地下神殿ミーミル
地下神殿ミーミルとは、古代遺跡である。
始祖の魔導師アルスノヴァによる封印の秘蹟が施された封印機構。
代々、ガルケル王家の守っていた地下ダンジョンの名前だ。
意気揚々とラウンジを出た僕だったが、通りをひとつ超えたバス停の手前で、すっかり立ち往生してしまった。
ロスガル市内の交通網は全部、停止しているようだ。
当たり前だが、武闘会の本戦はほぼ小規模な戦争状態である。
公共交通機関が動いているはずもない。
「歩き、かぁ」
ここから地下神殿ミーミルのある場所までは遠い。
徒歩で45分くらいだ。
「いいえ、危険だわ」
となりのモクレンが首を横に振った。
「なんで?」
「ほら、あれを見て」
指をさす。僕はそちらを見る。
「うわっ」
「ね?」
僕が見たのはショックな光景だ。
巨大なスライムが通りを練り歩き、人を襲っている。スライムとは低級の粘液状の魔物で雑食、知能はクラゲのようなものでほとんどないとされていて、一般的に言って弱い魔物だ。だが、街角に現れたぷよぷよとした粘液のスライムはすでに何人か呑み込んでいるようで、半透明のヘドロのような体の中に人の服の切れっ端や髪の毛、スライムから突き出た手や腕なんかが見える。
大災害だ。
僕は空の黒点を見上げた。太陽とは別の位置にある、光を吸い込む巨大な虚。
境界破綻点。
世界の外側へと向かって開かれた亀裂からは、原初の暗黒と呼ばれる魔力の源が流れ込んでくる。さながら、海水に沈んだ卵の空に穴が空いた時のように。
宇宙の外側から流れ込んだ魔力は、はじめは形や法則を持たない、たんなるエネルギーの塊なのだが、しばらくすると、この世界の法則に縛られることになる。
魔力という混沌の塊は秩序によって形を成す。
これが第三段階。物質化。モンスターの発生だ。
法則に縛られた魔力は、たいていは生物の形をなす。それがこの第一世代モンスターだ。
そういうわけで、街角にはいろんな種類のモンスターが大量発生している。どれだけ、このモンスターが増えるかは、魔力がどれだけ流入するかによって決まる。
多ければ多いほど、強大な魔物が増える。
あのスライムだけでなく、中には相当巨大な魔物もいるようで、街中には人気はない。というか、出歩いた人はみんな餌食になっていると見るべきだな。
───野生の脅威。
街中で感じるべきでない類の恐怖だ。
おそらくこのスライムの討伐と被害者の救助は、ロスガル市内の警備に駆り出されている警察や駆除組織の担当になるはずだ。そうであってくれ。
僕はごくりと生唾を飲み込んだ。
「……徒歩は危険だ」
「あたしがいるのだから、心配は無用。あなたの護衛は確実にこなすわ」
モクレンがキッパリいう。僕は肩を落とした。
「悪い、いつもなら転移で二人分くらい、いけるんだが」
「しかたがないもの。昨日見た、極光魔術、あれを今日使うのでしょう? 魔力は少しでも温存しておくべきよ」
やはり、同じ魔導師である彼女にはお見通しだ。
そう。武闘会の結果はどうあれ、今日はあの黒点を修繕しなくてはならない。
そのために、できるだけ魔力は温存。
そんなわけで、今日の僕の戦闘力は、ほぼゼロだ。防御力はトランクケース分だけあるが、攻撃力はパンチ一発、蚊すら殺せないだろう。
それで僕は昨日のうちにミーミルまでの護衛をモクレンに頼んだのだった。
もちろん! 当然だが! レイヴンにはナイショだ。
やつが聞いたら、全力をあげて阻止するに決まっている。
「それじゃ、悪いけど、道中の護衛を頼むよ」
「まかせて、あたしはライゴウ殿下の護衛でもある。あなたに傷ひとつつけないわ」
「でも、どうやって、行こう? ここから少し距離があるからな」
「こうするのよ。式神の扱いを見せてあげましょう」
言うと、彼女は上着のポケットから手鏡を取り出した。
