イスランデ王バルムンド
蘇生は順調だった。
やっぱ銃の傷は蘇生しやすくていい。最悪なのはミンチ。もっと最悪なのは炎の上位精霊に魂ごと焼き尽くされることだね。チリになるともはやどこをどう蘇生していいやら。たとえば、灰のひとつまみをその人だと僕が認識できるかっていうレベルになる。
マクダレン教授は一命を取りとめたので、このまま協会内の一般治療室で治療を受けることになった。エリックくんもそれに付き合うらしい。
僕らはといえば、協会のラウンジに集まっていた。
魔導協会の地方支部は、視察に訪れた魔導協会員用の宿泊施設も兼ねていて、ラウンジより上の階には宿泊室があり、僕らの今いる一階ラウンジは会議用のテーブルやソファやテレビなんかが置かれている。
僕らの泊まっていたホテルはイスランデ兵士に襲撃を受けたし、魔導協会の支部はちょっとした治外法権だ。
下手に外に出るより、このままここにいたほうが安全、そういう判断なのだが……。
はたして本当に安全なのだろうか。
僕は、ラウンジのソファにもたれ、ぐったりしているレイヴンに視線をやった。
「なにがあったんだ、きみ」
僕が席を外している少しの間に、レイヴンは変わり果てていた。瞳は虚だ。
あ、いつものことか。
モクレンが代わりに答えた。
「あたしとこの男は知り合いなの、あたしはこの男の前の主人の臣下です」
「ライゴウは俺の主人ではありません」
力無くレイヴンが口にする。
「敬語!?」
僕は耳を疑った。ピシャリとモクレンが叱りつけた。
「殿下とお呼びなさい」
「今の俺の主人はアルビレオなので」
「自分の都合で、コロコロと主君を変えるものが信用されると思うか、邪竜」
「ぐっ……」
レイヴンにクリティカルダメージ。
視覚化できそうなほどに鋭い一撃だ。
「次は裏切らないなどと口走らないだけ、自己認識ができているようね」
「……俺は、ライゴウ……で……いや、ライゴウを裏切ってはいません」
すごい葛藤が見えたな。今。
こいつの過去───僕にとっては興味のない話だけど、イスランデに来るのをあんなに嫌がっていたのは、こういうことなのか?
レイヴンの元・職場はどうやら、かなりのブラックだったらしい。あのレイヴンが首輪をつけられたドラゴンのように大人しく叱られている。
どうやらこいつ、僕の元にやってくるのに、元・職場にたいそうな不義理を働いたようだな。
経緯を僕視点で思い返してみるが、任務失敗・即逃亡、敵側へ離反。うーん、たしかにそれは許されざる竜かも。
まあ、いいや。
僕は助け舟を出してやることにした。
「世界監視機構は、裏切りOKだよ、レイヴン! あと、僕のことはこれからアルビレオ様と呼ぶように!」
「アルビレオ様!」
「順応がはやい、はやすぎるだろ」
さっと素早く立ち上がって、レイヴンが僕の背中に隠れる。いや、隠れられないから。君の方が、デカいんだから。
こいつにプライドはないのか?
ため息をつく。
「ま、僕のモットーは、好きなことを好きなようにやれ、だ。君もそうするといい。最高司令官として許可しよう」
僕は頷くと、モクレンが言う。
「アルビレオ……甘やかしは良くないわ。特にその男についてはね。主従関係はけじめが肝心なのよ」
そんなことを言われても困ってしまう。
僕が主人だというのは、レイヴンが勝手に言っているだけで、誤解だ。
そもそも、僕は使い魔を持つ気は無いのだ。
僕が欲しかったのは、ただただかっこいいドラゴンだ。
最強・最高の魔力装甲に破格の格闘性能、エネルギー事象操作という概念に手をかける高等魔術に、世界で一番珍しいかっこいい見た目! マッハ2で飛び、城砦を蹴散らす地上最大の生物!
そんなやつが仲間だったら最高に楽しい!
