第11食 オーダーしていない特盛地獄
駅前にあるステーキハウス『モーギュー』。
お高いメニューも勿論あるが、ランチタイムにはリーズナブルな料理が楽しめると評判の老舗である。
「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」
「ばあちゃん一人、ギャル一人、それと男子大学生一人」
「かしこまりました。それでは、ご案内いたします」
先頭に立っていたミツルが、歴史を感じさせる店内の風景を楽しみながら、ベテランの風格漂う女性店員についてゆく。
店内はこじんまりとしているが、座席数は十分で、様々な客層に愛されているのがよくわかる店だ。
カウンター席のサラリーマン。
お座敷席の家族連れ。
ボックス席なのに並んで座るヒーローと悪魔女王までが――。
――分析開始!
はい、お待ちどうさまでした!
って、違う違う違う!
見た目だけは完璧な美男美女が、並んで窓の外を見てるのがあまりにも画になるから、一瞬、西洋列車の中かと思っちゃったけど。
いたよね、今?
うわぁ……ヤダぁ……。
ばあちゃんの家に居候させてもらって、しかも毎日やたらと重量感あるものを食べさせてくれるから、そのお礼に、ご飯を食べに連れて来ただけなのにぃ……。
昨日のバイト先の偉い人の、女の部分、見たくなぁい……。
でも、挨拶しないと、ああいう人は絶対根に持つし……。
いやいやいや、待て待て待て。
決めつけは良くない。
向こうは、気づいてないかもしれない……っていうのは、無理か。さすがに。
隣がギャルだし。髪、ピンクだし。爪、尖ってるし。
「おお、ミツル君!」
ほらね。ヒーローの方が話しかけてきちゃった。
「どうしたの、みぃくん?」
みぃくん……みぃくん!?
平然とその呼び方をするということは、気づいてなかったんじゃん!
おのれ、ダークブレイカーアスカ!
余計なことをしよって。
どうすんの、これ?
もう、このあと地獄しか待ってないよ?
助けてくれるのかな?
ヒーローだから。
ははははは……。
「ほら、昨日のバイトの男の子だよ。ゾンちゃんの鞭を、才能だけで避けた」
昨日とは打って変わって、パステルカラーのフリル付きブラウスを身に纏ったクリムゾン仲邑。
ミツルの顔を見るなり、仲邑の顔面はクリムゾン。
大好きなみぃくんの袖口は離さず、窓の外で最高のシネマが上映されているかの如く、シカトを決め込む。
「みぃくんって呼ばれてるんですか?」
ギャルは空気を読まない。
二人の関係が気になるノイチは食い気味に飛鳥に尋ねる。
「うん! ずっとそう! 彼女だけは特別!」
ヒーロースマイルで、短くお返しする飛鳥。
あまりにも眩しすぎるその笑顔に、ギャルもたまらずノックアウト。
静かに、極上の精神世界へと旅立つ仲邑。
「そのぉ……」
波風立たないうちに、お暇したい。
そう思ったミツルはフェードアウトの言葉を口に――
「あれ!? 弁聖様!?」
できない。
ヒーローはミツルの背後にちんまりと立つ老婆の姿も見逃さない。
「ふぇっふぇっふぇ。立派になったねぇ」
「いやいや、私もそろそろ、後進を育てたいと思い始めているところですよ」
立ち話を始めてしまう、二つの巨星。
「どうでしょう? ミツル君を、うちの会社に預けてみませんか? 弁聖様の知り合いなら、上層部も納得してくれるだろうし……」
「会社って、なに? どうせ、民間軍事会社とかでしょう? 怖い。嫌ですぅ」
「ふぇっふぇっふぇ。この子だけは渡さないよ。なにせ『聞こえし者』だからねぇ?」
「それも何なのか、よくわかってませぇん。そんなことより、パチンコで弟子入りをしたいですぅ」
「みぃくんだってさ? なんか、いい感じじゃない? 私もミツルのこと、みぃくんって呼んでいい?」
「バカなのか、貴様は。ダメに決まってるだろう? 二人振り向いちゃうだろうがぁ」
「あはははは! そっか! 言われてみれば、そうだよね!」
魂の叫びをまともに拾ってくれたのはノイチだけ。
そのことに、またしても安寧を感じてしまうミツルであった。
「お客様……」
それまでニコニコと見守っていた店員が、会話に割って入る。
「お知り合いのようですので、相席をお願いしても、よろしいでしょうか?」
「どうしてぇ!?」
声を裏返し、狼狽えるミツル。
「申し訳ございません。今しがた、案内する予定だった奥のテーブル席が埋まってしまいまして……」
「待つ待つ待つ待つ。全然、待つから。平気。待つの好き。お願いだから、戻らせて? こんなにも近いのに、遠い、あの待機席まで。できれば時間も、巻き戻してほしいけど。この店に入る前の、時間にまで」
店員の袖を引っ張ってまで懇願するその様は、まさしく悲劇の主人公。
「いいですよ! さぁ、皆で一緒に食べよう!」
悲劇を見て黙っていられないのは、ヒーローの性。
飛鳥は迷わず相席を受け入れる。
「悪いねぇ」
「ありがとうございます!」
「だーれも話を聞いてくれない。もう終わりだよ、この町」
覚醒するツッコミボーイ・ミツル、人よりちょっとだけ多めに食べるギャル・ノイチ、弁聖・ぼぎ、ガチヒーロー・飛鳥、そして……。
「…………」
未だに魂が抜けている、プライベートモードのクリムゾン仲邑。
ボックス席に詰め込まれた五人による、地獄のランチタイムが始まろうとしていた。




