盗掘者
地下神殿ミーミルの階段を一階分ほど降りると、開けた場所にでた。
エレベータが用意されていて、ここからさら下るようだ。
ボタンを押すと、エレベータがやってくる。
どうやら石像を動かすことで、地下施設用の電源が作動したようだ。
エレベータで降下すること、数分。
地下6階と書かれたランプが点滅し、僕らミーミル探索チーム一同は外へと出た。
エレベータのドアが開くと同時に、パッと周囲に照明がつく。
地下ダンジョン、古代遺跡、ときいて、僕が予想していたのは岩肌も剥き出しな荒々しい洞窟だったのだが、僕が目にしたのは、古代遺跡というより研究施設めいた雰囲気のフロアだった。
正面には、ラグナロクが安置されていたであろう、古めかしい台座があり、その周囲にあらゆる機器が接続されている。
───興ざめだな……、僕は思った。
気分は遺跡探検の冒険者だったというのに。
道中、盗掘者を排除する危険なトラップもないし、それどころか、遺跡を守る警備機械兵のようなものも存在しないとは拍子ぬけだ。
「どうやら、ラグナロクの研究というのは、近代的なものだったようね」
モクレンも僕と同じ感想だったらしい。
彼女はエンライを従えて、周囲を見回している。
「まあ、魔王兵器の術式を解析するには、それ専用の設備も必要だからね、構造解析から物質解析まで、それにミーミル自体の古代言語解読もやらなきゃだし」
ミーミルに組み込まれたアルスノヴァの封印機構は、この遺跡全体に仕組まれたもののはずだ。
人の手がずいぶん入ったようだが、封印のシステムは生きている。
ラグナロクを固定していたと思われる中央の台座。
あれが古くから残る地下ダンジョンの一部だろう。
フロア内の近代的な作りのところは、あとから研究用に増設したもの。
始祖の魔導士・アルスノヴァ、現代でも並ぶもののない大魔法使い。彼は魔王の主人であり、創造主であり、それで、最悪の追放者。
───追放者アルスノヴァ。堕ちた魔導士。
人間界からの離反者だ。
そんな彼の残した地下遺跡がこんなに近代的なのは予想外だが、それも、考えてみると当然だ。
ラグナロク研究はイスランデ国内で何年にも渡って研究されていて、王妃カーリーンをはじめとした考古学遺物研究チームによってすでに大部分の研究が終わっているものだ。
手つかずどころか、人の手が入りまくっている遺跡───地下の洞窟なんか、使い勝手が悪すぎるし、研究を本格化するにあたって、近代的に整備をしたのだろう。
僕は、フロア中央に進む。
おそらく中央管理魔導演算機があるはずだ。
マクダレン教授が言うには、考古学遺物研究チームの研究資料は全てそのミーミルのメイン・システムの中にあるという。
僕はフロア中央、台座の近くにある、巨大な魔導演算機を起動した。
エレベーターの到着とともに、地下研究施設には電源が通る仕組みらしく、魔道演算機は簡単に起動した。
僕はトランクケースから自分の魔導演算端末WANDを出した。メイン・システムにつなげる。
管理者パスワードを求められたが、これも簡単。
マクダレン教授の教えてくれた教授用の研究員のパスコードを入力する。突破。
中央管理魔道演算機・ミーミルのデータベースにアクセス開始。
僕はパソコンの画面を眺めた。
必要なデータは、一つだけ。
アルスノヴァの残した再封印の呪文───封印術式だ。
古代言語であるそれを、カーリーンは現代魔導術式に置き換えた。
古代言語学者らしい功績だ。
これをカーリーン・プログラムという。
今から、ラグナロクの能力を外から封印するための術式を作る時間はない。なので、このカーリーン・プログラムを僕のWANDに取り込んで、地上のラグナロクの元に接近し、そこで僕のWANDを経由して、封印機構を発動してしまおうという計画だ。
時間があったら、メインシステム内の研究資料を全部、WANDに入れてしまいたいのだが、そこまでの時間はない。
エリックくんは、この研究施設について詳細なことは知らなかったが、魔導士というものは研究対象があったら、放置しておくことなんてできないものだ。
これは研究者としてのサガ、魔導士の本能のようなもの。
どんなに危険なものでも、誰も触れないように秘密にしておくなんてことはできないだろう。
僕らは探究せずにいられない。
だから、絶対に、研究資料があると思っていたが、やっぱりビンゴだ。
カーリーン・プログラムを探す間に、僕はちょっとレイヴンの様子を見ることにした。
僕の蟲をたくさん乗っけたレイヴンの携帯。
あれには僕の蟲───魔導通信ウイルスがたくさん忍び込んでいて、いつでもどこでも周辺機器でさえ、少し無理すれば汚染できるという汚染源である。
蟲は増える習性がある、増殖するプログラムだ。
