第100食 ついに登場!! エンタメ大王・闇野イルカ!!
遥か上天より光が差し込む、静かな戦場の跡。
大乱戦を制した頼もしい仲間たちが、こちらに向かって大きく手を振っている。
これから最終決戦の地へと向かうリーダーを、見送っているのだ。
少し離れた小高い丘の上に立ち、仲間たちに手を振り返すのは真菜ミツル。
決戦を控える彼の想いは、ただ一つ。
――そもそも俺、どこに向かえば、いいのかなぁ?
まさかのロストハプニング。
あれだけの大激戦の後だ。
今さら、おめおめ戻って、仲間たちに聞いてくるなんて、できやしない。
とりあえず、ミツルはキョロキョロと視線を動かして、闇野イルカが好きそうな高い場所を探った。
そのとき――。
「はははははははーっは!!」
お待たせしました、すごいやつ。
ゴージャス&タフネス。
闇野イルカの笑い声が、颯爽と鬼ヶ島に響いた。
「その声は!?」
来てくれたんだ。
敵の登場ながら、ミツルはどこかホッとした気持ちになる。
どこにいるの。
彼の視線は、島中の高い場所を右往左往。
だが、いない。
どれだけ探しても、イルカ様がおられない。
どうして。
ちゃんと、見つけられる場所にいろよ、バカ。
そんな倦怠期カップルのような気持ちにもさせられたという。
マジでイライラしかけたそのとき、肩を軽くトントン、とされる。
何事かと思って視線を戻すと、ウカウカ先輩が沖合を指差していた。
見ると、夕凪がもたらした静かな海面に、鼻くそみてぇな塊が浮かび上がっていた。
「はははははははーっは!!」
「……え? あれ、人なの? あれが、イルカ様ってこと!? ちっちぇ!! なんで、そんなところにいるの!?」
登場失敗。
本来であれば、上空に浮かぶヘリから、鮮やかにその姿を現すつもりだった闇野イルカ。
そんな彼を襲ったのは、マジカルハプニング。
原因は、ジェマイマおばさんが呼び寄せた、激しい嵐だった。
1億2000万円。
購入したばかりの可愛い単発タービンヘリは、突如発生した乱気流を制することができず、海の底にセイグッバイ。
だがしかし、そこはさすがのゴージャス&タフネス。
見ての通り、彼は無事でございます。
「……なんか、変だな?」
威厳のあるラスボスの姿を眺めながら、ミツルはぽつりと呟いた。
それはイルカが、ものすごい速さで泳いで、陸に近づいていることではない。
問題は、彼のシルエットがいつまでたっても、こんもりと、丸い形を保っていたことにあった。
「あれ!? あの髪型って!!」
シンボルマークのドルフィンオールバックが、見るも愉快なサタデーナイトフィーバーに。
アフロでございます。
爆発墜落といえば、それはもう。
ミツルはお約束に笑うことはなく、イルカの身がちょっと心配になったという。
「お久しぶりだね、ミツルくん」
速い。もう目の前にまで来ている。
イルカは、アメリカンな柄のビキニパンツの中から櫛を取り出し、サッとアフロの形を整えた。
感覚がマヒしているミツルは、臆することなく、しかし遠慮がちに言葉を返す。
「その……大丈夫、っすか?」
ペシペシ、チュッ。
隙だらけのミツルは、妖しい笑みを浮かべたイルカに櫛で頬を軽くたたかれ、キスまで決められてしまう。
「快調さ! だがキミは、自分のことを心配したまえ!」
大胆不敵、やはり強敵。
ミツルは穢された頬を片手で拭い取り、軸足を大きく下げて身構える。
「それそれ。その顔だよ。何度見ても、飛鳥御光を思い出す……」
イルカは遠い目をさせながら、ミツルの顔を見下ろした。
今明かされる、彼の悲しき過去――。
は、特にない。
実家が金持ちなので、何の不自由もなく、結構楽しく過ごしていた。
ただ、好きな幼馴染の女の子を、同じ幼馴染である男の子に取られちゃっただけ。
ショックもショックだったが、それも過去の話。
今、目の前にはミツルがいる。
あとはもう、何もいらなかった。
「……それでは、最終決戦といこうじゃないか、ミツルくん」
いざ、ラストバトル。
後は頼んだ、真菜ミツル。
「そのアフロ、ちぎってやるわ!!」
「入ってくると思ったよ!!」
まずはあいさつ代わり。
先陣を切ってボケてきたウカウカ先輩に、渾身のツッコミを入れる。
イルカはふっと笑うと、仲間たちのいる戦場跡へと視線を投げた。
「アキコ、アキコォ!!」
