第一話 孤独少年
都内某所の高校。ここに通う一人の生徒。
名前は霧島湊。彼は誰とも関わることなく、その正体を隠し一人孤独に生きていた。
「霧島湊くんで合ってるかな?」
「……誰ですか」
「あはは。そんな警戒しなくても、怪しい者じゃないよ」
湊はある日の下校中、スーツに身を包んだ金髪の男性に話しかけられた。
その肉体は妙にがっしりしていて、一般人でないことを物語っている。
「……急いでるので、さようなら」
湊は何か嫌な予感がして、そのまま立ち去ろうとした。
するとその男はある言葉を口にした。
「怪物殺しの鬼才・霧島湊」
「!! なんでそれを……」
怪物殺しの鬼才――それは湊のかつての異名。
湊は生まれ持った能力があった。それは湊を天才へと導いた能力――虹彩爆翔
その力を使い、機関をも手こずるような怪物を、殺して、殺して、殺しまくった。
湊は怪物を殺しすぎた、そして孤独だった。
周囲からの期待と圧に押し負け、心の吐き出し口もなく、その怪物狩りの界隈から姿を消した。
このことを知る人間はもういないと思っていた。
「当たりか。私の名前は天樹慎。デーモンズバスター日本支部所属の怪物狩りです」
「怪物狩り……」
「霧島湊くん。デーモンズバスターに入る気はないかい?」
「ないです」
湊に迷いはなかった。もう同じ間違いは繰り返さない、そう決心していた。
「デーモンズバスターには、君の協力が必要だ」
「なんで」
「日頃から戦力不足は当たり前。そして怪物は年々増加傾向にある。いずれ、デーモンズバスターの手に負えなくなる」
「……」
慎の言い分はわかる。だが、湊の気持ちは変わらない。
「今は少しでも戦力が欲しい」
「はい」
「もう一度聞く。霧島湊くん、デーモンズバスターに所属し――」
その時、近くから爆発音のようなものが聞こえた。人の悲鳴も聞こえる。そして何より、明らかに人間のものではない叫び声。
慎は話を切り上げて走り出してしまった。
湊は帰ろうと思った。その慎の後ろ姿を見て、過去の自分と重ねてしまった。湊は迷った。気づいた頃には慎の後を追っていた。ただ、興味が湧いただけ。
前を走る慎は、凄まじいスピードで走っている。開けた場所に出ると、そこには慎と三メートルはありそうな巨躯に翼のような外骨格を持つ怪物の姿。鉄同士を擦った金属音のような、鳥肌の立つ不快な雄叫びを上げている。なにより不気味なのは、怪物の周りの空間だけが歪んでいること。
慎は動じることなく、左耳についているインカムに手を当てた。
「エンカウンター。討伐を開始する」
その眼差しは非常に冷たく、まさに狩る側の目だった。
「……!」
湊は久方ぶりに、強さというものを感じた。
慎は深く姿勢を落とし、実態のない、光でできたような一振りの剣に手を置く。
「剣覇稀技・居合!!」
慎の抜刀は、音すらも追いつかぬほど速く、確実に怪物を仕留めた。そして、ゆっくりと、ゆっくりと湊のほうへ振り向く。
「怪物殺しの鬼才、霧島湊。私と、私たちと……また、怪物を殺さないか?」
慎は優しげな笑みを浮かべているが、目だけが笑っていない。返り血を浴びたその姿は、その言葉は、なぜか湊に興味と好奇心を与えた。
なぜか、断りたくない、そう感じた。
「……わかった」
どうせ断っても、孤独で快楽のない日々。ならば、湊にとって選ぶべきは一つ。
「殺すよ。また、あの頃みたいに」
昔のように、怪物を殺すことしか求められない人間になるのか。少しだけ、ほんの少し。戻りたくない気持ちもある。
湊の瞳に宿っていたのは、ただ怪物を殺したいという一心のみ。
「戻ってやるよ」