いつもは玩具の人形の形に固着化して、活動を物理的に止めている。
レイヴンは知らないのだが、レイヴンが歩き回れば周辺に魔導通信ウイルスが散っているのだ。
怖い。スーパーキャリアーだ。
僕はレイヴン周辺を蟲で探査した。
すると、彼はすごいスピードで移動中だ。
通信をつなげる。僕は自分の携帯を取り出した。音声通話ボタンを押す。
「そっちの状況は?」
レイヴンの声が返ってくる。
『追われてる。小型戦闘機械兵、ブリッツ計6台、訓練された集団だ。俺をどこかに誘導している』
「ふむ、出張ってきたな、王の盾だ」
バルムンド王が出陣する、ということは彼の護衛、もしくは戦闘のバックアップに出るのは陸軍特殊部隊、ブリッツ精鋭“王の盾”。
王に刃を向けたのだから、当然だ。
大体、武闘会本戦を、バルムンド王がサポートありの集団戦にしたのは、自分が最も有利な条件だからだ。
軍隊と、魔王兵器ラグナロクで、悠々と本戦参加者たちを狩り立てるという算段。
さすが王様だ。自分の持っている権力をフル活用している。
「豪快かつ、計算高い。しかし、武闘会のルールは守る、か」
『ルールを守ってるのか、これは? 軍隊なんて使うのズルいだろ!』
「ズルくないさ。王の盾はバルムンド王の持ちものだ。当然、投入してくるに決まってる。むしろ、遅すぎたくらいだね」
携帯の向こうから、ミサイルの着弾する音や機械音、破砕音。
むこうは戦場になっているようだ。
『それで、どうする、こいつらを各個撃破していくか? 包囲されつつある。無理にでも包囲を抜けた方がいいか』
「現場判断は君にまかせる。戦闘は得意じゃない。だが勝利条件を確認しよう。勝利条件は、バルムンド王に勝つことだ」
『そのバルムンドがどこにいるかっていうのが問題だ』
「君の携帯に感染してるウイルス、蟲で通信回線に割り込んでみるが、今回は軍用回線を狙ってなかったから、精度は期待できないな。潜りこめるかもランダムだ。狙った機体には無理だが、小型戦闘機械兵の何台かの動きはこちらでも追えると思うから、やってみるよ」
『俺の携帯のウイルスってなんだ』
「いや、こっちの話」
『待て、何か大事なことを言おうとしていただろ』
「いやいやいや、君の携帯がウイルスまみれだなんてそんなこと言えるわけないだろ!」
言った。
僕は一度携帯をつなげたまま、WANDから蟲に指示を出す。
レイヴンの携帯内で増殖した蟲たちが外の軍用回線へ向けて羽ばたいていくようだ。新たなキャリアーを探しに旅立つ翅蟲たち。ちなみに外に向かって飛び立つ手前の蟲をニンフ(幼虫)と呼ぶ。ニンフから急速成長した翅蟲たちは新たなキャリアーの元へと飛び立ち、新天地が決まれば、そこに生息し、増殖する仕様だ。
これをすると、レイヴン周囲の探知が難しくなるんだが、ブリッツの大まかな動きや、誘導する方向がわかればめっけものだ。
やって損はない。
こうやって旅立った蟲たちのいくつかは死滅し、いくつかは繁栄し、僕の知らないところで新たな魔導ウイルスに進化しているかもしれない。
魔導とは混沌を術というルールにおさめたものである。
物理法則を改竄する法則。法則でない偽りの法則。世界をひっくり返す混沌の術。
生物でないものに生物であるという縛りを与えることで、できる行動は本来想定された電子戦のウイルスよりも性能があがる。
なぜかというと生物には生きたいという本能があるからだ。
だから、これ、僕もどうやって駆除すればいいのかわからない。
そのうち電力が尽きたら死ぬはずだが、寄生した端末から電力をちょっとずつ食って生きながらえる仕様だ。
こっちで一斉帰還命令を出したら、変異していないものは指示通り帰ってくるはずだが、変異したものはわからない。
本当に巣立っていくのかも。
恐ろしいことに、製作者である僕にも、その可能性は否定できないのだ。
僕が考えていると、巣立った蟲たちからの現在地点の報告が来た。
レイヴンはあいかわらず西方向へ、幾度か順路を迂回したようだが、向かう先は開けた交差点だ。
道路と道路が行き交う場所。ビル街の切れ間にあたる。
ここでなら大立ち回りができるだろう。
上空から見やすく、どこからでも射線の通る場所。
───よくないな。
誘導されている。
と、そこで、WANDの画面に別の通知がやってくる。
こっちはミーミル内から該当術式をサーチし終わったという通達だ。
僕はそちらをWANDに転送を始めた。
カーリーン・プログラムはアルスノヴァの封印術式を現代風にアレンジしたもの。
それでも30年は前の言語だ。おまけに容量がかなりあるな、これ。
僕は蟲の指揮と、プログラムの解析を同時並行的に始めた。
ああ、もう、急がしい!
