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世界監視機構 サーベイランス・メカニズム作戦会議

 作戦会議だ。

 ラウンジでお昼ご飯でも食べつつ、今までの話をまとめることになった。

 本来なら、魔導協会員専用ラウンジだけど、今回は司祭のベルリッツ君に無理を言って、食堂として提供してもらっている。

 なぜ、無理をいえるかというと、ベルリッツ君は、魔王兵器ラグナロクの報告をマクダレン教授から受けておきながら、その報告を魔導協会本部へおこたっていた最たる人物だからである。


 魔導協会員は、創界教令ジェネシス・コードにより魔王兵器の存在を監督(かんとく)する使命がある。


 これはかなり優先度の高い任務だ。

 司祭であれど、兵器の存在を知れば、魔導協会本部への報告は義務付けられているのだが、ここイスランデ支部はバルムンド王と懇意こんいにしている支部である。はっきり言ってズブズブだ。

 地方の支部は、地方の行政府と魔導協会を統括(とうかつ)する教皇庁の意志の間でバランスを取る役目だが、時として、地方行政府の意を汲むこともある。

 もちろん、内々にだ。

 普段だったら、そこは支部の司祭の判断で許される。いわゆる()()()()()だ。


 だが、今は状況が違う。


 もちろん、そんなこと、この僕がいるんだから許されない。

 選帝侯とは表向き、魔導教皇猊下の意志の代弁者である。

 いつもだったら、司祭の判断で内々になることも、僕がいる時は、あの手この手でつけ入る……いや、厳しく取り締まる。

 だいたい、マクダレン教授は一番にイスランデ支部に打診(だしん)したはずだ。彼からラグナロクの報告を受け取っていただろうに、握りつぶしたのは、司祭の一存にしては重大すぎる過失だ。

 そういうわけでベルリッツくんは多少の無理どころか、この食堂で高級イスランデ料理をご馳走(ちそう)してくれるくらい好意的に僕たちに接してくれるのだった。

 豪勢な昼食を僕たちは前にしていた。

 イスランデ料理を中心に、東魔から西央まで食卓に並ぶメニューは実に多彩だ。


「ほら、武闘会なんて来るから、厄介(やっかい)なことになっちまっただろ、アルビレオ。俺の言うこと聞かないからだぞ」


 イスランデ王襲撃犯がなにか言っている。

 羊肉をデーツとミルクで煮込んだシチューの皿を手に、レイヴンはけっこう異国の食事を堪能たんのうしているようだ。

 丸テーブルの真向いに座ったクオンが、僕のチョコレートケーキの皿に目をむける。


「魔術師、なんですか、その食事は。ちゃんと野菜を食べなさい」

「そうだぞ、ちゃんと野菜を食べろ、アルビレオ」


 クオンに便乗びんじょうして、レイヴンがサラダを皿ごとおしつけてくる。

 調子よすぎだ、こいつ。


「モクレン……」


 僕は助けを求めて、東魔の呪師に目を向けた。

 彼女はわかったわ、と言うようにチャーミングにこっちにウィンクをした。

 二人をいさめるように口をひらく。


「二人とも、わかってないわね、成長期の青少年に野菜ばかり食べさせてどうするの。正解はこれよ! 肉を食べなさい、アルビレオ」

「げっ」


 ドン、と僕の目の前に骨付き肉が山盛りにされた皿が置かれる。


「そりゃそーだ。肉を食え」


 どん、とレイヴンが肉野菜炒めの皿を僕の目の前に置いた。

 バランスよく食べさせようとするな!


