第112食 恐怖! 味方の博士による妨害工作! その名も『相手の能力なし能力なし計画』!!
前代未聞。
前話のサブタイトルで、能力をバラされてしまう。
そうとも知らず、ミツルはもう一度、今度はドヤ顔を作って、アルアル所長に宣言した。
「決めました」
理屈とかは、どうでもいい。
能力そのものをなくしてしまえば、目の前にいる女は、ウザ絡みするしか能のない、ただの女になる。
彼が考案したのは『相手の能力をなしにする能力』だった。
その考えを知ってか知らずか、アルアル所長はふふりと笑って返した。
「そう。それじゃあ、すぐ調合に入るから、服を脱いでくれるかしら?」
「どうして?」
「意味なんてないわ」
「じゃあ、やだよ!」
所長の腕が伸びてくる。
どうせまた不毛に終わる第3ラウンドが始まろうとした、その時――。
アルミドア、パッターン、ブルンブルン。
別室へ行っていたノイチとウカウカ先輩が戻ってきた。
「おかえり!」
やっと、所長と二人きりの時間が終わったミツルは、嬉しさを隠さず、彼女たちを迎え入れる。
ところが、歩み寄ってきたノイチの表情は沈んでいた。
それを見たミツルは、ふと、彼女が初めての手作りクッキーを焼いてくれた日のことを思い出す。
「なにこれ!? カントリーマァムみたいでうめぇ!!」
「……そう? なら、みちゅが全部食べていいよ」
単純に、生焼けだった。
浮かない表情で失敗を隠していた彼女は、自分は一枚も食べず、すべてのクッキーをミツルに譲った。
結果として、翌日、彼だけが激しい下痢に見舞われる羽目になったという。
それはさておき、今、目の前にいるノイチは、あの日と同じような顔つきをしている。
身の危険を感じたミツルは、容疑者が正直に答えやすいよう、出来る限り優しく尋ねた。
「どうしたの? お腹痛い?」
ノイチは静かに首を振ると、そのままミツルの胸に体を預けてきた。
シャツ越しに感じる彼女の熱は、普段よりも数段高く感じられた。
「……頭、痛くなっちゃった?」
彼女は、胸の中でずるりと頭を下げて頷いた。
知恵熱。
ギャルなノイチは、その見た目通り、考えることがあまり得意ではない。
別室にわかれたものの、きっと、うまいこと能力が考えられなかったのだろう。
ミツルは、一つの決意を固めて、所長の顔を見た。
「というわけで、僕たちはそろそろ……」
逃亡チャンス到来。
いけるなら、そのまま逃げてしまいたいミツルは、躊躇なくノイチの肩を掴んで退散の構えをとった。
「冗談でしょう?」
「本気ですよ。ほら、ノンちゃんが、やられちゃってますから」
急病人が出ちゃったのなら、いかに変態博士といえども、止められまい。
大義名分を手にしたミツルは、もはや無敵だった。
「みちゅ……」
顔を上げたノイチの瞳には、超優しい、ハイパーダーリンのご尊顔が映っていた。
と、そのとき――。
ミツルの胸の中にいたノイチが、突如として顔を輝かせる。
「……そっか。わかりました、私の能力!」
ミツルにとっては、いらない閃き。
しかし彼女にとっては、天地開闢。
混沌とした世界が、もっとカオスになっていく。
「説明した方がいいですか?」
「いいえ。能力は秘匿性が大事なの。今から姉さんが薬を調合するから、二人は、自分の力のイメージを強く思い浮かべて」
笑顔のノイチに、もっと笑顔のウカウカ先輩が応える。
「おめでとう! 私たちの世界へ、ようこそ! その素晴らしい能力を実現させる薬は、すぐに出来るわ! あなたたちは、そこにかけて待っていてちょうだい!」
アルアル所長は白衣を翻し、研究室の端で煮込まれているフラスコへと向かって行く。
「…………」
ひとりぼっちとなったミツルは、絶句したまま立ち尽くす。
だが、時は止まらない。
使い物にならなくなった主人公。
その代わりに、ここからは、部屋の隅でテキパキと調合を進める、本末転倒・変態博士の脳内をご覧ください。
(秋風ノイチのクスリは、これでオーケー。だけど、真菜ミツル。お前はダメ。どうせ、無効化系の能力でも考えているんでしょうけど、界隈を全否定するような能力なんて、どっ白けだもの。あなただけ『能力なし』のまま、この世界に放り込んであげるわ。ぷぷぷ……焦るでしょうね。能力が発動すると思ったら、何も起こらないなんて。楽しみだわぁ……さぁ、彼の薬だけ、水にして、その上でちょっとだけ苦くしておこうかしら。苦くすることに意味はないけれど)
「出来たわよ~?」
晩ごはんが出来たときの、昔のお母さんの言い方で、アルアル所長は振り返った。
このとき、彼女はまだ知らなかった。
打てば響く、真菜ミツルという男の性質に、自分がハマりかけていることを――。