*
───盗掘者どもめ。
軍用通信端末を経由して、バルムンドはミーミル内部の、とある古代機械に指示を出した。
地下遺跡を守るため、あらかじめ地下遺跡の機構に組み込まれた古代兵器。
彼は遺跡の番人であり、秘密を暴こうとする盗掘者たちを物言わぬ屍へと変えることだろう。
───老騎兵人形・ヘイムダル。
元は、アルスノヴァが設定した遺跡の守護兵士───古代魔導人形である。
武闘会の裏で暗躍する何者か。
これほどの魔導師であるならば、あの地下神殿を探り当てるだろうと思っていた。
ヘイムダルは当初、遺跡に侵入したものを自動で襲撃するプログラムだったものを、ミーミルの改修に伴い、こちらからの指示を受け付けるようにカーリーンがプログラムに手を加えたものである。
古代魔導言語学に精通する彼女は、ヘイムダルを廃棄するのではなく、新たな番人として役割を与えることにしたのだ。
バルムンドは地下遺跡の番人に、指令を与えた。
───侵入者の排除。
それと、もう一つ。
ラグナロクの封印術式の収められた、遺跡の中央管理魔導演算機の破壊である。
遺跡を破壊してしまえば、ラグナロクを止めることのできるものは存在しない。
バルムンドはヘリから眼下に街を見下ろした。
───あの聖域を汚すもの、断じて許さぬ。
王家の遺跡を荒らす盗掘者にたいして、イスランデの歴代の王たちは過酷な罰をもって遇した。
だが、それも、昔のことだ。
盗掘者といえば、思い出す。
カーリーンよ。
そなたはあの頃、一介の盗掘者で、儂は王子であった。
あのころのイスランデは国交の開かれぬ国。
鬼人どもの使い走りの国でしかない。
西央から派遣された考古学遺物探査の研究者とはいえ、そなたらへの風当たりはきつかったであろう。
そう、王家の地下坑道に忍び込むそなたらを儂はよく思ってはいなかった。
西央魔導教国───脆弱な人類の魔導士どもが治める国にして、魔王の権威を借り、意のままにふる舞う魔導士どもを内心、馬鹿にしていたくらいだ。
西欧の魔導士め、力もないくせにと侮る儂を、そなたは身を挺して、あのヘイムダルの手から守ったのであった。
それがそなたとの出会い。
危険な古代兵器は秘密にし、今まで通り隠しておくべきだ。
そう主張する儂に、そなたは決して首を縦に振ることはなかった。
人間のくせに頑固な女よと、最後には儂の方が音を上げるのが常であったな。
あれはいつの日だったか。
そなたは頭の固いドワーフの男を、懇々と諭したのであった。
「そうね、バルムンド、あなたのいうとおりかもね。ラグナロクの力は、守るべきよね。誰にも隠して、秘密にするべき。でも、私は魔導士よ。そこに、大きな歴史の秘密があるのに、見て見ぬふりなんてできないわ。それにね……こうも考えるの。この力は、もっと世界をよくするために使えないのかしらって」
目を瞑れば、そなたの顔ばかり思い出す。
柔らかな栗色の髪、聡明で、茶目っ気に満ちた榛色の瞳。エリックによく似た、線の細いほっそりした面立ち。
そなたはこうも言った。
「私、こう思うのよ。世界をもっといい場所にできないかしらって。大きな力というのは使い道次第よ。危険だからといって隠していても、知らなければ、対処もできない。だから、私たち魔導士は研究するの。あなたがいったように、私は無力。でも、一つずつ、できることを積み重ねていきたいと思ってる。私が死んだ後も、私の積み重ねた知識は、誰かに託すことができるって信じてるから」
意志の強い瞳だ。そなたは意外にも気が強い。
こうと決めたら、岩のように、それこそドワーフのように頑として動かないのだ。
「考古学チームのみんな、レオ、レベッカ、ロビン、ナサニエルに、トミー。それにあなた。私たちの研究は、きっと誰かの役に立つ。私はそう、信じてるの」
ヘリの音がつかの間の追憶から引き戻す。
運転手が合図する。
「ふむ、追憶にひたりすぎたか……」
戦闘に挑もうというのに、これでは腑抜けだ。
まったく……。
西央の魔導士というのは、それも盗掘者というのは、懐かしいものだ。
しかし殺す。
「儂は今日、証明するぞ。ラグナロクこそは、儂にふさわしい剣であると」
そなたの望み通りではないかもしれぬが。
ラグナロクの鞘を抜き放つ。
ヘリの開いたドアのそばに立ち、眼下を見下ろす。
剣を構える。狙うは、ななめ下。
ビル街の中央部。我が、“王の盾”により、狩り立てられた鼠の直上。
「ラグナロク、完全開放!」
禍々しい輝きの剣を、振り払う。
*
アルビレオが俺の携帯にウイルスを、それもどうやらヤバげなものを大量に仕込んでいることが発覚したが、携帯の武闘会用アプリを見るに、敵側の通信は順調に汚染されていっているようだ。
携帯のマップに、新たな光の点が映し出される。これは位置から見ても、数から言っても、小型戦闘機械兵ブリッツのようだ。
これによると、俺は、遠くから包囲されているだけでなく、観測されている。
嫌な動きだ。
先ほどから、包囲網を突破しようと、攻撃を仕掛けてはいるのだが、向こうからは決して仕掛けてこない。
機動力を生かして、戦線から離脱し、他の機械兵がすぐさまサポートに入る。
殺せたのは4、5台のみ。
こちらの力場の範囲も、そろそろネタが割れてきたようだ。
俺の戦闘領域に入らず、遠くから機銃による射撃とミサイルで、こちらを包囲している。連携が取れている。
『イスランデ王が接近中だ』
アルビレオの通信が割り込む。
「それで肝心のイスランデ王はどこなんだ、見当たらないぞ」
『いない……? そんなはずは……しまった、上だ!』
上空!
