第117食 お腹がすいたら、マッカズに行こう!
超能力。
通常の人間には不可能とされる現象を実現する、科学的に証明されていない特殊な能力のことである。
その括りでいえば、ミツルが手に入れた仮面ライダーみたいな変身能力も、超能力といえるだろう。
この能力をくれたヒロシ君の救急搬送も無事に終わり、アリ塚にぶっ刺さっていた怪人もついでに運ばれていった。
それはさておき。
すっかり諦観したミツルは、ため息を一つだけついて、アルアル所長に尋ねた。
「……それで? 俺たちは、これからどこに?」
がらんと広がるオーストラリアの赤い大地を背に、所長は自信満々に答えてくれる。
「殉職おめでとう。二階級特進ね」
全然関係ない話だった。
「話を聞け! っていうか、それって生き返っても適用されんの!?」
「お腹、すかない?」
「おめぇ、耳いかれてんのか!? このクソ……」
普段は温厚なミツルが、ついつい乱暴な言葉で罵倒しそうになった、そのとき。
ノイチが手を挙げてぴょんと飛び跳ね、これ以上場が荒れるのを防ぐ。
「すきました! マック行きたいです!」
防がない。
「せっかくオーストラリア来たのに!?」
所長に対する溜飲は下がったものの、ミツルはすぐにツッコんでしまう始末。
やはりここは頼れる女。
ウカウカ先輩が、一言で締めてくれる。
「いいわね。それが終わったら基地に寄って、きっちり洗浄してから帰りましょう。この国は検疫が厳しいから」
「帰る!? 嘘だ!? 本当に、なにしに来たの!?」
あえていえば、死にに来た。
それはさておき、四人は一路マクドナルド、通称『マッカズ』へと向かう――。
ビッグブレッキーバーガー。
焼きたての卵、そしてベーコンとパティが二枚ずつ。
それだけにとどまらず、カリカリのハッシュブラウンに、とろけるチーズまでがサンドされた、オーストラリア限定のバカバーガーである。
こいつがもう、高けぇのなんの。
お値段、1460円なり。
そのバーガーに大口を開けてかぶりついたのは、いかにも幸せそうなスマイルを浮かべたノイチだった。
「めっちゃおいしいんだけど! はい、みちゅ!」
「食べるから! 一回、置いて! 顎が外れ……」
食べかけのバーガーを無理やり口にねじ込まれる。
仕方なく、ミツルはもぐもぐと口を動かして、罪深い味を堪能した。
「……うんめぇ」
マズいはずがない。
オーストラリア産ビーフパティの旨味。
スモーキーなベーコン。
コクのあるとろけたチーズ。
ぷるっぷるの目玉焼き。
口の中で一体となったそれらに、濃厚なバーベキューソースが絡んで、もう最高。
バカバーガーは、バカうまかった。
「よかったわね」
「二人とも、お疲れ様」
ビッグブレックファストディール。
同じようなバカネーミングでも、こちらはシェアセット。
アルアル&ウカウカ姉妹の目の前にあるのは、マフィンとハッシュブラウンという、ザ・朝マックと呼ぶにふさわしい定番のメニューだった。
ちなみにお値段は、コーヒーが一杯ついて1660円。
「ごちそうさまです! ねぇ、みちゅ、こっちもおいしいよ!」
ビッグアーチ。
極厚パティが二枚、そこに三枚のホワイトチェダーチーズと、少しだけピリッとした酸味のある特製ソースをぶち込んだ、この超大型バーガーは約1800円。
先ほどのバカなやつを合わせれば、それだけで3000円を超える。
これらすべてをおごってくれたのは、上司のアルアル所長だった。
金払いだけはいいのが、この姉妹の特徴でもある。
ノイチによって、口の中いっぱいにカロリーを詰め込まれたミツルは、舌の上で暴れ回るジャンキーな味を、ケミカルなフレーバーの炭酸ドリンクで一気に流し込んだ。
「……ごちそうさまです」
なんとなく、所長の目は見ずにお礼を言う。
すると彼女は、人が変わったかのように優しく微笑みかけてきた。
「気にしないで。たくさん食べなさい」
ずっとこうだったら、尊敬できるのに。
残念な思いを抱えたミツルは、手に取ったドリンクのカップを揺すって、ガシャガシャと氷を鳴らした。
「今日って、本当にこれで終わりなんですか?」
「ええ。今日は二人に、自分の能力を体験させたかっただけだから。ちょうどよく、いい感じの侵入者がいて、手間が省けたわね」
この人は、やっぱりダメだ。
……いや。
そう考えるのも、早計かもしれない。
手の中にあるオージードリンクよりも甘いミツルは、期待と救いを求めて、所長に尋ねた。
「ちなみにヒロシ君がいなかったら、なにをする気だったんですか?」
「あなたには、飢えたイリエワニとか、ボスカンガルーなんかと、ガチタイマンをしてもらう予定だったわ」
どっちにしろ、死んでた。
手の施しようがないとは、このこと。
ミツルはプイと顔を背け、窓の外に目をやった。
そこにあったのは――。
「いましたか?」
「ダメだ、見つからねぇ。チッ……プラチナファイターめ」
ダチョウ怪人とヒクイドリ怪人が、町中をブラついている姿だった。
「どうしたの、みちゅ?」
「……なんでもない。食べたら、すぐ帰ろうか」
やはりここは海外。
とても治安が悪い。
こうして、ミツルたちのオーストラリア旅行は、楽しいうちに幕を閉じることになった。