――トゥンクトゥンク。
覚醒したのは、ピンクジャージのアキコ。
意識を取り戻した彼女は、立ち上がるやいなや、眼鏡クイッ。
瞬く暇もなく、主人の元に駆けつける。
「お呼びでしょうか、イルカ様?」
「アレを出してくれ」
悪の親玉は忠実なる腹心に手のひらを向ける。
アキコはジャージの懐に手を忍ばせると、隙なくその物体を取り出して、主人へと手渡した。
「それって……」
見覚えのある形に、ミツルは思わず声を出していた。
「さよう。これこそが、まさに最終決戦の要」
ゲームパッド。
イルカの手には、家庭用ゲーム機でお馴染みの、あのコントローラーが握られていた。
「もちろん、キミの分もある」
アキコから、2コンが突き出される。
それを受け取ったミツルは、ひとまずのところ、スティックをグリグリと回してみたりした。
間違いなく、ゲーム用のコントローラーだった。
「カモン!! スーパーロボッツ!!」
スタートボタン、ポチッ。
次の瞬間――。
東よりいずるは、豊かな黒の機体。全身が、直線的な多面体装甲で構成されたそのマシンは、背中に携えた鋭利な翼で風を切る。装甲が噛み合ったラインは細くシャープな黄金色で染められ、夕日を反射させながら猛烈な速度で海面を裂き、こちらに近づいてくる。その機体の名は、ブラックドルフィン。またの名を、戦場を支配する『黒き雷神』。
全長18mの巨大ロボットが、爆風を上げながら急停止し、ミツルたちの前に着地する。
「か……かっけぇ!!」
世代じゃないけど、ワクワクしちゃう。
子供のように目を輝かせたミツルの口から出たのは、称賛の言葉一色だった。
「そうだろう、そうだろう!? さあ、ミツルくんも呼びたまえ!!」
「呼びます、呼びます!!」
どんなロボが来てくれるのか。
興奮を抑えきれず、ミツルはコントローラーのスタートボタンを押し込む。
直後――。
漆黒の爪が空間を裂く。西よりいでしは、メタリックピンク。
「え?」
その口元には、上品で輝きのあるチェリーピンクをヌリヌリ。
「うーん……」
華奢でスマートなフォルムを保つその背中には、リボンを模した、可愛くて実用的なカッターウイングを採用。
「あぁ、そういうことね。はいはいはい……」
狙った獲物は逃さない。その手には大鎌が握られている。
「俺じゃなくて、ノンちゃんが好きなやつだ、これ」
足元は、光の角度で色調を変える、マジョーラ系のパールホワイトであしらってみました。
「ほら、ギャル受け狙ってるやつだ」
その機体の名はノンノン。またの名を、ミツルを支配する『多摩の大食いギャル』。
「うるせぇ!! 人よりも、ちょっと多く食べるだけだよ!!」
愛する婚約者を侮辱された気がしたミツルは、空に向かって大声で叫んだ。
そうこうしているうちに、あら不思議。
どこをどうやって進んできたのか、全長15メートルのノンノンが、ミツルの傍にシュタッと降り立った。
「なんか……落ち着くなぁ……」
皮肉なことに、近くで見てみると魂レベルで、ミツルの中の何かが呼応していたという。
「さあ、乗りたまえ」
「どうして!?」
ミツルは、手元にあるコントローラーをむなしく握りしめた。
「細かい説明をしている暇はない。隕石が落下してくるまで、あと五分だ」
「隕石!? どういうこと!?」
そのとき、肩を軽くトントン、とされる。
何事かと思って振り返ると、ウカウカ先輩が空の彼方を指差していた。
見れば、鬼ヶ島のはるか上空より、宇宙の闇を切り裂くように、燃え盛る巨大な火の玉がこちらを目がけて、まっすぐに落ちてきている。
「マジかよ!? 何やってんだ、NASAは!!」
「さあ、最終ステージを始めよう!! 最後の対決は『芳賀の平和は世界の平和!! 愛する者を守り抜け!! ドキドキ♡隕石落下阻止チャレンジ!!』だ!!」
ビックリマークが多すぎる。
頭の中も、対決名も。
ブラックドルフィンによじ登り、搭乗を完了させるイルカ。
そして、意志とか関係なくノンノンに吸い込まれたミツル。
「レディ? ゴオォォォ!!」
「どうやって操作すんのか、さっぱりだけど……行こう、ノンちゃん。これ終われば、車買えるから」
発進音を置き去りにするスピードで、大空へ飛び立った2体のロボット。
果たして彼らは、地球を救えるのだろうか――。