赤黒いビームが迫ってくる。回避、間に合わない。
とっさに剣を掲げる。
天魔無明───全てを照らし出す物理法則すら超えて、自由であることだ。
時を切れるならビームも切れる。なんとか弾いた。
ビームを!
刀の柄を握る手に、すごい質量を感じる。
無の質量ってこういうものなのか。
「もう一回使っちまった」
デュランダルの白銀の輝きに変化はないが、多少ヒビがいったようだ。
アルビレオが言うには、完全開放とやらを数回は耐えられる想定だが、今のをもう一度耐えられるだろうか。
危うい。
俺は上空を見た。
バルムンドを乗せたヘリコプターが上空を旋回しつつ飛行。
───あそこから撃ってくるとは。
ビーム───事象崩壊砲が上空からこちらに何度も打ちつけられる。
それにしても異様な精度の良さだ。
ヘリという不安定な足場から幾度も撃っているにしては、ピッタリとこちらの位置を捕捉している。
俺の位置を、周りの機械兵パイロットたちが観測し、上空のヘリに乗っているバルムンドに射角を伝えているようだ。
ビームの当たったアスファルトが、街路樹が、街角のビルが、えぐれるように消滅していく。
さながら消滅砲の雨のようだ。
大破壊の中を俺は走り抜けた。
止まっていれば当たる。
『ヘリから打ってきてる。向こうは打ちっぱなし、こっちを安全に狙撃、消滅させるつもりだ』
「一国の王がやっていい戦術か?」
俺は、上空のヘリを見た。
さすがに国王。陣頭指揮はお手のものだ。
地面を蹴って、跳躍。
力場で空中に階段を作る。
作った階段を駆け上がりつつ、俺は飛んだ。
人の体から、竜の体へ。
巨大な黒竜の姿へと、変じる。
翼で強く空気を叩く。
まったく、この俺が、上空からの奇襲を受けるとは。
だが。
───空中戦ならば、こちらの方が有利だ。
ヘリから飛んでくる、事象崩壊砲を、高速で上昇しつつ避ける。
俺のはるか後方を、赤黒い波動砲が幾度も打ちつける。直線の射線では、俺を捉えることすらできないだろう。
こっちの方が、圧倒的に速い。
降り注ぐ光線をいなしつつ、迷彩柄のヘリの真上から急接近する。
こうして見下ろすと、バルムンドを乗せたヘリなど玩具のようにしか見えなかった。腕力まかせ、いや、魔力を乗せた力場によってヘリの中心部を押さえつける。プロペラごと後肢で鷲掴み、激しく揺さぶった。
どっちが鼠かというのを、わからせてやっているのだ。
アルビレオが言うには、竜は空の王者。
空は俺の独壇場である。
ヘリの中の人間がシェイクされ切ったところで、俺は悠々と翼を羽ばたかせる。
───さて、どこに運ぶかな。
ヘリを掴んだまま、ロスガル市内を見下ろした。
本来、武闘会とは一体一の決闘の場である。
王の盾の包囲を抜けた先、できれば広い場所がいい。
ついでに、ヘリが落下、炎上してもそれほど被害の大きくない場所。
俺はすぐにうってつけの場所を見つけた。
カラスは目がいいものだ。
ロスガル市内のメインストリートから西へ進む先、マッハ2だと、5分もかからないほどの位置。適度に街中から離れていて、自然が豊か。爆発や、ラグナロクの事象崩壊ビーム砲による被害も少なそうだ。
遠目からだと、木々や、白亜の建物や、庭園が優雅に立ち並ぶ場所。
数日ほど前、ホテルで読んだガイドブックで事前に予習した観光スポットの一つ。
イスランデ王立自然庭園へのフライトを敢行した。
五分後。俺は滑空。ヘリは墜落。地面に落っことしたヘリはエンジンに引火したのか爆発し、沈黙。
死んだか。
ヘリの尾翼もプロペラも窓ガラスもひしゃげてしまって、あちこち損壊している。空を往くものとして、俺はこの勇敢な飛行艇の死を悼んだ。
俺より遅いが、俺より小回りのきく、なかなかタフな機体だった。
黒煙がもうもうと上がり、損傷した機体から、人影が這い出てくる。
───生きていると思ってたぜ。
仕留めきれていないと、確信していた。
そいつだけは、竜に振り回されるヘリの中でも、再生術を使って、なんとか生き延びているだろうと。
その男は、ヘリから数歩離れ、身に纏った鎧の留め具をはずした。
落下の際の衝撃で、鎧の胴体部分が凹み、体に食い込んでいるものらしい。
致命傷だが、この男にとってはそうではない。
邪魔な鉄塊とかした鎧を地に捨て、焼けこげた軍服を脱ぎ捨てる。
「竜か。なるほど、魔族の最強種、相手どって不足はない」
バルムンド王が言った。
俺の方も、人間の姿へと戻った。
地上で相手をするには、竜の姿だといい的だ。
何より、これは大武闘会。剣士としての技量を競う場だ。
バルムンド王がやってくるのを、東魔刀の柄に手をかけて待つ。