だから、別に、レイヴンに特段、忠誠心や従者らしい振る舞いは求めていない。
道具なら、もっと使い勝手のいいものがいっぱいある。
それなのに彼を雇用したのは、単純にそれが面白いから。
だから、まあ、ケジメというのもな。使い魔にして、いうこと聞かせるってのも、趣味じゃ無いしなー。しおらしいレイヴンとかいうのも、なんだか気持ち悪いし、それもなー。だいたい、僕はこいつがいなくてもなんとでもなるし。完全にこっちはおもしろ生物要員として雇ってるから、いまさらなー。
だいたい、選帝侯との使い魔契約とは、生涯をかけるものになる。
一度したら最後、互いが死ぬまで離れられない。
そんなもの、面白くもなんともない。
僕はキリッとした顔で言った。
「彼の個人的な意思を尊重するよ。竜である前に彼は人だ」
「アルビレオ……それはありがたいが」
「人である前に僕のバイトスタッフだから、大武闘会には出てほしかったな」
「おい」
レイヴンを振り返ると、いつもより表情が死んでいるな。
僕はモクレンに視線を向けた。
彼女は彼女で、純粋に忠告してくれているだけだ。
彼女は魔物の使役術に詳しい東魔の呪師だ。
生き物を使役することにかけては、僕よりもよほど経験がある。
僕は、精霊や魔物の扱いは上手くないからな。そういうところ、見ていると不安になるんだろうな。
「警告ありがたく受け取るよ、でも、今は放任主義だし、レイヴンは……いいところもあるよ。たとえば……たとえば、なんだ」
「俺に聞くな」
僕は窓の外を見た。すっかり夜も更けてしまった。
いやはや、いろんなことがある一日だった。
戦わずして大武闘会を敗退したり、ダンジョンでリビングアーマーに追い回されたり、小型戦闘機械兵ブリッツに雷撃収束砲を撃ち込まれたりと散々な一日だ。
自覚すると疲労がやってきた。
「そんなことより、今はゆっくり寝るべきだね。僕ら、今日一日、ろくに休んでないんだから」
あくびが出る。魔術障壁を張って、変に魔力を消耗しちゃったな。
僕はモクレンに二階から上の宿泊施設に泊まるように勧めて、僕もこのイスランデ支部の司祭ベルリッツ君から借りた部屋に向かうことにした。
僕の後を当然のように黒コートの男がついてくる。
モクレンのとこから逃げるいい口実ができたとでも思っているのだろう。
僕はラウンジを出てから、レイヴンに告げた。
雇用主としていっておかなくてはならないことだ。
「レイヴン、裏切りはともかく、君が望むなら、いつでも僕の元を離れていいよ。君の自由にしていい。故国に帰る気があるなら、手伝おう」
魔導協会の全政治力を総動員したら、故郷に帰せないこともないだろう。
やつは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「何いってるんだ、今更。俺がいなかったら、困るんじゃないのか」
「困るけど、それならそれでしょうがない。別の竜でも探しにいくさ。希少種だけど、世界中探せばもう一人くらい、いるはずだ」
「おい、さすがにそれは聞き捨てならん発言だが……、本気か?」
「本気だが、なぜ冗談だと思うんだ」
レイヴンが焦った顔をしている。
個人の意思を尊重する、僕が先ほど言ったことは本心だ。それはつまり、僕から離れる自由もあるということだ。世界監視機構には退職の自由がある。
追いかけたりもしない。望まない人間を無理に引き止めることはできない。
「とにかく、君の意思を尊重するよ。後ろから刺すようなことは困るけど、僕に忠義立てする必要はない。あくまで、雇用主とバイトスタッフとして、僕のオーダーを守ってくれれば、それでかまわない」
「使い魔はいらないのか?」
レイヴンが真剣な顔つきで聞く。
「……使い魔を持つ気はない。君のためにもならないし」
「どういう意味だ」
いいかげん教えておいたほうがいいだろうか。
僕は思案した。
「そうだな……、今、言えることはこれだけだな。君は王になりたくないんだろ? それなら、これ以上、この件に関わるな。下手に僕の事情に関わると、アルスノヴァの思惑に巻き込まれることになる」
「どういう意味だ、それは……お前はその思惑に巻き込まれてるのか?」
レイヴンに教えるのはここまでだ。
僕は指を鳴らして、転移した。
あっという間に視界が切り替わり、僕は視察員用の客室にいた。協会の司祭が個室を貸し出してくれていて助かった。
狭い寝室には最低限のベッドと机が置いてある。
トランクケースをドアの近くに置いて、靴を脱いで、ジャケットを放り投げる。
