第1話 異世界ってまじ?
「......ここは?」
目を開けると、そこには黒い空間が広がっていた。
地面も壁も見当たらず上下感覚もわからなくなってくるような不思議な空間だ。
そんなことよりも、俺を抱きしめていたはずの姉さんの姿はどこにもない。
「姉さーん!」
叫んでみる。しかし応答はない。
...ここは死後の世界というやつなのだろうか?
事実、俺と姉さんは暴走トラックに轢かれて死ぬはずの運命だったのだ。
そう考えにふけっていると、ふいに肩をポンッとたたかれた。
覚悟を決めふり返るとそこには美しい女がいた。
きれいで長い白髪をなびかせ、その髪と同じくらいに透き通った肌に、美しい宝石のような深紅の瞳の美女が立っていた。
「お目覚めかな?」
女は艶のある声でそう聞いてきた。
「......誰ですか?」
と反射で聞いてしまった。
女は少し悩んでこう言った。
「うーん。そうだね。今の君にとっては、ただの他人かな?」
女はクスッと微笑む。
良かった。とりあえず、この謎の空間の主っぽい美女に敵意は無さそうだ。
ある程度情報が欲しいな...
そう思い、
「ここはどこなんですか?」
と尋ねると女は少し迷った風にしながら微笑み語る。
「んーわかりやすく言うと、ここは君たちで言うところの」
「〈異世界〉とでも言えばわかりやすいかな」
「......は?」
予想外の発言に思考がまとまらない。
たしかにこの空間は現実とはかけ離れたような未知の空間だと思う。
異世界...
「もしかしなくても俺を助けてくれたのはあなた何ですか?」
そう尋ねる。
「正解。もっとも、ギリギリだったから少しばかり強引な方法だったけどね」
やはりか。
トラックがぶつかる直前の黒い亀裂の中にいたのはこの女だったのだ。
とはいえ、やはり死を回避できたことに対してお礼を言わなければ。
「助けてくださりありがとうございます。」
「いいよ。そんなにかしこまらなくて」
「まあ、敬われるのは悪い気しないけどね。くるしゅうないぞ~」
とニヤニヤしながら言う。
俺が少しムッとすると
「まあ、冗談だよお互いフレンドリーに行こうじゃないか」
と女は語る。
あと少し興奮している気がする。
この空間には今のところ俺とこの女しかいない。
もしも、ここが本当に異世界だとしたら姉さんは?
俺は焦りを隠しながら、
「すみません、俺と一緒に姉さんが居たと思うんですけど、どこに行ったか知りません?」
勇気を振り絞りそう尋ねる。
すると白い女はため息交じりに、
「お姉さんのことを心配するのはわかるけど、まずはお互い自己紹介とかしないのかい?」
と言ってくる。
ごもっともである。
「俺の名前は水瀬楓。下でも上でもどっちでも好きに呼んでくれていいぞ」
そう比較的元気に、友好的に自己紹介をした。
「ふーん...」
少し間をおき、
「よろしく、ミ・ナ・セくん」
と少しからかうように俺の名前を呼んだ。
ちょっとお姉さん感出してる気がする。
「で、あなたは?」
俺がそう尋ねる。
すると白い美女は、少し考えるようなそぶりをしてきれいな口をゆがませながらこう言った。
「ボクは、魔女、終焉の魔女」
「あ、もしくは〈エル〉でもいいよ♪」
と、少しあざとく語る。
「終焉の魔女...」
もし仮にここが異世界だとして『終焉の魔女』だなんてやばい名前明らかに敵、なんなら悪の親玉、ボス的な立ち位置のやばい人なんじゃ...と考える。
けれど、まずは姉さんだ。
そう考え、もう一度話そうとそう思ったとき、
「やはり早めに伝えるべきかな...」
少し悲しげな表情をしたエルが残念そうにこう告げた。
「すまない、君のお姉さんは救うことができなかった」
――と。
「は?いや?なん...で」
「転移のための魔力が足りなかったんだ」
「本当にすまない」
薄々想像はしていたのだ、この空間が死後の世界ではないと知って、ここにいない時点で姉さんは...
なんで俺なんだと声が出そうになるがかろうじで心のうちに留めることができた。
俺はしばらく黙り込んだ。
どれくらい時間がたっただろうか。
多少の心の整理がついたようなついていないような状態の俺にエルが話し出す。
「少しいいかい?」
と前置きを言ってから口を開く。
「もし仮に、君のお姉さんを生き返らせる、もしくは救うことができる方法があると言ったらどうする?」
「本当か!?」
と俺はとっさに飛び起き正面から彼女の肩をつかむ。
「ちょっと近いよ...」
と少し顔を赤らめながら顔をそらす。
しかし、気にしていられない。
「エル」
「聞きたいかい?」
「ああ」
彼女は、少しだけ目を細めた。
そして、真剣な表情でこう言った。
「君に、魔王になってほしいんだ」
「......魔王?」
つい聞き返してしまった。
俺は世界を滅ぼす系の存在なのか...
姉を救うのに関係あるのだろうか?
と考えてしまったが、今は忘れる。
これが最後の希望なのだ。
「君はすでに選ばれている。魔王となるための資格、傲慢の魔王因子にね」
聞き捨てならないことを言っていた。
「あ、世界を滅ぼす悪い魔女の手下、なんて思わなくてもいいよ。」
違ったらしい。
「ボクは君にお願いしたいことがいくつかあるんだ」
「お願い?」
「多くは制約により語れないがいくつかヒントを与えよう」
「まずこの世界は、十の国で分かれている。君にはそれらをすべて巡ってほしい」
「君には仲間が必要だ、多くを成し遂げるためにね」
「あとは必ず運命が...嫌でも君を導く」
「あと最後に...」
「待て、待ってくれ」
と話を締めくくろうとしているエルを止める。
情報が多すぎる。聞きたいことも山ほどできた。
しかし、止まらない。
そして、空間がゆがみ始める。
「すまない異世界にゲートをつなげたことでもう魔力が残り僅かなんだ」
「君にこれを預けよう」
そう言って、エルは金に青色の宝石の装飾のペンダントを投げる。
「それを持っていれば直接対面で話すことは無理でも魔力を使った念話くらいはできるはずさ」
空間がひび割れる
エルが力強い声でこう言った。
「最後に、決して神を信じるな」
「それは...どういう――」
俺が聞き返すよりも早く、エルは俺の背中を軽く押した。
「それじゃあ、行ってらっしゃい」
「ちょっ、待て!まだ聞きたいことが――!」
足元が消える。
楓の身体は、暗闇へと落ちていった。
最後に聞こえたのは、エルの――少女の小さな呟きだった。
「......今度こそ、あなたが――」