「飯ハラだ! 許されないぞ! 最近は、そういうの!」

「お前にかぎっては許される。バランスよく三食食え、醤油とってくれ」


 最後のはクオンに言う。

 食卓に東魔系の調味料が行き交っている。


「はい。あ、この串焼き肉おいしいですよ、スパイスが効いてて」


 イスランデの名物は、香辛料の効いた香りのある料理だ。

 二人とも、かなりの健啖家けんたんかだ。

 僕は今日に至るまで知らなかったのだけど、レイヴンはかなり食べる。

 あっという間にシチューを食べ終えてしまって、次の料理の皿に移っている。

 ナツメグやクミンやらで炒めた米飯が特に人気だ。

 山のようだった串焼き肉もあっという間に消えていく。


「まずはバルムンド王の対策について考えないとな」


 炒め飯の皿に醤油をかけつつレイヴンが言った。

 僕は人の食事に興味ないけど、しょっぱすぎないかい。でも、クオンもかけてるな。


「ええ、なかなかの腕前でした。傷がすぐに回復していたのは、なんだったのでしょう。不死身でしょうか」

「なんらかの術を使っているというのがあたしたちの見立てよ、アルビレオくんは?」


 モクレンは上品に串焼き肉を串から外して食べていた。

 僕も……。食べた方が……少しは気になるかも……うーん。

 興味ない。

 僕はチョコレートケーキを口に運んでから答えた。


「不死身じゃない。あれは再生術リジェネによるものだ。どこからか莫大ばくだいな魔力を持ってきて、それをぶん回してるんだ」

「どこからか、が重要よ、大掛おおがかりな儀式をしているというのがあたしたちの結論」


 ここまでは僕らが会場で確認した内容だ。


「僕らは大武闘会に仕掛(しか)けがあるとみてる。魔力を汲み出す仕組みがあるんだ」


 クオンが涼しげな顔で言った。


「ふむ、まずは大武闘会について調べる必要があるようですね」


 僕は上着のポケットから、あるものを取り出した。


「それなんだけど、これ」

「なんだこの石」


 テーブルに置く。

 みんなの視線がその石に向かう。

 大人の手のひらに収まるくらいの赤い透き通った小石だ。


「大会参加者受付からパク……借り受けてきた」


 僕は言葉をつつしんだ。

 これは事態を解明するための、魔導協会員らしい行為だ。

 武闘会に仕組みがあると勘付かんづいた僕らは、会場がパニック状態なのをいいことに、大会参加者受付から、契約書や免責同意書とともに参加者へ交付されている、特別な参加者の証を手に入れてきたのだ。

 参加者に配られるこの石は、おそらく呪具。

 バルムンドが胸の内に入れていたように、参加者の肉体に押し込むと同化するようになっている。

 大会のライブ映像を見れば確認できるのだが、胸の中央に、この赤い石をはめ込んで使うもののようだ。


「これは鉱石かしら。呪縛法で使う血石とは違うわ」


 モクレンがいぶかしむ。モクレンもこの鉱物が何か知らないようだ。実はこの手の鉱物には僕もおぼええがない。

 僕が頭を悩ませていると、


「……オーブだ」


 それまで黙っていた、エリックくんがぼそっと言った。


「オーブ?」

「これはエンチャンターが使うオーブ。魔術を物体に固定するための鉱石だ」


 エンチャントとは僕も聞いたことがある。魔術を武器や鎧に固定するためのものだとは知っていたけど、実際に見るのは初めてだ。


「へー、これが。僕は武具にくわしくないからな」


 エリックくんが説明を続ける。


「魔剣とは術式を刀身に刻んだもののこと。聖剣とは術式をはじくものを刻んだもののこと。オーブはその技術を用いて、魔術師でなくても魔術を扱えるようにしたものだ。ブリッツなんかに使ってる雷撃収束砲サンダーキャノンもこの技術だ。これによって、例えば簡易な炎術なんかを刻んでおけば、剣を扱うものが魔力を流すだけで、炎の剣になる。この魔導加工エンチャント技術はドワーフの伝統工芸だ」