僕はベッドのそばまで歩くと、倒れるように寝転んだ。
予定にない蘇生魔術のせいで、魔力がすっからかんだ。
レイヴンには悟られずに済んだけど、今日の僕は体力の限界だ。次元呪縛牢内で無闇に消耗したのもあるな。あれは楽しかった、けど疲れたな。
そのせいか、思考も朦朧としてきた。
僕は目を閉じた。
彼を使い魔にすると、彼は超特大級の厄介ごとを引き受けることになるだろう。
三千年分の負債だ。魔王の後継者となるべく、幾度も残酷な争いが繰り返された。
空位の玉座の重さは、世界の重さと言い換えてもいい。
今まで現れたどんな勇士も、強大な魔族も、その重さを背負えなかった。
世界の重さにすり潰されて、君流にいうなら機構の前に膝を折る。
なんてね。
僕はもう寝よう。
明日からはラグナロクの動向を探さなくては。
仕切り直しだ。
*
「仕切り直しです」
車の中で、アラン・篠崎は言った。
レイヴンとクオンの戦いが始まったと見てとるやいなや、部隊をまとめてこっそりと逃げ帰っていた男である。
そのくせ、こちらがレイヴンとの戦闘に敗退したことだけはきっちり知っていた。
戦闘を終えた後、路肩に停めた車から呼び止められたクオンは、このイケすかない諜報官と向き合う羽目になった。忌々しい展開だ。
これだから、情報局は好きになれない。
「では、イスランデの任務をあきらめると?」
クオンは冷ややかな眼差しを運転席に向けた。
「そうは言っていません、態勢を整えるだけです。ことが多くなりすぎた」
諜報官がフロントガラス越しに前方を見る。
警察によって入り口が封鎖されたホテル・イスランデが見える。
ひどい有様だった。
これはニュースで見たことだが、一階、カフェテリアで不審なガス爆発が起こったそうだ。
ホテルにいたはずのモクレンとの連絡はつかない。
「バルムンド王がここまで抵抗するとは予想外でした。イスランデ側の動きが速い。すでに市内には我々への追手がかかっていますよ。情報局の手に負える事態ではありません」
いけしゃあしゃあと言ってのける諜報官に、クオンは詰問した。
「逃げるのですね」
「クオン管理官、聞き分けていただきたいですね。バルムンド王は本気で我々を殺す気ですよ。現に、モクレン殿はイスランデ兵士により襲撃されたとの情報があります。イスランデ陸軍特殊部隊が投入されたようで……いや、ブリッツの電磁収束砲の威力は凄まじい、至近距離から浴びれば、ひとたまりもないでしょうね」
なぜ、それを知っているのか。
クオンは聞かずに、批判するにとどめた。
「……弱腰ですね、宮廷呪師を見殺しにしたのでは?」
「彼女も危険は承知の上です、彼女はあくまで第一王子の魔導士であり、我々はあくまで国家の安全保障のために仕える役人です。義理はありません」
薄っぺらいことをのうのうとほざく男だ。
クオンはこの男を軽蔑した。
同胞を見捨てて去るのは卑怯者のやることだ。
「ま、ご理解いただきたい、元々、私とあなたも協力関係とは名ばかりでしたし、あのバカガラス……いえ、元・戦争管理官のレイヴンまで出張ってきているのでは、私に益はありません。この事件は終わりです、ここで。ここから先は、仕事ではなく、趣味の領分だ。あなたがどうするかまでは知りませんがね」
これ以上、この男と話していても無駄だ。
クオンは黙って運転席から出ようとドアに手をかける。
その際に、諜報官はついでのように言った。
「ああ、そうだ、管理官、そのレイヴンの居場所ですが、こちらは入手可能でした。魔導協会イスランデ支部。よければ訪ねてみるといいでしょう、まだ任務を続ける気が、あるのならですが」
それを聴き終えて、クオンはドアから出た、勢いよく扉を閉める。
諜報官の乗る車が走り去る。
クオンは、それを見送り、ホテル・イスランデに目を向けた。
魔導協会イスランデ支部、行ってみるべきだろうか。
クオンは少し考えた。
灰色のコートのポケットから携帯を取り出し、イスランデへと連れてきていた偵察班へ連絡をとる。
偵察班には、即刻、イスランデでの作戦行動の停止と、即時撤退の指示を出すと、クオンは携帯をポケットにしまった。
あの諜報官はいけすかないが、ある意味では正しい。事態がここまで拗れてしまった今、イスランデ国内で作戦を遂行することは難しい。頭数は不要だ。
ここから先は、戦争管理官一人でいい。
───あの男と決着をつけねばならない。
脳裏に、一人の男の姿がよぎる。
あの諜報官の指摘通り、認めるのは癪だが、ここから先は、任務ではない。
意地だ。
