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第3話 魔王の王権

 「な、なんだよあれ!?」


 「魔獣よ!」

 

 少女は腰に携えていた剣を引き抜き、俺の前に立った。

 魔獣は低く唸りながら、こちらを鋭い眼光で睨みつけている。

 身体中から変な汗が噴き出し、心臓の鼓動もだんだんと早くなっていくのを感じる。

 

 「あなた、戦える?」


 少女はそう聞いてくる。


 「いや、無理です!」


 「即答ね......!」


 こちとらただの高校生なのだから仕方ない。


 「だって、戦ったことなんてないから――」


 しょうがないだろと言い切る前に


 「なら、私の後ろから離れないで!」


 そう言うと、少女は魔獣に向かって駆け出した。

 距離を詰め、剣を振るう。

 金属音が森に響いた。


 「グォォォォォォ!!!!」


 魔獣は大きく後退したものの、すぐに体勢を立て直す。


 「硬い......!」


 少女は小さく呟いた。

 魔獣の体には、傷らしい傷がほとんどついていない。

 それどころか、先ほどよりも興奮して勢いを増して少女へと襲い掛かる。


 「危ない!」


 とっさに叫ぶ。

 彼女は魔獣の攻撃を間一髪でかわしたが、魔獣の凶悪な爪は彼女の鎧を貫通し左腕をかすめた。


 「くっ......!」


 少女は距離を取り、再び武器を構える。

 俺は何もできず、その場に立ち尽くしていた。

 逃げて助けを呼ぶべきだろうか。

 それとも、ここに残り彼女と共に戦うべきだろうか。

 しかし、戦うといっても、俺には何もできない。

 そもそも、自分と変わらないくらいの歳の少女が化け物とやりあっているのがおかしいのだ。


 「そこのあなた!ぼーっとしてないでさっさと逃げなさい!」


 「え...」


 少女の声で我に返る。


 「でも、君は!?」


 「私は大丈夫だから!」


 「いいから早く!」 


 そう言われても、彼女を置いて逃げることなんてできなかった。

 その間にも、魔獣は何度も少女へ襲いかかる。

 少女は攻撃を避け続けながら、反撃を繰り返していた。

 しかし、徐々に傷を負い動きに無駄が増えている。

 明らかに押されていた。


 「......何か、できることは」


 そのとき、俺の足元に転がっていた石ころが目に入った。

 ......いや、さすがにこれでどうにかなるとは思えない。

 それでも、何もしないよりはましだ。

 そう思った俺は石ころを投げ、さらに魔獣の注意を引こうと声を張り上げた。


 「こっちだ熊野郎!!!」


 魔獣の視線がこちらへ向く。


 「ちょっと、何を――!?」


 少女の声が響く

 自分でも分かっている。

 こんな石ころでは何もできないと。

 だが、魔獣の意識は確かにこちらへ向いた。

 あとは、注意を引きながら逃げるだけ――

 魔獣は雄叫びを上げこちらを向く


 そして――


 地面を蹴り、猛スピードで俺に向かって突進してきた。


 「あ...」


 速い。


 逃げる暇も、避ける余裕もない。


 死んだ、そう思った。


 その瞬間、少女が俺の前へと飛び込んできた。


 「危ない!」


 鈍い音とともに俺と少女は吹き飛ばされる。

 ドンッという衝撃とともに大木にぶつかる。


 「......っ」


 「おい!大丈夫――」


 か...


 そう声をかけようとした時、俺は気付く。

 彼女から広がる血の海。

 彼女を抱く俺の手には、温かい血がついていた。


 「なん...で...」


 そう絶望する俺に対して


 「――にげ...て...」


 彼女はかすれた声で呟く。


 ゆっくりと魔獣の唸り声と足音が近づいてくる。


 だが、俺の視線は彼女から離れなかった。


 ついさっき会ったばかりの相手だ。

 名前すら知らない。

 それどころか俺に疑いの目を向けていた


 なのに...


 それなのに...


 ――それなのに、彼女は俺を助けてくれた。

 何もできない俺の目の前で傷つきながら...

 最後には、俺をかばって...

 

 「......嫌だ」

 

 何かが胸の奥で強く脈打った。

 

 「こんなの、認められるかよ......!」

 

 こんな結末を、到底受け入れられるはずがなかった。

 

 彼女が傷つきながらも俺を助けてくれたという事実を。


 目の前で失われようとしている命を。

 

 こんな結末が、運命だというのなら――


 「俺が絶対に変えてやる...!」


 ――その瞬間、世界が歪んだ。


 彼女を抱きしめていた俺の手から、何かが広がっていく。


 そして――



 世界の時間が、逆向きに動き始めた。

 

 

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