「詳しいね」

「俺は魔導加工付与師エンチャンターだからな」


 今の説明で理解した。

 バルムンド王もまた、優れた刀鍛冶であり、魔導加工付与師エンチャンターなのだろう。


「……バルムンドもこれを使ってるってことだな。今の説明でわかったんだけど、参加者全員にこのオーブを付与しているはず。ここからは僕の仮説だよ。契約書のサインとオーブの術式によって、負けたものから、勝ったものへの魔力の譲渡じょうとが行われているんじゃないかな」


 契約を介した古代呪法は、主に書面で交わされるものだ。

 取引相手の名前と契約内容、それにこのオーブで、使役者であるバルムンドと参加者の間につながりを作っているのだろう。

 モクレンが僕に同意した。


「それなら呪縛法とも相性がいいわ。その儀式にはあたしも覚えがある。蠱毒(こどく)、というの、知っている?」


 僕は東の魔族の呪術には詳しくない。

 素直に答える。


「東魔の呪術だということくらいしか知らないな」


「そう。虫を争わせて、最後の一匹になるまで戦わせるの。そして、最強の一匹を作る。呪縛法には使役者がいて、使役獣がいるものよ。おそらく蠱毒の参加者たちが使役される魔物モンスターの代用」


「つまり、大武闘会を、その蠱毒に見立ててるってことか。それなら、契約者であるバルムンド王自らが参戦する理由がわかる。バルムンド王は本予選通過者だ。予選はAからEブロックまで、だいたい千人近くが参加していて、Dブロックだけで200人。バルムンド王には200人分の魔力が譲渡されているとみていい」


 契約書の内容から見て、譲渡されているのは魔力だけではなく、参加者の生命力もだろう。現在のバルムンド王は200人分の魔力と命を自由に使える存在だ。

 それだけの魔力があれば、再生術はもとより、魔王兵器ラグナロクの起動に必要な魔力も余裕でまかなえる。

 現在の王様はほぼ不死身で、ラグナロクをブンブンり回す危険な存在だ。


 しかし、よくできた計画だ。


 イスランデ王の座と魔王兵器という破格(はかく)の優勝賞品を設定したのは、はじめから人を集めて、魔力リソースを増やすことが(ねら)いだった、ということだ。

 その場合、イスランデ王自ら大武闘会の優勝者となることが前提ぜんていだが、そこも問題はない。

 魔王兵器の力を持ってすれば、余裕で優勝できる。

 自らの武に頼りすぎな嫌いはあるが、成功すればメリットも大きいし、成功する確率は非常に高い。この計画に運が左右する要素はほとんどない。


 ───自らが最強であれば、必ず成功する計画。


 バルムンドは魔導士としても、王としても辣腕らつわんだ。

 王としての権力をフルに活用して、これだけのことをやってのけるとは……。

 はっきり言って、すごい。 


「むむ、では、そのほかの予選通過者はどうなっているのですか」


 静かに鶏肉の唐辛子と岩塩焼きを食べていたクオンが、箸を止めて聞いた。


「200人分が予選通過者したそれぞれに流れ込んでるだろうね。武闘大会の優勝者になったら、今以上の回復力と、ラグナロクの使用のための魔力リソースを得られるんじゃないかな」