「貴様ほどの魔族が、東の鬼どもの飼い犬に甘んじておるとはな。だが、これはむしろ幸いだ。これほど大武闘会の最終戦にふさわしい獲物はおるまい。貴様を倒せば、わしは名実ともに最強の王となる。ドラゴンスレイヤーの名誉すら、手に入れてな!」
バルムンドがラグナロクを構える。
なるほど、ドラゴンスレイヤーか。
たしかに、俺を殺したものは竜殺しだ。
竜殺しとは、人間にとっては、最強にふさわしい勇者の証と言われていることは知っている。
昔ながらの武勇伝の象徴的存在。
英雄譚の最終的な悪役。
だが、まさかそのスレイヤーされる対象が自分だとは。
びっくりした。一度も考えたことがなかった。
俺は視線を泳がせた。
───こんな時、何を言うべきなんだ。
東にはおそらく一匹しかいない竜としては、ここは期待に応えたい。
武勇伝の敵役として、物語の悪役として、竜種の威厳というものをバシッと示したいところだ。
最強種っぽい気の利いた一言を言うべきだろう。
俺はかなり悩んだ。
最強悪役っぽいセリフ……最強悪役っぽいセリフ……。
「ええと、なんだ、その……」
思いつかない。
代わりに、俺は不敵に笑みを浮かべることにした。
「御託はいい。かかってこいよ、ドワーフの王」
───これで正解だったようだ。
バルムンドが身体中から覇気を漲らせる。
「小僧が、ほざきおる!」
武闘会の参加者に余分な言葉は必要ない。
───イスランデ大武闘会、決勝。
その決戦の火蓋が今落とされた。
*
WANDで様子を見ていると、野蛮な決戦が開始されていた。
「あっ、始まったようだね。僕らもそろそろ応援に行くとするか」
カーリーン・プログラムの保管も終わった。
そろそろ、レイヴンの援護と最終戦の観戦に駆けつけねば。
僕が椅子から立ち上がると、後ろに控えていたモクレンが僕の襟首を掴んで引っぱった。
「アルビレオ、あたしのうしろへ」
「え、なに」
モクレンが僕を庇うように立つ。
エンライ───雷撃虎が低く唸り声を上げる。
二人の視線の先に、僕も目をやる。
メインシステムより離れた場所、ラグナロクが安置されていた台座の向こう側。
僕はそちらに目を凝らした。
「げっ」
一見して何もない空間。
だが、集中して目を凝らすと、かすかな青白い魔力光が漏れ出しているのが見える。
そう、ホテル・イスランデで僕が転移トラップにひっかかった時のように、不可視の何かが移動している。
ガシャン、ガシャンと音を立てながら、それは、こちらに近づいているようだ。
あきらかにこちらに敵意のあるその音。
視覚では発見できない魔導偽装が施された機体に、エンライが吠え声を上げつつ飛びついた。
赤い毛皮の猛獣と、機械音のするそれが絡み合って、数秒後。
エンライが後方へと弾き飛ばされる。すごいパワーだ。
だが、雷撃虎の一撃を受けた敵も無傷ではなかった。魔導偽装が剥がれたらしい。
それは、鉄色の2メートルほどの魔導人形だ。人型で、足は西央の鎧を着た騎士のようだが、上半身には腕が四本あり、それぞれの手にドリルやチェーンソー、切れ味の鋭そうな刃物がくっついている。
「防衛用のロボットか」
「アンティークね」
型番はわからないが、機体自体は相当古い。まさに博物館でしか拝めない類の骨董品だ。外部に露出した歯車じかけの内部機構がガシャガシャと音を立てる。
───地下ダンジョンの防衛用に組み込まれた番人。
侵入者を排除するためのトラップだ。
こういうものがないとおかしいと、思ってはいたのだ。
あまりにすんなりと事が進みすぎると。
とはいえ、実際に、カマキリのように四本の腕を持ち上げる機械人形を前にすると、さすがに少し動揺するものだ。
「よし、僕らで協力してやっつけよう。ええと、こういう時はだな」
僕はトランクケースを漁った。
魔力なしでも簡単に使える攻撃用簡易火精霊術瓶があったはずだ。これを投げると、相手の足元で割れて、爆発が起きる。
中に閉じ込められた火精霊は、封印容器が割れると同時に解放され、喜んで近くの人間を手当たり次第に燃やしはじめるからだ。
ゴソゴソ、瓶を探していると、モクレンがまたもや僕の襟首を掴んだ。
「いいえ、邪魔よ」
そしてポイ捨て。
僕はエレベーターの方へ尻もちをついた。
「なにをするんだ、モクレン!」
彼女───東魔の赤い改造軍服を纏った少女は、ふり返って僕を見ると、華やかに微笑んだ。
「アルビレオ、先に行きなさい!」
「え、ええ?」
動揺。
凛とした表情で、モクレンは言った。
「ラガ家の鬼は、借りは返すの。この遺跡は起動状態にしておかなくてはならないのでしょう?」
