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第二話 霧島湊

 六年前――。


「やってくれました霧島湊!!」


 その歓声とともに巨大な怪物の死体の上に立つ一人の少年。当時十一歳、小学生だった湊だ。怪物の血で塗れた姿のまま、無表情で周囲を見渡す姿はまさに異様。


「……」


 次々と現れる大量の怪物を相手に、怖気付くこともなく立ち向かう。「バチバチッ」という音とともに湊の掌から、白を基調とした虹色の、魔法の礫(つぶて)のようなものが生み出される。

 湊はそれを怪物の方に向けて飛ばした。それは凄まじい速度で、怪物複数体の肉体を、まとめて大きく抉った。

 湊は数えきれないほどの量の怪物を殺し、いつの間にか、誰も湊を『子供』として扱わなくなっていた。


「すごいじゃない湊!」

「あぁ、今回も素晴らしい戦いだったぞ!」


 両親はそう褒め称えた。

 湊は、このために戦っていたのだ。褒められたくて、自分を認めて欲しくて。だが、それはすぐに限界を迎えた。


「もう、怪物なんて殺したくない……」


 小学生だった湊に、怪物であろうと、「生物を殺す」というのは、重たすぎた。

 

 それから湊は、表舞台から姿を消した。怪物とは無縁の日々を送るようになった。


◇◆◇◆◇


 デーモンズバスター日本支部。

 東京都にある、地上三十一階、地下四階建の、デーモンズバスターの本部だ。

 国内トップレベルの戦力が集まる場所で、警察などと連携し、怪物対策を担っている。


「湊くん。私についてきてください」

「はい」


 湊は慎の後に続く。

 デーモンズバスター日本支部の大きな自動ドアを潜ると、大きなエントランスホールに出た。天井は上の階まで吹き抜けていて、開放感がすごい。

 二人は、受付カウンターの前を通り過ぎ、警備員に会釈をして、内部区画へ入っていく。


 そのままエレベーターに乗り込み、二十三階へ向かった。


「湊くん」

「はい」

「湊くんには、まずデーモンズバスターの総則を知ってもらう必要があります」

「総則?」


 二十三階でエレベーターのドアが開き、二人は歩き出した。


「基本的なルール、と思ってください」

「……」

「基本、二人以上で組んだ、バディで行動すること、要は単独行動禁止ということです」

「はい」

「あとは男女混合寮制です」

「はい?」

「? 男女混合寮制です。……緊急招集や、深夜対応に迅速に対応できるように、男女別にしてないんですよ」

「そういうことですか」


 慎の後を歩いて、フロアの最奥にある部屋に入った。

 全体的にものが少なく、広々とした薄暗い部屋。中央には大きなウォルナット素材のローテーブルに、来客用ソファが二脚。さらに奥にはシック調の大きなプレジデントデスクと、チェアが置かれていた。