「【血盟に従い、招来すべし】【雷撃虎】、おいで、エンライ!」
手鏡に呪詩を詠唱し、モクレンが鏡を下に向ける。
僕は鬼人の呪術に詳しくないのだが、たぶん、これは魔物の使役術で、僕と同じ空間構築系術者であるモクレンは手鏡の内側にあらかじめあれこれと忍ばせていると見た。僕のトランクケースと一緒だ。
それで、今のは、使役獣───いわゆる式神、を呼び出す術のはずだ。
鏡からぬるりと影のように、その式神が姿をあらわす。
「うわあ、デッカい虎だ」
僕は、目の前に現れた大きな影に歓声をあげた。
赤と金の混ざった虎だ。見上げるほどの巨大さ、そしてモフモフとした毛並み。四肢は逞しく、いかにも強そうだ。
目の色は金色で、こちらを静かに見下ろしている。
「そちらは、エンライ。アルビレオ殿、どう? これがあたしの式神よ」
『初めましてだな、兄ちゃん!』
「うわしゃべった」
しかもなんかフランクな喋り方だった。
「高位の使役獣は魔物と精霊の中間よ。あたしが長年かけて調整してきた相棒だもの」
「額にめり込んでいるのは?」
僕は聞いた。エンライの頭部、眉間の辺りには深い赤色の宝玉がはまっている。
「血玉よ。これが契約の証」
呪縛法と言っていた契約方式のことだろう。
「ふむ、呪師の扱う契約魔物を見るのは初めてだ」
僕が興味深く見ていると、エンライがモクレンに訊ねた。
『姐さん、こいつを運ぶのかい』
「ええ、二人分頼むわ」
エンライが、体をかがめる。乗れってことだな。
僕は背中に乗ってみた。モフモフだ。僕の後から、モクレンも続く。
彼女は僕の体を固定するように覆い被さると、エンライに合図した。
巨大な虎の魔獣が走り出す。すごいスピードだ。
遠雷の名前は伊達じゃない、まさに雷のような速さで街が遠ざかっている。
「どう、魔物使役も面白いでしょう!」
彼女が艶やかな黒髪を風に靡かせて、言う。
僕は頬に風をかんじつつ、魔獣の背中にしがみついた。モフモフの毛並みが実に気に入った。
僕は生物の扱いは不得手だが、僕は生物が好きだ。
生物は僕のことが嫌いだ。
「とっても面白い。僕もこういうのほしい」
「難しいわよ、魔物の使役は!」
道中で出会った魔物をときに爪で切り裂き、ときに軽く飛び越えて、僕らはあっという間に、目的の場所へとやってきていた。
イスランデ王立博物館だ。
マクダレン教授の話では、昔、この辺りには王家の管理する特別な地下への坑道があったのだという。
西央に所属する魔導考古学研究チームの魔導士にして、初代王立博物館の館長でもあるカーリーン・ガルケルは王家の遺跡を守るため、一計を案じることにした。
遺跡の上に博物館を建ててしまうことにしたのだ。
博物館から収蔵品を盗み出すことは簡単でも、地下神殿への入り口を見つけ出すことは容易じゃない。目立ちすぎる。突飛だが、巧妙な偽装だ。
同時に、この王立博物館はラグナロクの研究施設も兼ねていて、カーリーンはこの博物館で密かにラグナロクの研究を続けていたという。博物館とはそもそも研究と収蔵を兼ねた施設だ。広大なバックヤードがあっても不思議ではない。
木を隠すなら森の中、歴史を隠すなら博物館の中。
歴史の秘密が眠る博物館の地下には、さらに広大な秘密が潜んでいたと、そういうわけさ。
*
カーリーン。
カーリーンよ。
儂とそなたが出会ったのはあの地下神殿でのことであったな。
あの頃は、地下神殿ミーミルなどという大それた場所ではなく、ひっそりと地下へと続く坑道だった。
イスランデの秘宝を収めた王家の竪穴。
───誰も触れてはならぬ、世界に滅びをもたらす魔剣。
儂の先祖は代々、それを守り抜き、死んだ。儂もそれを守るため一生を費やすのだと思っていた。
そなたに会うまでは。
イスランデ王城、玉座の間。
