし、ミツルはこのギャルの生態を知っている。


 この女、基本的に半分ずつしたがるタイプ。


 おまけに、弁聖はおばあちゃんなので、ライスはほとんど二人に分け与えてくる。


 となれば、自分で選ぶより、ノイチに食べたいものを選ばせた方が無難。


「やっぱステーキでしょ! 三百グラム!」


 三百を二人で分けて百五十グラム。


 ライスは、ほぼ一・五倍。


 普通の食事であれば、十分な量ではある。


 だが、ノイチは普通の人よりちょっとだけたくさん食べられる感じのギャル。


 彼女の頼んだハンバーグのサイズ次第で、自分の未来が変わる。


「ビッグハンバーグランチのビッグは、何グラムなの?」

「三百が二枚!」

「さんびゃ……ステーキ二百、食える?」

「うん!」

「よし。じゃあ、それにしよう」


 総重量四百グラムのステーキ&ハンバーグ。プラス、ライス大盛り。


 若さが与えた消化機能を、静かなる笑みをたたえて見守る弁聖。


 なるほど。と、自分のカレーを半分、みぃくんにどう甘えて食べてもらおうか画策する仲邑。


「すみませーん!」


 老舗なのでタッチパネルも呼び出しベルもない店のシステムを、物ともしないノイチ。


「…………」


 この状況で食べれっかなぁ? ミツル。


「元気なお孫さんですね?」


 一点の曇りもない目で、弁聖と世間話を始める飛鳥。


 三者三様の枠を飛び越えた、五者五様の食事風景が、すぐそこにまで迫る――。

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