「私も、それが正しいと思うわ」


 クオンがおし黙る。

 一人、麺類めんるいで締めに入っていたレイヴンが丼を置いた。


「んで、今日はEブロックが終わるところだな?」


 レイヴンが言う。


「うん。今日で予選は最終日のはずだよ。午後にはEブロックの全部の試合が終了する予定だ。このまま大会をほっとくと、ラグナロクにどんどん魔力が注ぎ込まれてしまう」

「そもそも、ラグナロク、あれはどんな剣なんだ。世界を終わらせるほどの魔剣とは、どういう能力なんだ?」


 僕はレイヴンの問いに、腕を組んだ。説明が難しい。簡単にいうと。


真空崩壊(しんくうほうかい)だよ」


 僕は続けた。


「あれは真空崩壊を引き起こす剣だ。この宇宙における最も極小のエネルギー力場、そこにあらゆる全てが流れ込み、宇宙は崩壊する」


 みんなピンときていないようだ。僕は説明に苦心した。


「宇宙の外側って考えたことある? 宇宙の最果ての境界を、世界外殻と呼ぶ。世界を一個の卵だと考えた時の殻に当たるものだ。簡単にいうとね、世界外殻に穴が開いちゃったんだ。真空崩壊の微少な泡によって。空の黒点が見えた? あれは超巨大な質量星のようなもので、あの穴に外殻が引きずり込まれてるんだ。それでちょっと穴が空いたように見えるわけ。あそこら辺一体の上空を飛ぶと、時空が歪んでいて、とても危険だ。だから僕は、世界監視機構は、世界の終わりを阻止(そし)する使命があるってわけさ!」


 僕はみんなを見た。

 今の説明で伝わっただろうか。伝えにくいことだから説明は難しい。


「世界の終わりだな」 


 レイヴンが東魔茶を飲みつつ言った。


「そういうことさ。理解がはやくて助かるね」

「あと、どれくらいで終わる?」


 僕は、今日、見た黒点から考える。


「うーん、【亀裂スクラッチ】から、ほっとくと一日で第三段階【物質化マテリアライズ】まで移行する。開いた穴からはどんどん魔力、原初の闇が流れ込んでるところだよ」


 イスランデの黒点から流入した魔力は、海水のようにどんどん()まっていって、魔力濃度も上昇し続ける。限界点に達すると、【物質化(マテリアライズ)】───流れ込んだ魔力が、魔物モンスター化しはじめるはずだ。

 レイヴンが言う。


「今、修復しちまうのはどうだ」

「ラグナロクの停止が前提だ。世界結界を修復するにせよ、それはことが全てすんだ後でないと」

「なぜだ」


 レイヴンの問いに、僕は答えたくなかったが、答えることとした。

 僕の極光魔術・【世界新生】は世界外殻を新たに造る魔術で、空の黒点も問題なく修復することが可能だが、問題がある。


「……僕の方の限界だ。極光魔術は僕の全魔力で一日二回が限界だと思ってくれたまえ。二回目は死ぬ」

「……そこまできついのか」

「世界の外殻を再現構築する空間構築術がそうそう簡単に打ててたまるか!」


 高度な魔術を扱えても魔力の上限という限界は変わらない。

 バルムンドが大規模な儀式を行なってまで、莫大ばくだいな魔力を外部から集めることにしたのはこれが理由だ。

 魔力不足は魔導士にとって致命的だ。


「そういうわけで、早い話が、ラグナロクを停止、結界を修復。この流れがベスト! でも一番は、お話し合いで解決すればいいんだけど、どうだった?」


 ラグナロクを無理に停止させなくても、所有者であるバルムンド王にラグナロクを使わないようにしてもらえば全て解決する。

 レイヴンが頭をった。


「無理そうだった」

「無理ですね」

「無理だな」


 レイヴン、クオン、エリック、三人の声がそろう。


「無理か……」


 僕は肩を落とした。

 ずいぶん、頑固がんこな王様だ。

 ドワーフというのは職人気質しょくにんかたぎらしいから、そのせいだろうか。

 レイヴンが言う。


「まあ、なんだ。ラグナロクを回収するにせよ、バルムンド王の打倒(だとう)が先決ということだ。そのバルムンド王を弱体化させるためには、蠱毒とかいう儀式をやってる大武闘会をなんとかしなくちゃならんと、そういうわけだ」