バルムンド・ガルケルは臣下からの呼びかけに、つかの間の追憶から目覚めた。
「陛下、出陣のご用意ができております」
恭しく一礼する軍服の男。イスランデ陸軍特殊部隊参謀幕僚長ガラドルフ・バスケフである。厳しいドワーフ軍人の顔には幾ばくかの緊張と、それにも勝る不屈の意志が見て取れる。
バルムンドは玉座の上より立ち上がる。
「うむ。今、行こう」
上半身を鋼の鎧に身を包み、ラグナロクを携えた王の姿。
今日、この日、イスランデ王国の前途が決まるのだ。
ガラドルフは王の勝利を信じて疑っていない。
しかし、確実な勝利というのはないものだ。
「王の盾50名、および小型戦闘機械兵ブリッツ50機、陛下の号令で持ち場につき、敵を掃討するよう手配しております。残り150名は市民の避難と、市内にて発生した魔物の駆除にあてております」
これが懸念材料だ。
ロスガル全域に起きた魔物の自然発生。
それによって、王の盾の全機をこの武闘会の本戦にあてることができなくなった。
もちろん、王に随行する50名は選りすぐられた精鋭ではあるのだが……。
武闘会の勝利に全機を配備すべしと主張するガラドルフに、バルムンドは決して首を縦には振らなかった。
あくまでも、市民を優先すべしという王命である。
バルムンド王はなんら臆した風もなく問うた。
「敵はどうだ」
王の問いに、答える。
「敵戦力総勢一名」
ロスガル市内で行われたイスランデ大武闘会、本戦。
勝ち上がったのは、ただ一人。
予選大会を潰したあの男。王に二度、刃を向けた謀反人、レイヴン。
異常に強力な魔術、莫大な魔力量と、圧倒的な暴力で他をねじ伏せる凶悪な高位魔族。
「身元は知れたか、あの男」
「いえ。レイヴンという名前以外、身元や国籍も不明。東魔大鬼王国の戦争管理官と連れ立って行動しており、東魔の関係者の線が濃厚ですが、魔導協会イスランデ支部とも関わりがあるようです」
「魔導協会か」
イスランデ支部のベルリッツとは連絡を取っているが、それらしき情報はない。
地方支部の最高位司祭である彼に口をつぐませることができるのは、それよりも上位の魔導士のみ。
「西の魔導士どもめ……いつもながら怪しい動きをする」
魔導協会イスランデ支部は必ずしもイスランデの利益のためにあるわけではない。
西央魔導協会に加盟する国家を監視、管理するための存在だ。
彼らの行動は、魔導協会の意向によるもの。今回もそれだ。
バルムンドはしばし黙考した。
おそらく此度の戦───敵は、一人ではない。
はっきりしているのは、黒髪の高位魔族だが、これは確実だ。
東の鬼とのつながりが危ぶまれる男の正体。
こちらは東魔の戦争管理官であろう。そうでなくても、それに類するものだ。
戦乱の絶えない東魔において、さらに戦闘に傑出した魔族たちの集団。
ギルド【魔獣の巣】が、此度のラグナロク争奪戦に出張ってこないわけがない。
あのアラン・篠崎と名乗る諜報官の連れていた女、あの身のこなしから、戦争管理官の一員。そして、それと行動を共にしていたという黒髪の男も戦争管理官である。
魔剣ラグナロク───東魔侵攻の先駆けとなるべき魔王兵器。
事態を重くみた【魔獣の巣】が先んじて手を打ってもおかしくはない。
だが、ここで判然としないのは、魔導協会側の行動である。
───なぜ、西の魔導士が東の反人類を標榜する鬼どもの走狗と手を組むのか。
しかも、東の鬼の宮廷呪師への襲撃。王の盾による襲撃は、何者かによって防がれた。
───まちがいない。
バルムンドは確信した。
あの鬼人の宮廷呪師を逃し、【魔獣の巣】の走狗どもを手懐け、巧妙に事態を裏から操るものがいる。
そのものは大会の管理運営アプリに度重なる攻撃を仕掛けるのみならず、あの黒髪の男を矢面に立たせて自らは暗躍している。
───策士───!
