第101食 打ち返せ! 愛のホームランダービー!
遥か宇宙より飛来し、芳賀の大海原に迫るのは、直径にして107メートルの大隕石。
ちなみに、芳賀に海はございません。
それでも迫る大隕石。
直撃すれば、地球滅亡。
この脅威を前に、2機の巨大ロボットが、音を置き去りにして発進した。
ふたつの希望は音のみにあらず、対決という概念もまた置き去りにしていった。
運命は過酷にも、対極にある二人の男たちを共闘という渦に巻き込んでいた。
今、雷光のように宙を駆け上り、大空に陣取ったのは――。
「はははははははーっは!!」
ブラックドルフィン。
搭乗者であるアフロイルカは、高らかな笑い声と共に、肩に搭載している粒子砲を操作。
すでに大気圏内へと突入している絶望の大火を纏う巨塊に、その照準を合わせる。
「ジャスト☆アジャスト!!」
ビーム、一閃。
圧縮された漆黒の破壊光線が、大気圏に紫電を巻き起こし、大隕石へと突き刺さる。
――チュドォォォォン!!
エネルギーが激しくぶつかり合い、大気を激震させるほどの大爆音が周囲に響く。
隕石があった場所には、もくもくと煙が上がっていた。
そこへ遅れて到着したのは、ピンクの機体ノンノン。
「――やったか!?」
パイロットのミツルが叫ぶ。
主人公自らがフラグを立ててしまったので、もちろんやってはございません。
煙は霧散。
次の瞬間、ミツルの目に飛び込んできたのは、あざ笑うかのように降り注ぐ、61の破片となった小隕石群だった。
「最悪だ!!」
言いながら、ミツルは大鎌を握り締めて空を昇る。
薄雲をかき分けて、見晴らしのいい対流圏の最上部にまで躍り出た彼は、そこでノンノンを静止。
続けざまに、大鎌の先を隕石群へと向ける。
「全部打ち返してやる!!」
その自信は『パワプロ』のプレイ経験からか。
奇しくも、すべて打ち返すことができれば、日本プロ野球のシーズンホームラン数を塗り替える、大記録が樹立されることになる。
「バッチコイ!!」
ブラックドルフィンが、キャッチャーマスクを被っての登場。
黒の機体が、ド派手なピンク機体の後ろでしゃがみ、ミットを広げる。
アドレナリンが止まらなくなったミツルは、恥じらうことなく天に向かって叫ぶ。
「ノンちゃん、俺に力をぉぉ!!」
愛、一閃。
天は彼に味方した。
どこか禍々しかった大鎌が神々しい光に包まれる。
光を帯びた大鎌は、モゾモゾと怪しい動きをさせて、その姿を変えていった。
「こ、これは!?」
ミートカーソル+50、パワー+75。
実のところおっかなびっくり持っていた大鎌が、野球初心者にも優しい練習用バットへと変貌した。
「来るぞ!! ミツルくん!!」
「よっしゃあ!!」
バッターボックスに入り、ミツルは球を待ち構える。
対する隕石投手の狙いは、初球にふさわしいアウトコース低め。
しかし開幕の第1球目ということもあり、甘く入ってしまう。
ノンノンと一体化し、感覚を鋭くさせたミツルが、それを見逃すことはなかった。
――グワァラゴワガキィィン!!
金属音をたっぷりと含んだ快音が、成層圏を突き抜ける。
ミツルのシーズン第1号は、ドカベンの岩城もビックリの地球外ホームランだった。
「気持ちいい……」
生まれて初めてのリアル野球、初打席でホームラン。
バットを握る手に感触はほとんどなく、小気味いい振動だけが体内で響いていた。
「ナイバッ!! その感覚を忘れるな、ミツルくん!! さあ、次が来るぞ!!」
悦に浸る間もなく迫る、2球目。
初球を捉えられ、がっくりと肩を落としていた隕石だったが、やはり彼もプロ。
気持ちを切り替えて、今度は得意球の高速シンカーでミツルの胸元をえぐる――。
「あれ!? これ、ボール球じゃね!?」
はずだった。
だがそこにあるのは、反対方向に大きく軌道を逸らしたボール球。
一体なにが、あったのか。
『まあ、そのぉ、ただのシンカーであれば、まだしもね? 彼が投げようとしていたのは、高速シンカーなんでねぇ。握りが浅い分、どうしても滑りやすいんですねぇ。だから、こういった、まぁ、あってはならないんですけども、すっぽ抜けが生じてしまった、と』
わかりやすい解説も挟まり、いざ迫る、すっぽ抜けのクソボール。
「どうすればいいの!?」
初心者のミツルは、アウトハイに大きく外れたボール球の対処法がわからず、バットを握ったり離したり。
そんな彼を救ったのは、頼りになる相方だった。
「振るな、ミツルくん!! 私に任せたまえ!!」
ミスれば地球滅亡。
後逸だけは防ぎたいイルカは、体を先回りさせて、ボールの正面に出る。
――スパァァァァン!!
