第98食 ティーパーティー終了!! 行くぜ、鬼ヶ島!!
ミルク薫るクロテッドクリームと、甘酸っぱいストロベリージャム。
カロリー終了。
しかし、それらがたっぷりとサンドされたスコーンの味わいは、背徳感も相まってまさに極上のものだった。
ちょっと口の中がモソモソしてきたかな。
と思ったタイミングで、ほんのりと湯気立ったミルクティーが横から差し出される。
なんだなんだと視線を運ぶと、そこにいたのは、ティーポットを片手にした魔女のジェマイマ。
先ほどまで見せていたハードな一面はすっかり消え去り、今は英国淑女らしく、微笑みながら立っている。
水分不足で喉を詰まらせそうになっていたミツルは、遠慮なくカップを口元に運んだ。
濃厚リッチなミルクティーで、背徳のスコーンを流し込む。
直後、押し寄せてきたのは、深く心地よい余韻の時間だった。
「ちょっとこれは……なかなか、悪くない。というか、おいしいです」
本場、イギリス式のティータイム。
その素晴らしさを、生まれて初めて知ったミツルは小さく首を振って、イングランドの魔女・ジェマイマのグレーがかった瞳を見据えた。
「Quite so.」
彼女の口から飛び出したのは、母国語だった。
当然、ミツルにはその意味が、さっぱりわからなかった。
彼女は口元をわずかに綻ばせて、嬉しそうに紅茶を注ぎ足してきた。
どうやら、悪い気分ではないらしい。
体をぴったりとくっつけて、お代わりを注いでくるのは、おばさん特有の距離感なのか。
どことなく、親戚が集まったときの空気を感じ取りながら、ミツルは彼女にお礼を述べる。
「ありがとうございます。お優しいんですね……」
さて、困った。
この不気味で不思議な、見かけによらず面倒見のいい魔女おばさんをどう呼んだらいいのだろう。
ジェントルメンな国からやってきたということで、そのイメージから『レディ』と呼ぶべきか。
いや、相手は相応に場数を踏んできたであろう英国淑女。
その呼び方は、少々不敬かもしれない。
そう考えたミツルに、残された候補は一つしかなかった。
「……マダム?」
恐る恐るそう呼ぶと、ジェマイマは意外そうに眉を跳ね上げて、それから満足げに目を細めた。
「そんな気取らずに『おばさん』と呼んどくれ」
今度は日本語。
ちゃんと喋ってくれたおばさんは、ミツルの髪についていた砂を手で優しく取り払うと、潮風を纏うように自分の席へとついた。
さきほどの地獄のようなビーチフラッグ対決から一転。
優雅でありながら、どこかほっこりとする、もぐもぐタイム。
カロリーの大量摂取によって、すっかり疲労が回復したミツルは、テーブルを囲むメンバーの顔を一人ずつ順番に流し見る。
――分析開始。
【エントリーNo1:フランス帰りのセニョリータ、キャプテン・シルバ】
対決内容はバトルボウリング。
身長190cm、体重112kg。銀髪の丸坊主おじさん。体つきが屈強すぎて、視界に入るたびに格ゲーのキャラなのかな、って思っちゃう。格ゲーなんて、やったことないけど。なぜか、フランス語しか喋らないから、何言ってるのかほとんどわからない。たまに、パッションでわかるけど。それにしても、なんでついてきちゃったんだろう、このおじさん。怖いです。
【エントリーNo2:マルタ島が生んだ白の孤独、ビアンカ・ヘルゲアローン】
対決内容は早押しクイズ。
人造人間18号さん。この人は、コスプレを嗜んでいらっしゃる方なのかしら。とにかく、気が強そうな見た目の人ですよ。しかも、全然喋らないときたもんだ。その特性から、早押しクイズには、まったく向いてなかったんじゃないのかなぁ? 明らかな人選ミスだと思います。まあ、今さらだけど。あと、なんであなたのときのもぐもぐタイムは、ブタメンだったの? 怖いです。
【エントリーNo3:イングランドのガチ魔女、ウィッチ・ザ・ジェマイマ】
対決内容はビーチフラッグ。
最初は不気味な人だなと思ってたけど、戦いが終われば、めちゃくちゃいい人だった。見た目は、痩せたクレアおばさんです。魔女でおばさんのくせに、やたらと足が速い、っていうね。実は俺、100m13秒台で走れるんだけど、そんな俺のすぐ後ろについてきてたからね、この人。その身体能力で迫ってくるかと思いきや、レース中にエッチな幻覚を見せてきたり、体をビリビリにしびれさせてくる謎の魔法を使ってきました。怖いです。
【撮影者:鵜飼卯花】
だから結局、この人が一番怖い存在になってくるよね。マッチョが来ようが、人造人間が来ようが、魔女だろうが、カメラを回し続けてポーカーフェイスを崩さないんだもの。たぶん、人間やめちゃってるんだと思う。配信になると、話が全然かみ合わないし。まだ敵の人たちの方が人間味があるというか、交流のしがいがありますね。
普段は、いい先輩なんですよ? 今回の合宿の、行きの途中で立ち寄ったコンビニで、カレーパンを買ってくれたりとか。配信というのは人前に顔を出す仕事だから、スキンケアをもっとした方がいい、みたいな小言も言ってきたりして。それについては、してないんだけどね。めんどくさいから。
それから、夏なのにおでん食べたりするね、この人は。変わってるの。根っこから。黙っていれば美人、なんて言葉よく聞くけど、この人の場合は、なんだろうね。なにもしなければ美人、といったところでございましょうか。大変怖いです。
――分析終了。
かくして、演者は出揃った。
闇野イルカとの最終決戦が迫る。
最後のステージは、沖に浮かぶ鬼ヶ島。
海からやってきたのは、小気味よくエンジン音を響かせる一隻の船。
その船は、ポンポンと煙を上げながらミツルたちのいる浜辺にまで接近してくると、浅瀬でゆっくりと動きを止めた。
しばらくして、デッキから顔を覗かせたのは二人の男だった。
どちらの顔にも見覚えがあったミツルは、驚きの声を上げる。
「あ、あんたたちは!?」
「最終ステージ進出、おめでとうミツル」
「乗ってくれ。島までは、俺たちが送っていく」
お久しぶりです、クワガタよしのり&カブトムシみつお。
どしどし船に乗り込んでいく、寄せ集めのメンバーたち。
その後ろ姿を眺めたあと、主役のミツルも船へと乗り込んだ。
――行くぜ、変態鬼退治。
敵も味方も頭のおかしい連中で固められたミツルは、腹を決めて大海原の先にある島を眺めた。
汽笛が鳴らされ、船が動き出し、また汽笛が鳴らされる。
意味不明な汽笛の連打に、ミツルは人知れず、テンションを上げていたという。