得体の知れない動きだ。
しかも、その者は、魔王兵器ラグナロクの研究は厳重に秘匿されていたというのに、どういった経緯によるものか、考古学遺物研究チームの一員であるマクダレンにまでたどり着いている。あの黒髪の魔族がラグナロク回収に現れたのがその証拠。
最も不都合なことは、あの者たちは、息子───エリックを取り込んでいる。
愚かな若者一人、懐柔するは容易だったと見える。
だが、捨て置けもせぬ。
エリックという急所を握られていては、表立ってイスランデ支部を攻撃することもできない。
───なんという狡知にたけた魔導士か。
自らは完璧に裏方に徹し、こちらに足取り一つ掴ませないというのに、確実に急所を抉る一手を打ってくる。
───敵は、二人だ。
表立って攻撃を行う、黒髪の剣士が一人。
そして、用心深く、用意周到。決して侮れぬ力量の魔導士が一人。
バルムンドは自らの推察に区切りをつけた。
まあいい。
計画にトラブルはつきものだ。
むしろ、目の前に立ち塞がる敵を打ち砕いてこそ、王としての力量がわかるというもの。
ガラドルフの前を通り過ぎると、王宮の出口に向かう。ガラドルフがつき従う。
王宮の前庭に迷彩柄の軍用ヘリが待機している。
「儂は今日、最強の王となる」
そう、宣言する。
ガラドルフが深く頭を下げる。
「ご無事のお戻りを、臣下一同お祈り申し上げております」
「うむ。儂は勝つ、祝勝会の準備をしておけぃ!」
バルムンドは言い残すと、颯爽とヘリの後部座席へと乗り込んだ。
*
僕はくしゃみを2回した。
「風邪かな」
僕たちは王立博物館の中にいた。
僕、モクレン、それにエンライ。
巨大な虎が博物館を歩いていても、誰も制止したりしなかった。
王立博物館の内外は武装した警備兵が守っていたが、そいつらは全員、幻惑の香によって、甘やかな幻影を見せられているからだ。
これはモクレンの使う幻惑香というものだ。すこし林檎に似た香りがする。
これによって館内の人の誰にも僕らは制止されることはない。
僕たちはスムーズに博物館を見学していた。
一応エチケットとして、チケット代はカウンターに置いてある。
長い展示会場を抜け、僕はバルムンド王のムキムキの像の前にいた。
大きく槌を右手で振り上げ、左手は前に突き出し、雄々しく指を広げているポーズの彫刻。
説明文によると、ドワーフの腕のいい職工たちに作らせたものだそうだ。
精巧な造りは、バルムンド王と寸分違わぬサイズなのだとか。
1分の1バルムンド王フィギュア。
この像はカーリーン・ガルケルが発注者らしく、ここに仕掛けがあるのは間違いないのだが……。
僕はポケットから指輪を取り出した。
それでこれが鍵なんだそうだが。
僕は首を傾げた。
マクダレン教授が言うには、指輪が地下神殿へ続く扉を開く鍵になっていて、それがこのバルムンド王の像に鍵穴があるという話で、行けばわかる、と言われたが。
僕はオーブの扱いは良くわからない。
鍵穴らしきものを探して、僕は石像の周りをウロついていた。
「どうしたの?」
「ああ、指輪なんだけど、どこにはめるんだろう。像の台座にも指輪が入りそうなスペースはないし、魔導術式を読み取るような箇所がどこにもなくてだな」
「あら、そんなこと? ニブいわねぇ。指輪といえば決まってるじゃない!」
モクレンが言って、僕の手から指輪を取り上げる。
「婚約指輪といえば、ここよ!」
彼女は、エンライを呼びつけて足場にすると、バルムンド王の突き出した左手、その薬指に指輪をはめた。
途端に石像の台座が地鳴りのような音を発して動き出す。
博物館の床や、壁から歯車やゼンマイの仕掛けが動く音も聞こえた。
「嘘だろ」
「魔導士としては超・天才でも、女心がわかってないわねぇ。カーリーンは、バルムンドの奥さんなのよ」
だからって本当にこんな馬鹿げた仕掛けを作るとは。僕は感心した。
───魔導士というものは、二種類ある。
マクダレン教授のように常識的で、良識を重んじる、模範的なタイプ。
もう一つは、ユニークで発想がぶっ飛んでいて、奇人変人のタイプだ。
どうやらカーリーンはそっち側の魔導士。
エリックくんの見せてくれた日記からして、茶目っ気のある人物のようだ。
ちなみに僕は素晴らしく常識的で高潔、最高にして最新のニュー魔導士だ。誤解しないでほしい。
彫刻が動き終わると、床に、地下へと続く通路が開いていた。