「そうだけど」
「では、そこの人形はあたしが倒します。戦闘に、あなたがいては邪魔よ!」
「いや、だからって、一人じゃ、さすがに無理だよ」
僕も戦闘は得意じゃないが、モクレンだってそんなに得意ではなさそうだ。
彼女の使う呪術は、人を幻惑するものや、結界を構築するもの。
攻撃が主体ではない。
僕の心配をよそに、モクレンはあっけらかんとしたものだ。
「あら、鬼人の血族をなめないでほしいわね。呪師の家柄とはいえ、鬼の本領は本来は、武にあるもの。鍛錬を怠ったおぼえはないわ!」
「そ、そう言われてもだな」
ぜんぜん信用できない。
そう思っているのが顔に出ていたのか、モクレンはため息をついた。
手鏡を取り出し、彼女は、鏡面の中に手を突っ込んだ。
何か隠し球があるようだが……。
僕が見守る中、彼女が取り出したのは、すごいものだった。
戦斧。
一言で言ってしまえば、そんなものだ。
だが、その大きさが桁違いだ。
大きさは、モクレンの身長ほどもあるだろう。
怪物じみた威容を誇る巨大な戦斧。
持ち手も、斧の部分も、鉄でできている。
一体、総重量、いくらあるんだか。
かろうじて、握る柄の部分と、斧の中央の部分に緋色と金色の獅子の装飾が施されていたが、華やかなのはそこだけ。
敵を打ち砕くことだけを目的とした、あまりにも無骨な、無骨すぎるメインウェポン。
モクレンはそれを軽々と取りあげると、僕の手前で振り下ろした。
ドン! と表現するしかない轟音。まるで雷鳴のようだ。
床に亀裂が走り、クレーターができる。
なんだこれ。
言葉を失う僕の前で、モクレンは戦斧をまた軽々と取り上げると、肩に担いだ。
「そういうわけよ、アルビレオ。戦闘にあなたがいては、かえって邪魔。心配ご無用よ! この雷鳴のモクレン! そんなポンコツのお人形ごときに遅れをとりはしない!」
「う、うそだろ……」
鬼って、怪力なものもいるとは聞いてたが、これほどなのか。
雷鳴のモクレン。
知らない二つ名だが、おそらくこの巨大すぎる戦斧を振るうと雷に似た轟音が立つことからついたものだろう。知らなかった。もしも、これをホテルで振り回されていたら、僕は……雷鳴を聞くまでもなく、ミンチになっていただろう。
唖然とする僕を勇気づけるように、雷撃虎が言った。
『安心して先に行け、姐さんには俺もいるんだからな!』
エンライが吠える。
一人と一匹はあまりにも強そうだ。
「そうかな……?」
僕の出る幕は、なさそうだが。
迷っている間に携帯が鳴った。
アラームだ。
レイヴンの方に何か異変があったようだ。
「ごめん、先に行く!」
僕が言うと、モクレンがウィンクした。
「あら、そういう時は、まかせたって言うのよ。あたしも世界監視機構の一員なんでしょ?」
「わかった! ここはまかせた! モクレン!」
僕は言って、エレベーターに向かった。
世界監視機構は非営利かつ秘密裏に、僕のやってる僕のギルドだが、たまにこうして助けてくれる、仲間もできる。
僕はこの場を頼れる彼女にまかせて、先に進むこととした。
もう一人の監視機構員が、僕の到着を待っているのだ。
*
一太刀、一太刀が重い。
黒衣の男───レイヴンの操る白銀の剣。
いかなる魔術の力によるものか、ラグナロクの刀身に帯びた崩壊の力を前に、消滅せずに拮抗していた。
数合、斬り合うが───互角。
いいや、互角ではない。バルムンドは自嘲した。
打ち合うたびに、こちらの肉体に負荷がかかる。
レイヴンの一太刀は、言うならば、竜の膂力だ。
必殺の一撃でなくとも、その爪牙を軽く振り下ろすだけで、こちらにとっては致命傷。
槌を振るって鍛えたドワーフの頑健な肉体であっても、受けるだけで骨が軋む。
ラグナロクを両手で握り、地を踏み締め、耐える。
「グヌゥゥウウッッ!!!」
脳天を割るように振り下ろされた白銀剣。
何らかの魔術を使っているのか、受けたラグナロクの剣が突如として重みを増した。
足元の地面が陥没し、筋繊維がぶちぶちと断裂する。
───まるで重力が、増したかのようだ。
男の操る魔術は───エネルギー事象操作であろうか。
高度な概念事象を意のままに振るう暴虐の竜。
圧死寸前の重さを前に、ちぎれた体の皮膚から血が吹き出る。
メキメキと体が押し潰されかけていく最中、瞬間、意識が朦朧とする。
そなたの夢、理想、美しいものであった。
その美しさに、儂はうつつを忘れた。
夢を見たのだ。
愚かな夢を。
現実を知りもせぬ、愚かな若者だった儂は、理想に邁進した。
今よりも世界は素晴らしい場所になることを願っていた。
