第0話 高校終わりに姉と買い物
どこにでもいる男子高校生、この俺、水瀬楓はその日、人生には転機というものが本当にあるのだとと身をもって体験した。
学校終わりの夕方、スマホを確認すると三件の通知が目に入った。
母:『今日の晩御飯はお鍋にしたいんだけど~、私もお父さんも帰りが少し遅くなっちゃうから食材の買い出しお願いね~( *´艸`)』
姉様:『わかった。かえでと一緒に行くから』
クソガキ(弟):『おれはともだちとあそんでるからあにきとねえちゃんにまかせた』
......
「俺の意見は聞かねぇのかよ...」
俺は長男であるが姉の一個下のため両親も姉も扱いが雑なのだ。
なんてひどい。
校門前に差し掛かると制服姿の黒髪ロングの似合う女性が立っていた。
目を合わせないように通り過ぎようとすると首の襟をグイっと引っ張られて目が合う。
「ちょっと待ちなさい!」
「あんた、今このお姉ちゃんを無視して通り過ぎようとしたわね」
前言撤回、黒ゴリラである。
「ごめんごめん気付かなかっただけだよー姉さん」
俺はしらばっくれた。
彼女は表向き優等生の水瀬絵梨、俺の二個上の姉である。
成績優秀、運動抜群、おまけに家族思いで人望が厚く、顔もいいと評判だ。
まさに才色兼備を体現している存在と思われている。
しかし、俺はこの怪物の裏側を知っている。
家では服は脱ぎっぱでそのまま、だらだらテレビやスマホをいじり、暇になったとたんに俺や弟をいじり倒し、けんかになるとマウントして首を絞めてくる様はまさしく悪女である。
「メッセージは見たわね!買い出しに行くわよ!」
「姉さん一人で行きなよ、俺は疲れてるんだよー」
「わ・た・し・もあんたと同じよ」
姉さんの圧が上がった。
これはまずい。
「ゴメンハズカシカッタンダヨー」
まずい、棒読みすぎたか?
「もう、しょうがない弟ねぇ!」
「私は恥ずかしくないからあんたも堂々としてなさい!」
バシバシと背中をたたかれる、超痛い。
一通り買い出しが終わり家への帰路へ着く。
日が沈み暗くなってきたところだ。
無言で姉と二人で歩いているとなんだかムズムズする気がする。
ここで、会話がないのは気まずい気がするので話題を提供しよう。
「姉さんは進学したら家出るの?」
「何よ、このお姉ちゃんが家に居るのはそんなに嫌なの?」
うん。めっちゃ嫌。
たまにならまだしも毎日はちょっと疲れる。
「いや、姉さんほどの成績なら結構いい大学行けるんだろうなーって」
「私ならT大学も行けるって教師から言われたわ」
嘘。そんなに頭良かったの?うちの姉。
「へ、へぇそうなんだ」
やばい動揺して声が上ずっちゃった。
「私はあんたたちバカな弟二人残していくのが心配よ」
「一言余計だよ」
弟よりは多分俺のほうが頭いいはず。多分。
「俺たちなら大丈夫だから姉さんは安心していってきなよ」
「なんだか素直に受け取りづらいわね」
なぜバレた。
何気ない会話で時間をつぶしてた甲斐あって家まであと数十分のところまで来たところで、何やら後方から大きく叫ぶ人々の声が聞こえてくる。
振り向き、それを認識したときにはもう遅かった。
後方から大型の無人トラックがものすごいスピードで走ってくるのがわかる。
避けようにも俺も姉さんも気付くのが遅かった。
いや姉さんだけなら逃げれたのかもしれない。
けれど姉さんは俺を抱きしめ守ろうとする。
やめてくれ、意味はないのに...
このスピードでトラックがぶつかったら全身バラバラか良くて全身バキバキのどちらかだろう。
どっちにしろ俺と姉さんは死ぬのだ。
ゆっくりと時間が進むような感覚に俺はなんだか妙な気持ちを感じていた。
恐怖よりも安心、姉さんがいるからだろうか。
ゆっくりとトラックが近づき、意識もちょっとずつ薄くなっていく気がする。
「これが死か...」
そう思っていた時、ピタリとトラックが目の前に停止した。
いや、雲も風も人も何もかも、そして俺自身も瞬きどころか全身の毛穴を針で固定されたようにピクリとも動かない。
まるで、時間が止まったみたいだった。
すると目の前に黒い亀裂、空間のようなものが広がり中から白髪の美しい女が手を伸ばし、こう言った。
「見つけた」