「うん、まずは魔力のリソースを断ちたいところだ。ラグナロクに流れ込む魔力さえ少なくできれば、ラグナロクをそう容易たやすくブンブンり回せないさ」


「ただ、その間も空の穴は空いていくと」

「早いほうがいいね、王様の打倒は」


 ラグナロク入手は、時間制限付きだ。空の黒点が、世界の終わりである、世界墜落ワールド・フォールを招くほどになれば、全てが手遅れだ。

 無理矢理むりやりにでもバルムンド王は倒さなくてはならない。

 大武闘会をつぶした上でだ。

 僕は、説明をしながらも、エリックくんの方をチラと見た。


「でも、その、バルムンド王はその……お父さんだし、エリックくんの」


 最後まで言う前にエリックくんがさえぎった。


「いや、やってくれ、頼む」

「ええと、その、でも、つらいだろ? 家族と敵対するなんて」


 僕は言いよどむ。親子というものは、僕にはよくわからないが、きっとバルムンド王を倒す計画なんて、エリックくんにとっては不快なはずだ。

 エリックくんは悔しそうに歯噛はがみした。


「……親父はなに考えてるかわからんが、間違まちがっているってのはわかる。東魔のやつらは気に食わないが、戦争を始めるなんて……。ぶん(なぐ)ってやりてえけど、俺にはできないからな。むしろ、俺からも頼む、親父を殴ってでも止めてくれ!」


 も、もしかしてこれは世に言う、()()()()というやつなのだろうか。僕は、映画やドラマの中でしか見ないレアケースに遭遇(そうぐう)して動揺していた。

 親子とはお互いに助け合うもので、殴り合ったりするものではないし、そういうのは僕の守備範囲外だ。

 そんなものに巻き込まれても。大体だいたい、その場合、殴って止めるのは僕ではなく、レイヴンだ。頼むならレイヴンに頼むのが筋だ。

 僕はレイヴンの方を見て、助けを求めるが、やつは湯呑ゆのみを片手に、我関せずをつらぬいている。

 あいつめ、面倒なことを僕に押しつけているな。


「本当に、いいのかい?」

「ああ、俺にできることは少ないが、なんでも言ってくれ。今、できることをやりたいんだ」


 まっすぐに彼はうなずいた。固い決意のこもった顔だ。

 お茶をすすりつつ成り行きを見守っていたレイヴンが口を開いた。


「ふむ、俺から提案があるんだが」

「なに」

「もう一度確認するぞ。やるべきことは、バルムンドの打倒と、そのための魔力リソースである大武闘会をぶっ潰すことだ」

「そうだね」


 レイヴンの言うことは正しい。

 バルムンド王は、非常に優秀な魔導士だ。東魔から西央、そして魔導加工付与師エンチャンターとしての技術、全てを使ってこの大会を仕組しくんでいる。バルムンド王はこの大会のために、何ヶ月も、何年も、下手をすると何十年も準備をしているはずだ。

 入念に準備をした魔導士は、手強くて、危険だ。

 バルムンド王を倒すためには、彼の仕掛けた魔導儀式である大武闘会をぶっこわす必要があるのは確かだけど、こんなに周到(しゅうとう)に用意された儀式をぶっ壊すなんて、いったい、どうすればいいんだろう。

 レイヴンがのほほんと言った。


闇討やみうちだ」


 信じられない言葉が飛び出てきた。


「闇討ち?」


 僕は聞き返す。

 レイヴンはいたって普通のことのように続けた。


「そうだ、闇討ちだ。ようは、他の予選通過者がバルムンドと戦わなければいいんだろ。大会参加者同士が戦って負けたらエネルギーが一方に吸収される、なら、他の飛び入り参加者が倒せばどうだ?」


「どうだって、言われても」


 僕は唖然あぜんとした。レイヴンの話す内容が間違っているからではなく、手段の方についてだ。


「これからEブロックの突破者が決まる。そいつを大会参加者でない俺が襲撃して、オーブを破壊する。そうすれば、バルムンドに流れ込む200人分の追加の魔力は無くなるはずだな」

「そうだけど」

「それなら、まずは一人目を倒してみよう。それでバルムンドに魔力が渡るかどうかを試すんだ」


 合理的だ。確かにそれ以外はない。

 僕が驚いたのは彼の発想の、あまりの()()っぽさにだ。

 そんなことをやって、いいのか?

