第102食 決着は強火で! 茹で上がれ! 蒼炎の卵!
降り注ぐ隕石群は上空でその動きを止め、理不尽にも超合体。
蒼の焔を纏う奇怪な卵の姿になった。
これを打ち倒すべく立ち向かうのは、人類代表。
ピンクの機体ノンノンに乗り込んだミツルと、黒の機体ブラックドルフィンに搭乗するイルカ。
熱い、熱いロボット大戦は最終局面へ。
この星の命運や、いかに――。
「デルフィヌス・サーベリック!!」
――説明しよう。ブラックドルフィンがその手を高々と掲げ、闇野イルカが叫んだ言葉に深い意味はない。『デルフィヌス』はラテン語でイルカ。サーベリックの意味は、本当にわからない。だが、ブラックドルフィンの筐体に詰め込まれた謎の科学力と、イルカによる圧倒的カリスマ性によって、今、戦場を支配する『黒き雷神』は、巨大な槌を握った。
「私が道を切り拓こう! ミツルくん、トドメは頼んだ!」
ハンマーで何を切るつもりなのか、闇野イルカ。
しかし彼は高らかに空へと舞い上がり、滅亡をもたらす卵に立ち向かって行った。
これに対し、ミツルは――。
「ああ……」
まさかの生返事。
彼の身に、何があったのか。
――説明しよう。ミツルは小腹が減っていて、頭が回っていないのである。パン・オ・ショコラにオレンジジュース、それからブタメンを食べて、イングリッシュスコーンなんかもいただいちゃって。それなのに、なぜ。彼は男子大学生。食事といえば、もっとお腹に溜まる、カップ焼きそばとかを食べたいのである。いや、どうせ栃木に来たのなら、スープバーにビシソワーズのある、例の宇都宮のステーキ屋に行きたい。絶対、ノンちゃんも好きだから。彼は早くも、打ち上げのことを考えていたという。
「アディオス! 卵ちゃん!」
全長52m。
18mのブラックドルフィンが高々と見上げる、大きな、大きな、大きな卵。
蒼炎を纏う殻に、雷神の大槌『デルフィヌス・サーベリック』の重厚な一撃が叩きつけられる。
――バキィィィン!!
大気が震え、確かな衝突音が成層圏に鳴り響いた。
だが――。
「ノオォォォ!!?」
弾き返されたのはブラックドルフィンの方だった。
蒼い炎にその身を包まれた漆黒の機体が、イルカの叫びと共に、大海原へと落下していく。
――バシャァァァン!!
激しい水しぶきを上げ、大海の底に没していくブラックドルフィン。
「くっ……ミツルくん!! 聞こえているか、ミツルくん!? 地球を、愛する者を守れるのは、もはやキミだけだ!!」
ミツルの耳にイルカの声が届く。
機体に激しい損傷を受けながらも、通信だけは辛うじて生きていたようだ。
地球の命運は、16メートルのピンクの機体『ノンノン』に託された。
「イルカ様……どうすれば、俺……」
お腹減っちゃった。
こうなると、もはやミツルは指示待ち人形。
海の底からの必死の叫びに、耳を傾けるだけだった。
「『デルフィヌス・サーベリック』の手ごたえから、私にはすべてがわかった!! あの卵は、外部からの衝撃に滅法強い!! 内側から破壊するんだっ!!」
イルカの言葉は、熱く、そして的確だった。
「卵……内側……?」
ふと、ミツルは思い返す。
卵、か。
ノンちゃんのオムライス、食べたいなぁ。
帰ったら、作ってもらおうか。
そういえば、ノンちゃんが作るオムライスは、いつも――。
「……イルカ様は、オムライスの卵って、ふわふわとカチカチ、どっちが好きですか?」
あまりにも場違いな質問が、ミツルの口から飛び出す。
だが、イルカはゆっくりと、優雅に答えた。
「決まっているだろう? いつだって、愛の戦士の前に差し出されるのは……」
その先の言葉を予測したミツルは、歯をこぼして笑った。
通じ合うものを感じてか、イルカもまた、口の端を上げて破顔一笑。
そして二人は同時に叫ぶ。
「コン・フォーコだ!!」
「やっぱ強火っすよね!!」