 慎は、部屋の明かりをつけ、来客用ソファを手で示した。


「座ってください」

「はい」


 湊はソファに腰掛けた。慎も、反対側のソファに腰掛ける。


「突然ですが湊くん。さっき私が言った、デーモンズバスターの総則、覚えてるかな?」

「……二人以上でバディを組んで、単独行動は禁止。あとは、男女混合寮制」


 慎はフッと笑ってから言った


「なので、湊くんには総則通り、バディを組んでもらいます。入って来ていいですよ」


 慎の呼びかけの後、部屋のドアがゆっくりと開いて、一人の少女が部屋に入ってきた。

 物静かそうな少女。黒く長い姫カットの髪、色白の肌。まるで日本人形のようだ。


「失礼します」


 彼女は小さくそう言うと、後ろで手を組み、ピタリと直立した。


「この子は鹿嶋凛(かしま りん)。湊くんとバディを組んでもらう子です」


 慎は凛の方に顔を向けた。


「鹿嶋凛です。よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしく」


 湊は、凛と目を合わせた。


「まぁ、気楽にしてください。これから二人で行動することが増えるでしょうし」

「はい」


 凛は淡々と応える。


「では早速ですが、二人には親睦会の意味も込めて、これから怪物を一体討伐してきてもらいます。凛さんは先に準備を」

「はい。失礼します」


 凛はそのまま扉の外へ。そして慎はそれを見届けた後、続けて言った。


「では湊くん。任務の前に、君に渡すものがあります」


 慎は、一つの黒塗りのスーツケースを机の上に置いた。そしてそれを開けると、中には黒い服と、インカムが入っていた。

 そして湊は、慎に言われるがままスーツケースの中身を身につけた。

 身体に完璧にフィットした黒のインナーの上に、オーバサイズのフード付きジャケット。ぱっと見は漆黒のインナーに漆黒のアウター。だがよく見てみると、ところどころに違う素材で細いラインが走っていた。


「それがデーモンズバスターで使用されるバトルスーツです。怪物の皮膚構造を応用していて、ある程度の熱や冷気なら耐えられるんです」

「すご」

「よく似合ってますよ」

「ありがとうございます」

「では最後にこれを」


 慎は、湊にインカムを手渡した。そしてそれを左耳に装着すると、電源がついた。


「インカムでは、怪物に遭遇した時、オペレーターや隊員同時の通信、情報伝達を行います。任務中は基本外さないように」

「わかりました」

「では外に行きましょうか。凛さんが待ってます」


 慎はそう言うとゆっくりと歩き出した。湊もさらに続く。

 部屋から出てエレベーターに乗り込む。慎が押したのは、屋上へ向かうボタンだった。

 急な気圧の変化で、耳が詰まるような感覚。

 ものの数秒で屋上に辿り着くと、そこには、黒いボディのヘリと、湊と同じ制服を纏った凛の姿。


「二人とも、今回の任務について説明します」


 湊と凛は、慎の方に体を向けた。


「今回は、東京都内の小学校の敷地内に発生した怪物の、駆除です。そこまで危険度は高くないので、大丈夫だとは思いますが、油断は禁物ですよ」

 

「「了解」」


 湊と凛は声を揃えて返事をすると、ヘリに乗り込んだ。

 ヘリのプロペラが回転し、高度が上昇し始める。湊は何気に初ヘリコプター。少しドキドキしている。

 十分も経たないうちに、二人を乗せたヘリは現場上空に到着する。するとヘリ後部にあるハッチが開いた。


「行くよ」

「……飛び降りるの?」

「そうだよ」


 凛は慣れた様子で一足早くハッチから落下を開始した。


「マジかよ」


 湊は軽くツッコミをいれつつ、一足遅く飛び降りた。


 凛は学校のグラウンドに着地して、素早く周囲を見渡した。怪物が近くにいないことを確認すると、軽く深呼吸して力を抜く。

 その隣にコンマ数秒遅れて湊が着地した。

 落下中、遠巻きに校舎内にいる怪物を確認した湊は、それを凛にすぐさま共有した。


「怪物は校舎内(なか)だ」

「……そうだね」


 二人は、静かに校舎に侵入し、怪物を探した。

 湊が落下中に見た怪物は、一階を歩いていたが、二人が訪れた時にはその姿はなくなっていた。

 床には爪の擦れた後のようなものが、向こうに繋がっていて、二人はそれを辿り始める。


「……」


 その爪痕を追うと、体育館に辿り着いた。


「……体育館?」

「奇襲に注意して」

「わかってるよ」


 二人が体育館入り口の引き戸を遮蔽物として中を覗くと、そこには、一人の子供を鷲掴みにしている、大きな手と鋭い爪を持つ怪物の姿。

 子供は、頭部のみが欠損していて、あたりには血が大量に飛び散っている。

 凛はインカムに手を当て喋り始めた。


「エンカウンター。怪物一体を目視で確認。討伐します」


 凛の言葉と同時に、湊たちの着ているバトルスーツにパライバトルマリンのような色で、ぼんやりと発光するラインが浮かび出た。


「炎操氣奏(えんそうぎそう)・発火(ファイア)!」


 凛は、流れるような火炎を纏う。その黒髪は靡き、その顔が顕になっている。先ほどまでの物静かな面影は一切なく、その表情は静かな殺意(ナイフ)を握りしめていた。

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