そなたとならきっとそれができると。
自惚れていた。
意識が混濁する狭間、瞬間的に、再生術を発動。
砕かれかけた骨とちぎれた筋繊維が再生する。
バルムンドはラグナロクを解放した。
飛び退る黒衣の男を目掛けて、振り払う。
ラグナロク完全開放の事象崩壊波動が、雪崩のように男を襲う。
至近距離から放たれた波動が、男を捕えた。
次の瞬間、白銀の剣の前に、斬り伏せられる。
───あの白銀剣、いかな職人の手になるものか。
魔導加工付与を施された剣に格納された魔術はラグナロクと対極をなす至高のものだが、至高の魔術に耐える入れ物を作った職人の腕もいい。
鍛治とは、王家の始祖ダンク・ガルケル以来、連綿と続くガルケル王家の家業だ。
ガルケル王家は歴史の古い一族。ではあるが、東魔の鬼どもに長らく隷属してきた。祖父の代、さらにその祖父の代から、同じだ。
頑迷な王が続いた。
イスランデの王家は、ラグナロクの秘密を守ってきた。
秘密を守るために、外部からやってきた他者を排斥し、頑なに、変化を拒んだ。
だが、いつしか、魔導を知らぬ、近代的な工業を知らぬ、知らぬが故に大国の言いなりに兵を出すしか脳のない、時代に取り残された国となっていた。
時代の革新を恐れる、伝統に固執する無知蒙昧な王家のあり方を、若き日の儂は疎んだ。ほとんど憎んでいたといって良い。
儂ならば、変えられる。
───人類には、カーリーン、そなたのように信頼すべき人々もいるのだ。
これからは魔導、そして魔導による近代化工業の時代だ。
そのためには古臭い国の制度、風習、すべてを改めねばならぬ。
王位を父より授かった儂は、さっそく改革に乗り出した。
東魔の鬼どもから離れ、そなたの出自である人類領域に与することとした。
新たなドワーフの旅立ちだ。
偉大な父祖ダンクのように。
手始めに儂自ら、魔導を学ぶことにした。
カーリーン、そなたのように素晴らしい魔術師を、自国でも育成できればと、西央からの講師も招くこととした。
西央魔導協会への加盟も決めた。
ゆくゆくは魔導協会のイスランデ支部を設立することも計画のうちだ。
西央魔導教国───人類と魔族の融和を目指す、人類領域の盟主国。
西の魔導士どもは我らに知恵をもたらした。
新たな時代の夢を。
すべてがうまくいくように思えていた。
だが、魔導協会への加盟がもたらしたものは、良いものばかりではなかった。
愚かな若者の見た夢は、あの日、最も手酷い報復の形で帰ってきた。
だからこそ、儂は、儂は、負けるわけにはいかないのだ。
ふらつく足を叱咤し、魔剣ラグナロクの切先を黒髪の男に向け直す。
東魔の戦争管理官。鬼どもの走狗。
生かしておけぬ仇敵。
「東の戦争管理官め、その剣でどれほど人を屠ってきた」
ギルド【魔獣の巣】とは、戦闘にのみ突出した超越者たちの集団。
常に十人の戦争管理官が在籍するが、この男はそれだ。
彼らの役目は戦場で、殺し尽くすこと。
黒衣の男は、のどかに答えた。
「数えきれん」
「怪物め」
「ああ、まあ、そうだな。言われ慣れたが、一つだけ訂正させてもらうぞ」
レイヴンは、その竜は、真剣な顔をした。
「やめたんだ。戦争管理官。転職した。今は、ただのレイヴン。バイトスタッフをやらせてもらってる」
あっけらかんとした言葉だ。
「そんなことが信じられるとでも思っておるのか」
「信じなくとも、事実だ。なんだ、爺さん、東への恨み言でもあるのか」
竜が言う。
口の端に、ふ、と笑みが上る。
「知れたこと。恨みがないわけがない。だがな、小僧、貴様に向ける刃は、憎悪のためではない、王としての決意だ」
「王としての決意?」
レイヴンが首を傾げる。
「王とは強くあらねばならぬ。誰よりも強く、最強でなくてはならぬ。そうでなくては───」
強くあらねば、大切なものを失うこととなるだろう。
何十年も思い出すことのなかった記憶が、蘇る。
魔導協会への加盟を間近に控えたあの日。
エリックの5歳になる日。
王妃を乗せた車は王宮には到着しなかった。
ロスガル中央高速を走っていた車は突如としてエンジンから出火し、爆発。
カーリーンの姿を見たのは、葬儀の前日の夜が最後となった。
葬儀は明朝、執り行われる。粛々と告別の支度を整える侍従たちの制止を振り切って、儂は震える手で棺を開けた。
イスランデの土に眠る前のそなたを見たかった。
いや、違う。
もっと別の手立てがないか、考えていたのだ。
蘇生術はどうだろう、と。そなたが言っていた。
協会の魔導士であれば、死者を呼び戻す術が使える。