 彼が言っているのは、他の大会参加者を襲撃するってことだ。

 僕たち、世界を救う世界監視機構員のはずなんだけど……。

 僕は、悩んだ。

 でも、レイヴンの言うことには一理ある。

 手っ取り早く、バルムンド王の仕掛けた儀式を阻止そしできるだろう。


「……うーむ、やってみる価値はあるか……」

「ずいぶん、話がわかりやすくなってきましたね」


 食事を終えたクオンが言う。


「正直、世界がどうたらは眉唾まゆつばですが、私も協力しましょう」


 キリッとした顔だ。

 僕はじとっと東魔の魔族を見た。


「というかなんで、クオン……はその、ぬるっと協力してくれてるの?」

「な、成りきです! 協力とかそーいうのではありません」


 クオンが、ちらっとレイヴンを見た。何があったんだろう、この二人。

 レイヴンは気づいていない。なんか変な感じの雰囲気だ。


「……成り行きねえ」

「あなた方に協力するわけではなく、先輩のそばにいれば、その……殺すのにちょうどいいからです!」


 クオンが赤面しつつ、物騒ぶっそうなことを言う。

 僕はとなりにいる黒髪の優男の顔を見た。彼は観念(かんねん)したように、軽くうつむいている。


「ええと、きみ殺される予定なの?」

「そういうことだ。いつでも不意打ふいうちにこいと言った。言ったので、正面から来られても俺は止められないんだ」

「ど、どういう関係?」


 まったく意味のわからない人間関係だ。

 変な雰囲気をかもしている男女二人は置いといて、僕はもう一人の東魔の鬼人に声をかけた。


「モクレンはなんで?」

「あなたをスカウトしに来たからよ、アルビレオ」

「僕?」


 またもや面食めんくらう発言だ。


「ええ。腹の探りあいは趣味じゃないから、単刀直入にきくわ! あなた、そんな竜はやめて、ライゴウ殿下のものになりなさい!」

「ダメだ」

「なんで君が先に言うんだ」


 レイヴンがガタガタと立ち上がる。


「それは絶対にダメだ、許さない。いくらライゴウ……で、殿下でも」


 相変わらず、すごい葛藤かっとうだ。しかも、ちょっと負けてるじゃないか。

 モクレンは居住いずまいを正すと、真剣な顔をした。


「レイヴン、お前には聞いていないの。アルビレオ殿、私はライゴウ殿下の名代(みょうだい)です。東魔王陛下の後継として殿下を後押しするため、選帝侯のお力添(ちからぞ)えをいただきたい。術勝負には負けたので正式にスカウトいたします。(さいわ)い、そこのレイヴンとも、いまだに何事なにごともない関係のご様子。貴殿のご助力には必ず東魔鬼人族一同、身命を賭して報いるとお約束しましょう」


 モクレンがかしこまった口調で改めて言う。

 彼女の提案はつまりこうだ。

 選帝侯である僕に、第一王子を魔王に推挙すいきょせよと言っている。つまり、僕にライゴウ王子につかえろと言っているわけで、これは今まで魔導協会に対して反発してきた東部魔族にしては破格はかくの決断だ。

 いったい、なんでいきなりそんなことを言い始めたのか。

 選帝侯の後押しが必要なほどの憂慮ゆうりょのたねが国内にあるのか……。

 しかも、そのライゴウというのは第一王子。

 順当に行けば、選帝侯の後押あとおしなど必要ないほど、その地位は盤石ばんじゃくなはずだが……。僕が彼女の提案にかくされた背景を読み取ろうと熟考じゅっこうしていると、途中で僕の思考が中断された。

