第三話 凛々しい炎
「炎操氣奏・発火!」
凛の炎は、あっという間に怪物を包み込んだ。体育館の温度は跳ね上がり、床板が燃える。そして怪物を大きな炎の渦が包んだ。
だが、怪物の皮膚には火傷一つできていなかった。
凛は目を狭める。
「凛、もう少し燃やしてみて」
「? ……わかった」
湊は、炎の中の怪物を凝視した。
(こいつ自体、火に強いわけじゃないのか……?)
湊は、怪物の四肢の末端を見た。大きな爪の付け根、皮膚と皮膚の境目が、少しだけ燃えているように見える。
「凛、俺があいつに穴開けるから、そこを狙い撃ちできる?」
「……やってみる」
「わかった……!」
凛は炎を鎮め、手元で小さな火の玉を練り始めた。
湊は、体育館を駆け、怪物に一撃ずつ、確実に攻撃する。そして、怪物の皮膚に大きな亀裂を入れた。
「凛ッ‼︎」
凛は、湊の掛け声と共に、練り上げた炎をその亀裂に撃ち込んだ。
怪物の動きが静止する。すると体がボコボコと膨張し始めた。
「湊」
「凛!これは……」
「爆ぜるよ」
「……は?」
その瞬間、怪物は肉体ごと爆発した。いや、破裂した。
凛は遮蔽物を利用し、その血肉を避けたが、湊は反応しきれず真っ向から浴びてしまった。
その後、湊は学校の水道で怪物の血肉を洗い流した。
「ああいうことは先に言えよ。ベタベタして落ちないんだから」
「……聞かれなかったもん」
「そういうことじゃないでしょうよ」
「……テヘペロ」
凛は、明らかに感情のこもっていない表情のまま両手を頬に当て、あざといポーズをとった。
「いやそれで良いよとはならんよ?せめて感情込めよ?」
湊はジト目でツッコミを入れた。
◇◆◇◆◇
二人は任務後、乗ってきたヘリに乗り、再びDB支部に帰還する。ヘリポートにヘリが停まると、そこには慎が待ち構えていた。
「二人とも。無事で何より」
「俺は怪物の血肉まみれになりましたけどね」
「それは……お疲れ様でした。凛さん。湊くんはどうでしたか?」
「特に問題はないかと」
凛は淡々と告げた。恐らく湊は「お手並み拝見」されていたのだろう。
「そうですか……なるほど。了解しました」
慎がバインダーに挟まった紙に何かを書き込みながら言う。
(身体、かなり鈍ってたんだけど……)
「まぁ、問題ないでしょう。凛さん、湊くんを寮に案内してください」
「荷物は?」
「すでに部屋に運んでありますよ」
慎が自慢げに答える。
「……行くよ。湊」
凛がそう言うと、慎は任せたと言わんばかりにヘリの操縦士と話し始めてしまった。
DB支部を出て十分ほど歩いたところ。とても大きなまるでリゾートホテルのような建物が現れる。
「寮ってこれ?いやまさかね」
「これだけど」
「えマジ?」
湊は驚愕した。あまりに大きな寮だ。確かに男女混合で、国連の機関なのだからこれだけの資金はあって当然なのかもしれない。
寮の敷地の入り口には洒落た文字で「日本デーモンズバスター・東京第一寮」と書かれていた。
「東京第一ってことは、他にも寮はあるのか?」
「うん。ここ含めて東京に二か所と、大阪、北海道、沖縄にあるよ」
「へぇ、意外とたくさんあるんだな」
湊は、戦力不足だと慎から聞いていたのもあり、この寮が五か所もあるとは思っていなかった。
寮の建物内に入ると、共用スペースだろうか、ソファーやテレビの置いてある大きな広間があった。そして凛はカウンターに向かう。
「……ホテルかよ」
「ここは日本支部と繋がってて、直接通信できるんだよ。寮だけでもDBはそのまま機能できるの」
「えぇすご」
凛は受付と話し込んでいる。
(……まだかな)
(寮も最上階まで吹き抜けなんだ)
湊は上を見上げて言う。
(それに、他の人も、みんな自分のバディとしか関わってないみたい……)
周りにたくさんいるDBの隊員。だが、誰一人として皆と関わっているわけではなく、二人組、または三人組でしか固まっていなかった。総則的に、バディ以外と関わる必要はないのだから、おかしくはない。
「湊、終わった」
「うん」
「行くよ」
凛はそのまま歩き出す。湊もそれに続く。エレベーターに乗り、凛は九階のボタンを押す。
「凛。DBの建物って全部最上階まで吹き抜けなの?」
「……言われてみればそうかも?」
「なんでだろ」
「ね。なんでだろ」
「今度、慎さんに聞いてみよ」
「そうしよ」
そんなことを話していると、エレベーターは九階に止まり、ドアが開く。そして向かって左の通路へ向かう。九階といえど、なかなかの高さ。吹き抜けから一回の広間が見える。
「湊の部屋ここだよ」
凛はそう言って、一室のドアを開く。そして二人で中に入ると――
「いや広っ」
「みんなこんなだよ。荷物はこれね。あと基本は、任務のある日は朝の七時には起きること」
「……あの〜。俺、朝すっごい弱くて、多分七時とか起きれないんだけど……」
「……」
凛は湊に軽蔑の目を向ける。決して冗談ではなく、凛は湊に呆れている。
「そんな目で見ないで?なんか傷つく」
「……私が起こせばいいの?」
「そうしてくれたら、か〜なりありがたい」
「はぁ……わかった」
「ありがとう凛」
湊は凛に手を合わせる。
「あ、そうだ。凛、明日高校に行かなきゃ行けないんだけど、起こしてくれない?」
「明日土曜日だけど」
「DBに所属するから、学校に退学届出しに行くの」
「そういうことね。わかった。じゃ、おやすみ」
「はーいおやすみ」
凛は、そのまま湊の部屋を出た。すると、湊は自分の荷物を広げて、整理し始める。
「てか、なんで荷物ここにあるんだろう」
湊は一人暮らしである。親とは随分と前に疎遠になり、今はアルバイトで稼ぎ生活してきた。
「でも荷物は全部あるし……明日大家さんに言いにいかなきゃなぁ」
湊は荷物を全て整理すると、着替えを持ち風呂場へ向かう。そしてシャワーを浴び、湯船に浸かる。
「あぁ……疲れたぁ……」
その後、風呂から上がり、服を着る。そして夕食代わりにゼリーを少し食べてから布団に入った。
湊の長い一日は、やっと終わりを告げた。