急ぎ、協会へとかけあい、どんな手段を使ってでも、そなたを呼び戻そう。
だが、儂は、結局、棺の前に頽れて、慟哭する他なかった。
棺の中には、空白が多かった。
絹の布に包まれた遺体は、あまりにも少ない。
あまりにも。
震える手で、そなただったものをかき抱いた。
この一件は自動車事故という形で公には明かした。
不審な事故だった。
車体のトラブルにしては、異常なほど早く発火し、中にいるものはほぼ消し炭になっていたと。遺体をかき集めても、人一人分に遠く及ばないのだと、後から事故の調査を担当した臣下から報告を受けた。
それは明らかに、警告だった。
事故の現場に残された魔導火炎爆薬は、東の戦線でよく使う手口だ。
もとより、ラグナロクの処遇の件で、東とは揉めていた。
人類への急激な歩みよりを危険ととった、東魔の策謀。
どちらだとしても、問題はそこではない。
問題は儂にあった。王である儂に。
すべて、儂が弱かったから、起こったことだ。
───夢みがちにすぎた。
長らく従属してきた鬼の国に背を向けるには、それ相応の備えがいるというのに、若かりし日の儂は、急速な変化を求めすぎた。
王としてはあさはかだ。
───時間がなかった。
イスランデは改革を始めたばかり。
技術も、人も、軍も、育ってはおらぬ。すべてを変えるには、時間がいるのだ。
改革には時間が必要だった。
儂は理想ばかりを追い求め、現実を見ようとしていなかった。
返す返すも、王として、未熟、短絡的である。
───カーリーンよ。
儂の力が足りぬばかりに。
お前をむざむざと失った。
儂がもっと強ければ。こうはならなかったというのに。
「最強でなくてはならないのだ。大切なものを守るためにはな」
「なるほど、大切なものを守るために、あんたは最強になると」
黒衣の竜が言う。
「あんたが最強に固執する理由はわかった。だが、今のあんたがラグナロクを振るってまで、守りたいものってなんだ? この国か、それともエリックか? それともなんだ、愛した女のためか」
「貴様、何を知っている」
「いや、あんたの事情は何も知らん。だが、男が本気を出すときは、大体、惚れた女のためと相場が決まっている。どうやら図星だったみてえだな」
「……このっ、無礼者めが」
「王の決意だなんだと言ったところで、過去に囚われて、息子の顔もまともに見てないんじゃねぇか? お前の子供がどんなふうに育ったか、ろくすっぽ知らねえくせに王の決意だの最強だの、笑わせるぜ。どんな御託を吹いたところで、王である以前に、父親失格だ」
「貴様、言うにことかいて、貴様がそれを言うのか」
東の鬼の手先であった男は、剣を構えた。
「おう、何度でも言ってやる。てめえにふさわしい呼び名は最強の王なんかじゃねえ!
ダメ親父だ! ドワーフの頑固親父め!」
ラグナロクの柄を握りしめ、レイヴンを迎えうつ。
「力が、最強の王の器が必要なのだ! それを持って儂は、この天地に君臨する。そして、東の鬼どもを討ち取ってみせる、それだけが! この世に覇道を示すことだけが! 儂の」
斬りつけること、数合。
「償いってか? 言いわけばかりだな。後ろめたいやつの目をしている」
ラグナロクの崩壊の剣の隙をつき、レイヴンが身を沈める。
低く構えた姿勢から放たれる斬撃が、地を踏み締めていた片足を薙ぐ。
切断。
片足を失い、体勢が崩れる。
一瞬の間隙で、勝負はほぼ決していた。
地に仰向けに倒れた体を、黒衣の竜が近づいてきて、片足を上げる。
どうやら胸の中央部に嵌め込まれた、魔力の源、契約石を蹴り砕こうとしているらしい。
勝負の決着がつくと思われた。
その刹那。
魔導通信端末から、通信が聞こえてきた。
『陛下……! ご無事ですか!?』
陸軍特殊部隊“王の盾”、隊長機からの通信。ロスガル市内に配置していた機体が、ようやくこの庭園に追いついたのだ。
───レイヴンはまだ、この接近に気づいていない。
バルムンドの視線の先。
小型戦闘機械兵ブリッツ───15台。
そのうちの1台───装甲の肩部にあるマークからして隊長機が───今まさに王を仕留めんとしている凶賊に向かって、スピードを上げた。
突撃。
3メートルほどの騎士の如き鋼鉄の塊が、レイヴンに横合いから襲い掛かり、
───轢いた。
レイヴンを遠ざけるように、隊長機は庭園の噴水近くにある東屋まで引きずっていく。
バルムンドを守るように、他の騎兵たちが隊長機に追随し、王の眼前に円陣を組む。
ラグナロクが王の剣であるならば。
これなるは王の騎兵にして最強の守り。
小型戦闘機械兵ブリッツ、パイロット部隊“王の盾”である。




