第115食 真菜ミツル、死す
突如として放り込まれた、超能力界隈。
蓋を開けてみれば、想像していたものとはまったく違う、平成仮面ライダーのようなシリアスな展開。
舞台は、多摩から遠く離れた豪州。
偶然の再会かと思われた小学生時代の同級生ヒロシ君が、今、ミツルの目の前で、その姿を変貌させる――。
「……チェンジ」
玉虫色の光が凝縮され、硬質な金属音を響かせながら結晶化していく。
――シュィィン!
ミツルたちの前に現れたのは、宝石細工のように精巧な、プラチナの装甲に包まれた戦士だった。
「ヒロシ君……」
ミツルは絶望と羨望が混じり合う、複雑な感情に支配される。
甲虫の持つ曲線美と、最先端テクノロジーが融合したその姿は、子供の頃、ヒロシ君本人に図鑑で見せてもらった、どんな昆虫よりも洗練されていたが、同時に恐ろしいものでもあった。
冷たい白銀色の仮面の奥には、瞳孔のない、真っ黒な単色で染められた双眸が、じっとこちらを見据えていた。
露わになっている口元だけは、かつての同級生のままだった。
――シャキィィン!
しかし、残っていたその面影も、無機質な音と共にマスクで隠される。
思い出の中にいる『ヒロシ君』とは、もはや別人になってしまった。
「正体を現したわね!」
「ヒロシ君、どうして……」
アルアル所長が前に出てきても、ミツルは諦めることなく、旧友との対話を試みる。
彼は気持ちよく、それに応じてくれた。
「僕はね、自由に昆虫の研究がしたんだ」
「いや、そういうことじゃなくて……」
ミツルが聞きたかったのは『なぜ変身ができるのか』という一点に尽きた。
だが、目の前にいるプラチナ昆虫戦士は、深く、静かに頷いただけだった。
「わかってるよ、ミツル君。僕たちは、いずれこうなる運命だったんだ」
「いやぁ、絶対に、違う!! 頼むから、そんな運命は一回、捨てて!! ごめん、ちょっと、待っててくれる!? ……ほんで、俺の特殊能力はどうなったんだよ!?」
絶叫しながら、ミツルはすがるような目でサファリルックの上司を振り返った。
研究室で、あの苦い薬品を飲まされてから、かなり時間が経っているはず。
そろそろ能力に目覚めても、いい頃合いなのでは。
そう思った矢先、最悪女はフランクに現実を突きつけてきた。
「ないけど?」
「ない!? どういうこと!?」
「どういうこともなにも、あなたが飲んだのは、ただの水だったし」
「それにしちゃあ、ずいぶん苦かったけど!? っていうか、なんでそんなことしてんの!? いやがらせか、なにか!?」
「ええ」
………………
…………
……
終わった。
『相手の能力なし能力』さえあれば、面倒な戦いに巻き込まれずに済む。
そう思ってたのに、アルアルとかいうクソ女が仕掛けた『相手の能力なし能力なし計画』で、すべてが台無しになった。
じゃあ、なにか。
この女は、生身でこの状況を、どうにかできると思っているのか。
バカなんじゃねぇか、本当に。
いや、待て、待て。
今は、ヒロシ君を待たせている。
まずはその対応を、というか、そもそも彼のノリも意味がわからない。
ここは、俺がガツンと言ってやらないと。
……
…………
………………
くるりと体を翻したミツルは、太陽光をまばゆく反射させているプラチナ昆虫戦士に向かって、その口を開く。
「どうぞ、好きなだけ虫の研究をしてください」
ラブ&ピース。
またの名を、チキンオブハート。
平和を愛する彼が強くものを言えるわけもなく、頭を下げながら『NEXT』の管理区域全体を差し出すように腕を伸ばした。
ところが――。
「さっさとかかってきなさい、改造人間!」
「けしかけないで!」
「すまない、ミツル君。『NEXT』にも、キミにも恨みはないけど、僕にも立場というものがある」
「話を聞いて! 全部、調べていいから! む・し・を・ぜ・ん・ぶ!」
なぜだろう。
いつも通り、周りが勝手に動いてしまう。
「ゴハハハハ!! 絆されたか!? 甘いな、プラチナファイターヒロシ!!」
「誰!? すっげぇ、悪くて強そう!!」
なんかもう、第三勢力までやってきて、てんやわんやの大騒ぎ。
「出たな、鳥獣怪人!!」
「ちょうじゅうかいじん!? そういう、勢力の方なのね!? 虫だから、食べに来たんだ!? たぶん!!」
「ムハハハハ!! くらえ、デスビーム!!」
鳥獣怪人の口から放たれたのは、紫色の怪光線だった。
その攻撃は、まばたきをする間もなく、プラチナファイターヒロシを捉える。
が、しかし――。
ツルン。
――説明しよう。プラチナファイターヒロシの特殊スーツには、プラチナコガネの『3次元フォトニック結晶構造』を極限まで進化させた昆虫工学が使われている。したがって、放たれた光の波長をズラし、そのエネルギーを100%『円偏光』へと変換して滑らせることができた。鳥獣怪人のデスビームの波長は、すでに彼の反射帯域の中にあったのである。
寸でのところで攻撃は回避されたが、すぐに別の問題が起きる。
屈折したデスビームが、アルアル所長に向かっていった。
「あぶねぇ!!」
さらば、ミツル。
なんだかんだでお人好しな彼は、その体を張って、彼女を守ってしまった。
彼のTシャツは、放たれた光の波長をズラすことも、円偏光に変換して滑らせることも、当然ながらできない。
怪光線が胸を貫く。
次の瞬間、彼に訪れたのは、音も光もない、冷たい世界。
それは、死の世界にほかならなかった。