とはいえ、先程、別れたばかりだ。すぐにイスランデ支部に向かうというのも、正直にいうと、気まずい。
クオンは考えて、明日の早朝に向かうことにした。
*
早朝。
予定よりも寝過ぎてしまった。しかし、気分は爽快だ。
太陽燦々、お日様サイコー。一夜明けると僕はスッキリ全回復していた。
昨日のセンチメンタルはなんかのバグ。魔力が弱ると、心も弱るから困りものだ。
今日も今日とてラグナロク探しである。
僕はラウンジに姿を現した。
「おはよう! ごきげんよう、みんな! あれ、なんだ、どうなってるんだ、この空気は」
ラウンジに重たい雰囲気が流れている。
メンツはこう。暗い顔のレイヴン、涼しげなモクレン、それにもう一人、生真面目そうな顔の、なんだっけ、クオンとかいう人がやってきている。
ラウンジの丸テーブルで、二人の女性に挟まれたレイヴンがなんだか死にそうにおし黙っている。
朝ごはんがテーブルの上に出来上がっているというのに、誰一人、パンにもオムレツにも手をつけていない。
協会員たちのために供される食事は簡素なものだが、それにしたって、異様だ。
僕は、ラウンジにいたエリックくんに聞いた。
「なにこれ、どーなってんの?」
エリックくんは、マクダレン教授の付き添いで、支部に泊まったようだ。
彼もちょっと気遣わしげな表情をしている。
「いや、くわしくは知らないんだけど、俺が見たところ、昔の女、昔の女、そんで男の図だ」
「不逞の輩だ」
僕が納得していると、地を這うような声が聞こえてきた。
「違う」
クオンが頷いた。
「そうですね、私は昔の後輩です、まあ、あくまで昔のですが」
モクレンが次にいう。
「昔の同僚よ。不名誉な勘ぐりはやめてほしいわね」
東魔サークルが出来上がっている。イスランデってすごいな。レイヴンが言うように、東部の魔族がウヨウヨだ。
なんだか不穏な空気を撒き散らしている連中は無視して、僕はエリックくんに聞いた。
「マクダレン教授の様子はどうだい? 体に不調は? 意識は鮮明?」
「ああ、おかげさまで、ちょっとずつ回復してきてる。明日には、歩けるようになるかもって、司祭のベルリッツさんが言ってたぜ」
「そりゃ、良かった、何事もないのが一番だ」
「あんたにも世話になったな」
エリックくんが神妙にいう。
「別にいいよ。できることをしただけさ」
「……あんたも、それを言うんだな」
「なに? それよりお腹減ってない? 君も朝ごはんにしようよ」
僕はそう言って、エリックくんを連れてきた。
東魔サークルのレイヴンの真向かいに座らせる。
「いや、俺は」
躊躇するエリックくんに、レイヴンが地を這うような声で言った。
「食っとけ。いつでも、どこでも、食べれる時には食べるんだ」
今のこいつがいうと、異様に含蓄のある言葉だ。
後輩からのチクチクした視線に耐えて、レイヴンはパンを齧りはじめた。
砂の味しかしなさそうだ。
僕もおおむね同意だ。
エリックくんになにがあったか知らないけど、昨日から、教授の付き添いでろくに食べてないんじゃないかな。
「それじゃ、お言葉に甘えて」
エリックくんは押し切られたようで、恐る恐るパンに手を伸ばす。
地獄めいた食卓だ。
僕はソファに座って魔導演算端末WANDを開いた。
僕がすべきことは何か。ジメジメしたテーブルの仲裁か。死んだ顔をしているレイヴンに助け舟を出してやることか。
───否。ラグナロクの捜索である。
WANDから、武闘会の運営用アプリに忍び込む。
ラグナロクの現在の行方は知らないが、東魔陣営に渡っていないということは正式な所有者の手に戻ったのだ。
となると、一番、大本命は、大武闘会である。
ラグナロクは優勝者に与えられる景品だ。
武闘会の運営用アプリには蟲を常駐させているから、いつだって様子を監視できるし、ここから参加者の個人情報を取得することもできる。
僕はそこですごいものを見てしまった。
本日行われる大会本予選、Dブロック第一試合の対戦者の名前だ。ちなみに、大会には一次予選があり、そちらはブロックごとの約200名の戦士たちによるバトルロワイヤルで、そこから勝ち上がった8名が本予選へと進出できるという過酷な形式だ。
僕はWANDを放り出して、急いでテレビをつける。
「これ! これを見てくれ!」
テレビでは、本予選第一試合が始まっているところだった。
クオンがコーヒーを置いて、テレビに目を向けた。
「なんですか、大武闘大会Dブロック、第一戦出場者、バルムンド・ガルケル? この国の王様じゃないですか」