階段になっていて、降りた先には照明がついているようで明るい通路だ。
地下神殿というには、ミーミルはだいぶ整備されているようだ。
ダンジョンというより、魔導士の研究施設といった側面が強いのだろう。
僕がイルミナに拠点を持つように、魔導士は研究のための拠点を持つものだ。
その魔導士の拠点を見れば、ある程度は、その魔導士がどんな人物かがわかるというものだ。
マクダレン教授宅は非常に常識的な家屋だったのに比べて、カーリーンの拠点はこの、地下神殿なのだろう。
博物館を遺跡の上に建ててしまうあたり、やっぱり発想のぶっ飛んだ魔導士のようだ。こういう魔導士は相手にしにくい。
生きていたら、カーリーンは交渉しづらいタイプの魔導士だな。
僕は、背後のモクレンを見た。
「それじゃ、行ってみようか、地下神殿ミーミルへ!」
「ええ、おもしろそうね!」
『えーと、俺も行くんすか、姐さん』
エンライが面倒くさそうにぼやいている。
「当然、あんたも護衛をするのよ!」
こうして、地下への探索が始まった。
はっきりいって、珍道中である。
*
クオンのいる場所から走って去ってきたものの、一体どこへ向かえというのか。
俺は、待ちぼうけを食っていた。
現在昼の三時半。そろそろ昼飯が食べたい時間だが……。
武闘会の俺が通ってきた道筋を振り返ると……死屍累々だ。
デッドオアアライブの免責同意書があるとはいえ、やはり大武闘会本戦の危険度は凄まじい。
───なんという死地。いや、戦場であろうか。
それはともかく、ふむ。やっぱ腹減ったな。
俺は街角で営業している食事の店を探すことにした。
通りを歩くこと、しばらくして、こんな事態でも商魂逞しい店が一軒あいているのを発見。
看板的にイスランデ名物の店っぽいな。
薄切りの羊肉をスパイスで焼いたものをピタパンというこの地方でよく食べられているパンで包み、サンドイッチにする店だ。
俺はそっちに足を向けた。
「店やってるか」
「やってるよー」
ドワーフの小太りな中年の店主が店先に顔をのぞかせる。
「羊肉サンド一個、頼む。すぐ食べるから袋はいらない」
「お客さん、武闘会に参加してたの?」
「ああ、うん、まあ。辛味ソース多めで頼む」
「あれでしょ、テレビに映ってる人でしょ」
「そうそう、あれだ」
「次は決勝だねー、ガンバりな!」
応援されてしまった。
どうして、武闘会の内容を知ってるんだ。あれだけ馬鹿騒ぎしたから当然か。
代金を支払って、出来上がったサンドを受け取った。
俺はとりあえず街をぶらぶらすることにした。
サンドを齧る。うまい。辛味があるぞ。
イスランデは香辛料の効いた料理が多く、目新しい。
そろそろ自炊の料理のレパートリーに飽きてきた俺だ。次はこういったスパイス系を楽しんでみるのも悪くない、などと思いはじめた矢先に、それが見えた。
小型戦闘機械兵ブリッツがビル街の通りの向こうを走行中だ。
───ふむ、動き出したな。
羊肉サンドを急いで口に突っ込んで、街角の店先で見つけたゴミ箱に包み紙を捨てる。
俺は小走りで、先ほどの店から距離をとった。
俺が近くにいると店舗が戦闘に巻き込まれる。
───小型戦闘機械兵が通りの反対側にも見えた。
数は三機、向こうに二機、俺を囲むように動いているな。
これは相手が俺を誘導しているということだ。
武闘会参戦者のような烏合の衆ではなく、計算された動き。
───相手はプロだ。
訓練された戦闘集団。
しかし、こんな街中で、一体どこまでやる気だ?
向こうの出方をうかがっていると、隊列の一機がこちらに小型ミサイルを発射。
煙をひきながら、こっちにやってくるミサイルを走って、回避する。
俺の後方で建物に着弾。爆発。
ここら一帯は魔物災害もひどく、市民の避難も済んでいるようだが、今の攻撃でわかる。
───徹底的にやるようだな。
戦争を。
俺が思うに、次の相手はバルムンド。
国王のバックアップをする相手とは、イスランド王国そのものだ。
動いているのは軍隊の精鋭部隊。
考える間もなく、ブリッツ数台が、肩の砲台から小型ミサイルを複数発射。
どうやら俺を追い込みたい場所があるようだ。
鼠のように、追い込んで、一気に仕留める気だろう。
次の対戦相手は、バルムンド王とその麾下、精鋭パイロット部隊。
───イスランデ大武闘会、決勝戦。
開戦の狼煙が上がったってわけだ。




