第104食 不穏な訪問者! 夏休みは終わらない!
※※※※社外秘・持ち出し厳禁※※※※
NEXT総務部より関係者各位へ
戦争、貧困、飢餓。
世界はいまだ混沌に満ちておりますが、『宇宙やその他(X)』からの脅威も差し迫っていることから、我々、国家非常事態対策班・通称:『NET』はこの度、国家非常事態およびX事象に対する対策班・通称『NEXT』として新しく生まれ変わりました。
全戦闘員ならびに研究員各位は、新組織名の周知・徹底をよろしくお願いいたします。
なお、『ぼくのかんがえた最強の能力研究所』部門より、お知らせがございます。
※詳細は別紙参照
※別紙
『ぼくのかんがえた最強の能力研究所』 所長 鵜飼アルテミスアルカナ
この度、当研究所は少子高齢化による慢性的な人手不足により、新たなる人材を募集中です。
出来れば若くて反抗的な、私好みの、かわいげのない男子大学生(彼女がいれば最高)を希望しております。
親族・友人・知人。さらには町行く男子大学生を見かけた際に、積極的なスカウトのご協力をいただけると幸いです。
【募集要項】
職種:能力者候補(戦闘員 兼 被検体)
給与:歩合制(殉職した場合、国からの補償金あり)
必須スキル:所長のセクハラ、パワハラ、モラハラ、その他各種ハラスメントを乗り切る強靭な肉体、もしくはメンタル(肉体面については■■■■最強の薬があるため、メンタルを重視)
福利厚生:言わずもがな。強いて挙げるならば、全人類を守る栄誉ある組織の一員となれること。
備考:特殊能力授与。研究所名に恥じない、候補者自らが考案した能力を、所長である私、アルアルが保証します。
楽しいサークル合宿が終わり、地獄のような配信活動も終わって、無事、多摩の秋風家に帰ってきたミツルとノイチ。
あれから、なにごともなく1週間が経った。
大人しいデブ猫ちゃんはいるが、おばあちゃんはパチンコでいない。
いつも通りの、そんな居間の中、今日も2人はとりとめのない話をしながら、甘いひと時を過ごしていた。
「ねえ、みちゅ。車って、いつ届くの?」
「3か月後に納車だって」
配信で得た報酬によって、ミツルは念願だったマイカーを購入。
あとはもう、ノイチの言うことを聞く一生が続くだけ。
人生が安定期に入っている。
そう思い込んでいるのは、彼だけだった。
「わお! 車って、すごい時間かかるんだね?」
ギャル特有の明るいリアクションで、室内の雰囲気が華やぐ。
ありがたいと思いつつ、ミツルは話の流れに乗っかった。
「でもなんか、ディーラーの人曰く、人気車種だから、それでも早い方らしいよ?」
「へぇ……ディーラーって、なに?」
「車を売ってる、お店のこと」
「ふーん……暇だね? 3か月間も」
「まぁ、いつも通り過ごしてれば、あっという間じゃない?」
「それはそれで、イヤかも」
「どうして?」
ミツルが尋ねると、ノイチは口の先を尖らせながら言葉を続けた。
「だってさ、終わっちゃうじゃん。夏休み……」
だから、それがなんなんだ。
と、ミツルは少しイライラ。
「そうだねぇ」
でも表向きは、肯定のみ。
これが、彼流の家庭円満の秘訣である。
そんな思いを知ってか知らずか、今度はノイチがミツルの顔色を窺うように、遠慮がちに尋ねる。
「みちゅは、さみしくないの? 私と、一緒にいる時間が減って……」
そういうことですか。
彼女の真意がわかったミツルは、手のひらクルリ。
「さみしいに決まってるだろう?」
ぶっちゃけて言えば別に寂しくはなかったが、いじらしいその想いに心を撃ち抜かれたミツルは、彼女の手にそっと自分の手を重ねる。
「みちゅ……」
「ノンちゃん……」
「ナーン……」
メイクラブ&猫避難――。
具体的には言えないが、すごく、濃厚。
今日は、ミツルが喰われる方。
そういった男女のやり取りが、あったとか、なかったとか。
このところ、毎日毎日、そんなことばかりをして過ごしていた2人だったが、突如として、愛の日々は終わりを迎える。
――ピンポーン、ドンドコドンドコ、ドンドコドン!!
「うるっせぇ!! 誰ですか!? ピンポン鳴らしてるんだから、ドア叩かないで!?」
身支度を整えながら、ミツルは玄関へと向かう。
そして、そのまま扉をオープン。
そこに立っていたのは、もちろん、あのお方。
「結構待ったけれど、まだ終わっていなかったかしら?」
鵜飼卯花、通称・ウカウカ先輩。
ノイチが満足するまで、愛の時間が終わらないことを知っている彼女は、盗聴をしながら外でバッチリ待機。
双方にとって、これ以上にないタイミングでのインターホンではあった。
「……どうしたんですか? お金だったら、返せませんけど」
配信で得た報酬は、車の購入に使ったばかり。
現在、すっからかんに限りなく近く、金銭トラブルを避けたくもあったミツルは、彼女の姿を見るなり、そう口にした。
「いい話を持ってきたの。秋風さんとのデート費用に、困っているでしょう?」
盗聴盗撮、その他もろもろによって、ミツルの懐事情すらお見通しの彼女は、言いながらずかずかと家に上がっていく。
お金に困っているのは事実だが、そうされるのはもっと困っちゃう。
不必要な混沌を招く、美しき悪魔の訪問を阻止したい。
そう思ったミツルは――。
「どうぞ。散らかってますけど」
ラブ&ピース。
やはり、この男は争いごとに向かない。
初訪問にもかかわらず、なぜ彼女は居間の場所がわかるのか。
そんな疑問もよぎったが、彼はその場で、ウカウカ先輩の後ろ髪を見送るだけにとどまった。
「ウカウカ先輩!? どうしたんですか!?」
「久しぶりね、秋風さん。元気だったかしら?」
聞こえる、聞こえる。
ミツルの耳に届いたのは、2つの個性が再会を喜ぶ声。
――女ってすごい。あんなことやった後なのに、ノンちゃんたら、普通にしゃべってるんだから。はぁ……せっかくの平和も、1週間で終わりかぁ……。
そしてミツルは、ため息混じりに、彼女たちのいるカオスな日常へと舞い戻る。