 レイヴンだ。


「これは、俺の、俺のだ」

「ぎゅむっ」


 レイヴンの腕が伸びてきて僕の首のあたりでギュッとまる。僕は死んだ。


「首が絞まっていてよ」

「はっ、すまん、生きてるか」


 両腕から解放される。


「……げほっ……急な暴力はよせ。これってなんだ、物扱いするな、僕の背後に回るんじゃないっ」


 どこからっこめばいいんだ。

 言っておくが、君のじゃないぞ。

 あ、しかも、なんかクオンの目がきびしい。なんか変なことに巻き込まれかけてる。

 とりあえず、モクレンに顔を向ける。


「……宮廷勤めにしてくれるのはありがたい話だけど、断るよ。僕は政治に向いてないし、魔王を選ぶつもりもない。その、君の主人あるじは立派な人なんだろうけど、僕には宮廷魔導士はつとまらないからね。もっと向いている人をスカウトする方がいい。選帝侯どもは無理だが、在野の優秀な魔導士なら紹介できる人もいる」


「わかったわ。そう言われると思ってた。ここはおとなしく引き下がります」


 僕はほっとした。

 モクレンの目が鋭くつり上がる。

 彼女の目は、僕の後ろで、動揺しているドラゴンに向けられた。


「そして、レイヴン、あたし、あなたへ言いたいことがあるの」

「ぐっ」

「レイヴン、あなたの裏切りは許されない。出自もわからぬあなたをそばに置き、友と呼んだ王子の気持ちを考えなさい」

「うぐっ」

「この件に関して、ライゴウ殿下が(ゆる)そうともあたしは許さない、いえ、あたし達、アスラ王家に仕えるもの達が許しません。即刻そっこく、東魔国警邏隊に引き渡し、しかるべき処分を受けてもらいます!」

「ぐわあああああ!」


 あまりにも鋭い言葉のパンチだ。

 レイヴンが、僕の後ろでボコボコにされている。

 こいつがボコボコにされてるところ初めて見たな。

 モクレンは言いたいことを言ってスッキリしたのか、怖い顔をさっと引っこめた。


「と、言いたいところですが、あなたの主人にめんじて許します。ええ、今回だけよ。アルビレオ殿には借りができてしまったもの」

「それじゃ、協力してくれるんだ?」

「ま、そういうことね。ラグナロクの件はあたしにとっても無関係ではないし。そこの竜と協力するのはしゃくだけど。このラガ家のモクレン! アルビレオ殿にできるかぎ助太刀すけだちいたします!」


 彼女は華やかに笑った。

 なんだかいろいろ、人間関係にややこしいこじれがあったが(主にレイヴンに)、どうやら一件落着のようだ。 

 世界を救うには、いい出だしだ。

 これぞまさに乗りかかった船だね!

 約一名をのぞいて。


「レイヴン、君はその、大丈夫か……」


 後ろを見ると、ボコボコにされたドラゴンがソファに転がっている。

 ふて寝しているようだ。


「気にするな、俺の身から出たサビだ」


 おお。正確な自己認識だ。

 これから闇討ちに行くやつの発言とは思えない。

 僕は、腕組みして考えこんだ。


 なんか、みんな思惑おもわくがこんがらがってるな。


 クオンはレイヴンを殺したいらしく、モクレンはスカウトのついでにレイヴンに一言いってやりたかったらしい。エリックくんはお父さんを止めたいし、レイヴンの、目的は未だなぞだ。

 まあいいや、僕の目的だって、依然いぜん変わらず。ラグナロクがほしい! 

 それだけだ。

 そういう意味ではみんな目的がべつだ。

 敵だった人たちが今は、みんな一緒にいる。


「では、全員、世界監視機構員ってことで!」


 世界監視機構とは僕の作った僕のギルドだ。

 世界外殻の崩壊を監視し、崩壊を未然に防ぐための組織。

 つまり、世界を存続させるための監視機構、サーベイランス・メカニズムってわけ。

 幸先さいさきのいい出だしに、最高司令官としては乾杯だ。


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