瞬間、ミツルの全身が熱気に包まれる。
その正体は愛の力。
冷たい海の底にいる闇野イルカの情熱が、そして、秋風ノイチを想う心が、彼を覚醒させた。
「ノンちゃん……俺に、力をぉぉぉぉ!!!!」
ピンクの機体が輝き、変異する。
卵を熱せと、騒めき沸き立つ。
ミツルの絶叫に、全長16メートルの『ノンノン』が、全エネルギーを解放して、彼の愛に応える――。
「茹だらせてやる……」
オムライス・ゴールドの輪を背負った、流線型のボディ。
その両手には、マゼンダ・フレアのオーラを纏わせている。
科学の力を超えた新機体が、今、誕生した。
その名も【愛の皇帝】。
「はああぁぁぁ!!!」
刹那よりも疾く、強火の漢はスカイハイ。
オーラの尾だけを残し、リーベスカイザーは垂直に跳ね上がった。
見上げる先には、52メートルの巨大な蒼炎の卵。
これほどの質量、これほどの熱。
並の人類なら、近づくことすら許されない、絶望の塊。
「オラァアア!!!」
フィンガーインパクト。
オーラを帯びるリーベスカイザーの10本の指が、卵の殻を突き破り、真下からその質量を捉えた。
「茹で上がっちまえ!!!」
熱血、注入。
愛に染まった皇帝の指から放たれる、極限の『マゼンダ・フレア』が、卵の内部へと逆流する。
「なっ……!?」
――はずだった。
だが、彼の愛が届くよりも早く、52メートルの巨卵は、その中心部で融解させていた『蒼炎の炉心』のエネルギーを全力で解放。
「ぐっ……!!」
毒々しい青の猛火を放ちながら、卵は圧倒的な質量をもって、リーベスカイザーを押しつぶしていく。
「ノンちゃん……ごめん……俺……」
もはや、これまで。
誰しもが、そう思った。
その時――。
――チュドォォォン!!
紫電を絡ませるエネルギー光線が卵に直撃。
グラリと揺れ、重心を失った卵は、その莫大なエネルギーを、ミツルを押しつぶすことではなく、自らの身体を安定させることに消費した。
「はははははははーっは!! 私を忘れてくれるなよっ!? ミツルくん!!」
ふと見れば、宙に漂うのは闇野イルカwithブラックドルフィンmkⅡ。
財力に物を言わせ、八百万の機体を持つ彼は不死身であった。
ドッキリ大成功。
エンタメ大王・イルカの顔には、そう言わんばかりの笑みが浮かんでいたという。
「……騙しやがって」
戻った日常。
戻ったツッコミ力。
この瞬間、ミツルは真の覚醒を果たした。
「とりあえず、消えっちまえ!! クソ卵ぉぉぉぉ!!!」
愛、情熱、そしてツッコミ。
すべての力を調和させた、ゴールドマゼンダ・フィンガー・アタック。
ありえねぇ状況で、ありえねぇパワーが、リーベスカイザーの指からぶっ放される。
――サラサラサラサラ。
それは大爆発の轟音ではなかった。
耳を疑うほど静かな、きめ細やかな砂粒が流れるような音が成層圏に響いた。
次の瞬間、卵の姿はもう、どこにもなかった。
「やっ……」
おっと、危ない。
またフラグを立ててしまうところだったと、ミツルは口をつぐんだ。
「やったなぁ!! 見事だったぞ、ミツルくん!! さあ、打ち上げパーティに行くとしよう!!」
イルカの声が、何もない成層圏に吸い込まれていく。
本当に終わったのだ。
安堵したミツルは、サラリと風に溶けていく52メートルの巨卵だった何かの残滓を見つめながら、操縦桿からそっと手を離した。
「……ステーキ屋さんでお願いします」
これで行けるぜ、念願の店。
でも、焼き加減は強火ではなく、ミディアムレアでお願いします。
かくして、ミツルのなんだかよくわからない生配信・第2弾は幕を閉じた。
その激闘を映し出していたのは、1機の小型ドローン。
余談ではあるが、ミツルに婚約者がいることを強火のファンに隠していたウカウカ先輩は、配信終了直後、ガチで炎上したチャット欄の火消しに追われ、ちょっとだけ大変な思いをしたという。