失投であっても、隕石。
時速10万キロを超える剛速球が、なんとか無事に、キャッチャーミットへと収まってくれた。
「ドンマイ、ドンマーイ!!」
脅威をギリギリのところで食い止めた立役者、イルカは爽やかに、キャッチしたボールを空へポーイ。
仕切り直して、残り60球に戻る。
「なんで、返しちゃったの? せっかく止めたのに」
ミツルのツッコミは、足元の雲海へと静かに吸い込まれていった。
「来るぞ!!」
すっかり肩の力も抜けてのリテイク。
本日2度目となる2球目が、ミツルに迫る。
「おっ!?」
打ちごろの、少し内側に入った、ど真ん中。
まさかの棒球に、ミツルは遠慮なくバットを叩きつける。
――カッキィーーーン。
打球は美しい弧を描きながら、成層圏の向こう側へと消えていった。
シーズン第2号は、あっさりと達成された。
「よっしゃあああ!!」
これにはミツルもガッツポーズ。
しかし直後、バシッ、と頭を叩かれる。
「ど、どうして……?」
ぶたれた頭を抑えながら、ミツルは視線を上に向ける。
そこにあったのは、マスク越しに深刻な表情を浮かべるブラックドルフィンの顔だった。
「バカモノ。打たれた方の気持ちにもなってみろ」
「あ……」
ミツルは、ふとマウンドに目を向けた。
あんなに自信にあふれていた隕石投手が、今は見る影もないほどに顔を青くさせて、足元を見つめている。
きっと彼は、精神的に追い詰められて、精彩を欠いた投球をしてしまったのだろう。
「…………」
ミツルの心に、同情が芽生える。
だが、ここは戦場。
プロの世界は厳しい。
ベンチからマウンドへと向かって行ったのは、相手チームのミーティア監督。
その後ろには、ピッチングコーチのライトの姿もあった。
どうやら、選手交代がなされるらしい。
「忘れるな、ミツルくん。私たちはプロ野球選手である前に、ただの人であることを」
「……はい」
ミツルは目を逸らすことなく、隕石投手の退場を見つめた。
それが、彼にできる唯一の敬意の表し方だった。
《選手交代をお知らせします。ピッチャー、隕石に代わりまして……》
透明感のあるウグイス嬢の声が、今日はなぜか残酷に聞こえた。
《地球絶対破壊モード》
おふざけ終了。
次の瞬間、ブラックドルフィンとノンノンのコクピットに、けたたましいアラート音が鳴り響く。
「え!?」
60の火のつぶてが集まっていく。
小隕石たちが形成したのは、一つの巨大な球体だった。
蒼の炎に包まれたその球体は、まるで生き物の卵のように、炎の揺らぎに合わせて鼓動する。
――パキリ。
卵の中心部分の殻が、ボロリと剥がれ落ちる。
手をかざせば隠れるような大きさの、深い、深い、小さな穴。
そこから覗くのは、星を焼き尽くす『蒼炎の炉心』。
「第2ラウンドのようだな!」
「マジのやつかなぁ……」
いずれにせよ、野球はおしまい。
そう言わんばかりに、ミツルの手の中にあったバットが、音もなく、大鎌の姿に戻っていった。
なにやら不穏な空気だが、心配ご無用、ここはワンダーランド。
最初の隕石群は全部で61個
ミツルが打ったホームランは2本。
さて、残りの数と隕石群が合体したときの数は、いくつだったでしょう?