「そういうこと。しかも、これ! ラグナロク持ってるし」
視線が自分から逸れて、気が楽になったレイヴンが呑気に言った。
「へー、大武闘会か、本予選出場者が王様だなんてやるなぁ、盛り上がるだろ。イスランデ王はやり手だな、自らイベントを盛り上げると……は……」
出場ゲートから現れた人物を見て、彼の目が、見開かれる。
「むっ、なっ、えっ、嘘だろ、あれ」
「何がどうしたんですか」
「あの時のっ、あのジジイ、イスランデ王だったのか!?」
レイヴンが椅子から立ち上がる。
テレビに映っているのは壮年の勇壮な人物だ。
───イスランデ王バルムンド。
僕は面識はないが、今の言い方だと、こいつは何か知っているようだな。
クオンが慌てふためくレイヴンを前にして、冷淡に言った。
「あの時はびっくりしましたよ、普通にイスランデ王を手にかけようとしていたので」
「い、言えよ、早く、そういうことは……」
「言おうとしました! だから、止めたじゃないですか」
何があったんだ。
僕のいない間に。何をしてるんだ、こいつは。
「あそこで成功していたら……俺は今頃」
「正真正銘、王殺しの大犯罪者ですよ」
レイヴンが真っ青になっている。なんだこいつ。斬る前に考えろ。僕がいない間にうっかり大犯罪者になるな。
それよりもだ。
「ラグナロク入手ってなに。僕そんなこと君に命じたっけ」
「ケースバイケースで臨機応変に考えました」
謝罪が早い。
プライドがないのはいいが、考えなしはやめろ。
問い詰めようか迷っている間に、テレビから大歓声が聞こえてきた。
Dブロック出場者。
国立競技場に設置されたリングに、バルムンド王が出陣する。
鋼の鎧に身を包み、緋色のマントが翻る。
手には赤い刀身のラグナロクが輝く。勇壮な一騎。
「ラグナロクだ」
バルムンド王が、聴衆に手を振ると、会場がさらなる喝采に包まれる。
対する相手は、これも歴戦の勇姿だ。
エントリーネームは『100人斬り隊長・疾風の剣のファルコン』。
「強そうだな」
僕がつぶやくと、レイヴンが言った。
「俺の方が強い」
出場してから言え!
「100人斬りは微妙ですね。せめて200人はないと、自慢にもなりませんよ」
「だな。100人斬りはそこらへんの辻斬りですら達成可能だもんなぁ」
「先輩、覚えてますか、あの辻斬りの……99人斬りのツクモですよ」
「覚えてる覚えてる。あんときは面白かったな、俺たちが警察と協働するなんて滅多になくて、99人斬りの警察隊長との戦いは熾烈だったな」
「あれ、結局どっちが勝ったんですっけ?」
「しびれを切らしたアカガネが両方ともラリアットでぶっ飛ばして勝った」
「あの日の任務は人死にが出なくて本当に平和でしたね」
「ああ、内地もたまにはいいもんだと思ったぜ」
胡乱な思い出話に花が咲いている。
非人情的な東魔の使い手たちだった。
会場の活気と熱狂。王自ら出場する大武闘会本予選の初戦。
盛り上がらないわけがない。
僕は立ち上がった。WANDをトランクに戻す。
「こんなのテレビ見てても面白くない! 見にいこう、現地に!」
「大武闘会に?」
レイヴンが聞き返す。
「そうだよ、ラグナロクの性能を現地で確認するチャンスだ。マクダレン教授も生きてるし、エリックくんも行くだろ、君のお父さんが出てるんだし、気にならない?」
「い、いや、俺は……」
「見に行った方がいい。死ぬかもしれんのは本当だ」
レイヴンは無感動に言う。
この大武闘会の免責同意書のことを僕は思い出した。
曰く、出場者は生死問わず。
敗北した際、何があろうと、一切の責任を自ら引き受ける、という文面だ。
この大会の出場者には生死の危険がある。
エリックくんがレイヴンをチラと見た。
「あんたがそういうなら、俺も行くよ」
なんかいつの間にか、仲良くなってないか。
本当に、何があったんだ、僕のいない間に。
クオンも頷いた。
「……大武闘会の観戦ですか。悪くないですね。もう任務になりませんし。私も同行しましょう」
モクレンも同意した。
「ぐだぐだしすぎではないかしら? でも、アルビレオの捕獲にも失敗したことだし。そうね。ライゴウ殿下にも、いい土産話になるかしら」
僕の捕獲ってなんだ。僕は珍獣か。
めいめい勝手なこと言ってるし、何故かみんなついてくることになってるが、まあ、いいか。
こういう試合の観戦は大所帯の方が楽しいものだ!
「よしっ、決定! 大武闘会観戦だ! まずはチケット買いに行こう!」
僕はトランクケースを持って、ラウンジを出た。
向かう先は、イスランデ国立競技場だ。




