第五話 虹彩爆翔
東京湾上空。一機のヘリが飛行している。
「ハッチを開けてください」
湊のその声と共に、ヘリのハッチは開く。
「……思ってたより随分とデカいな」
「ね」
大型の怪物とは聞いていた二人だが、正直言ってこの大きさなら超大型と言った方がしっくりくる。
深海魚のような見慣れない姿に、数十メートルはありそうな巨躯。おまけに電気を纏っているように見える。
「凛飛べる?」
「飛べない」
「なら俺一人で行ってくる」
「無理しないでね」
「しない」
湊はハッチから飛び降りたが、すぐに浮遊し始める。
「虹彩爆翔……」
湊の周りに白を基調とした眩い虹色の光が漂い始める。そして湊の目の色は、黒から虹色に変わり、湊は手のひらを怪物に向けて広げる。すると手のひらの真ん中に光が集まり始め、それは次第に光の塊となった。
「白虹」
白虹は、湊の手のひらから勢いよく打ち出され、怪物の頭部の大部分を抉る。そして怪物はそのまま硬直した。幸い、津波が発生することはなさそうだ。
そして湊が再びハッチからヘリに乗り込むと、ハッチは閉じた。
「湊、目が……」
凛が目を丸くして言う。湊の目はまだ虹色のままだった。
「……あぁ。問題ない。すぐに元に戻るよ」
「そう、なんだ……?」
そしてヘリは都心に向かい動き始める。
◇◆◇◆◇
「もしかして、あれですか?」
「はい。あれが飛行型です」
都心上空。二人の目前に現れたのは、予想していた鳥や翼竜のような姿の怪物ではなかった。
まるで何かの結晶のような、複雑な左右対称の形をした、無機質とも思える怪物。
「……怪物探知機が反応したなら怪物だよ」
「そうだよな?」
凛と湊は動揺した。確かにあの姿なら人を襲うことはないと判断するだろう。
ヘリのハッチが開く。
「凛。一回狙撃してみよう」
「そうだね……炎操氣奏・発火」
凛の炎は細長い矢のような形になり、発射された。
「「ドォォオオォォン」」
怪物は、轟音と共に煙に撒かれる。
「……あらま」
「……‼︎」
だが、怪物は全く傷ついていなかった。
「俺もやってみるよ」
「うん」
湊は手のひら怪物に向ける。
「虹彩爆翔・白虹」
先ほど大型怪物を一撃で抉った白虹は、飛行型怪物に亀裂を入れることしか出来なかった。
だが──
「治ったな」
「ね」
その亀裂はすぐに治癒されてしまった。
「今手出しすることはできないよあれは」
「なんで……?」
「あれ蛹」
「蛹?」
「多分あれ後で中から本体出てくるやつ」
「そうなの?」
「……多分」
「多分?」
「多分」
「なんで多分?」
「多分そうだから」
「……」
湊の多分という確証のない予想に、凛は少しジト目をしてため息を吐く。
その時──。
「!?」
「なに!?」
二人は殺気を感じ取った。そして怪物を見ると、次々に亀裂が入り始めている。
「羽化してるな。めでたしめでたし」
「全然めでたしじゃないでしょ!?」
「なんでやねん」
「ふざけてる場合じゃないの!」
二人が漫才をしているうちに、怪物は羽化した。まるでペガサスを彷彿とさせるような、翼の生えた獣の姿。
「ちょっとだけ強そ〜う」
湊は呑気に、怪物に指を刺し凛に言う。
「かなり強そうの間違い」
「じゃあ飛べない凛は下に降りててね」
「……わかった」
凛はそのままハッチから飛び降りた。
「じゃあ、ヘリはもう支部に帰っていいですよ」
そう告げると湊は飛び立つ。
「飼い慣らしてあげる」
湊は自信満々に言う。
すると怪物は雄叫びを上げながら湊に突進したが、次の瞬間、湊は怪物の首を掴んでいた。
「遅い」
そして湊は怪物の首を握る手に力を込め──。
「「バギィッ……」」
鈍い音が鳴った。
湊はそのまま手を離し離れる。怪物は大きく叫んだ。
「……」
湊は弱った怪物を真下に蹴り飛ばし、インカムに話しかける。
『凛』
「うん」
地上のとあるビルの屋上で構える凛。
上を見上げ、落下してくる怪物を見つけると、両手を大きく広げる。
「炎操氣奏・発火」
そう唱えると、凛の見上げる先に向かって大きな火球が発射される。
怪物と火球が衝突する。火球は怪物を飲み込むと一気に小さく収縮し、怪物を圧迫しながら燃焼し、一気に跡形もなく焼いた。
「……絶対あれ痛いやつだ」
その光景を上空から見ていた湊は、怪物が燃焼されたのを確認すると地上へ降り立つ。
「凛、お疲れ〜」
「落とすなんて聞いてない」
「落としたんじゃなくて落ちたんだよ」
「同じ」
「違う」
「は?」
「あ?やんのか?」
「さっきの絶対痛いやつ食らわせてあげようか?」
「ごめんなさい」
二人は軽く睨み合った。
◆◇◆◇◆
支部で慎に報告した後、寮に帰還した二人は、夕方以降の空き時間をどう使うか、一階の広間で話し合っていた。
「夜ご飯だな」
「夜ご飯だね」
ものの数秒で話し合いは終わった。
「どこ行く?」
「お昼はラーメンだったから、あっさりしたものがいいかな」
「俺もあっさりしたのがいいなぁ」
「あっさりしたもの……」
「あっさり……」
二人は、何を食べるかを全く考えていなかった。
(まぁあっさりってんで行くなら……やばいサラダくらいしか思いつかん)
(湊も食べれるあっさりしたもの……?湊、野菜とか食べなそうだし……定食とか、海鮮とか?)
二人は思考した。
「「お寿司とかどう? あっ……」」
見事ハモった二人、そして、それに対する反応までハモった二人。
「はぁ、ハモるとか最ッ悪」
「えそんな!?」
凛の隠す気のない本音に少しだけ傷ついた湊だった。
そして二人は寿司屋へ行き、食事を済ませたのだった。




